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蓬を磨り潰したものは、切り傷に塗ると消毒効果が期待できるとされている。
初めは野草を扱う事に慣れず、抵抗があった人々だが、元を辿ればこのような草花の研究を経て、薬が誕生している。
嘗て服用したり、塗布したりしていた馴染みある薬など、もう無い。
こんなに変わり果てた地球でも、引き続き懸命に生き永らえる為に、薬をなんとか生み出そうとしていた。
4人の空島からの帰還を機に竜の精霊達が訪れた事で、島に植物がより多く発見されるようになってから、植物科学に詳しいアイザックは意気込んでいた。
元は寡黙な性格だが、得意が活かされるようになってからは明るく過ごせている。
日々、慣れない島暮らしをする中で俯く事は多かったが、こうして変われたのもまた、空の神々のお陰だ。
レックスが未だ目を覚まさずぐったりと横たわっている側を、彼のパートナーは一切離れる事なく見守っている。
太陽は早くも傾き始めていた。
僅かに開いていた窓の隙間から射し込む淡い陽の光が、横たわる彼の体の上でそっと揺れている。
この場には南から来た老人、スタンリーがいる他、長老とアリー、自宅から出直したマージェスがいた。
グレンとカイルは、漁船の修理を進めている。
しんとしたレックスの家では時折、頭を悩ませるように小さく唸る声がした。
長老は漁船での出来事を聞き終えると、硬い表情のまま、火の粉を立てる薪に目を向けて黙っている。
マージェスは首筋を搔き、何が起ころうとしているのかと、不安を宙に描いていた。
レックスの深傷は、見るからに縫合せねばならない状態だ。
しかし現状、止血と消毒の応急処置までしかできない。
南にいる技術者に会うまでに、彼は持ち応えられるのか。
このような場合、最悪過ぎるのは切断だ。
それに皆の顔が青褪める。
片や、現れた人魚と、スタンリーが捜索する行方不明の親子が気がかりだ。
「………喰われたなんて事はないか…」
長老の鋭利な目に横入りする、揺れる炎。
低い声に被さるように、真っ先に素っ頓狂な声を上げたのはスタンリーだ。
だが、断じてそれは無いなどとは言い切れない。
「探しに向かった島に…何かしら痕跡は無かったか…
乗っておった船の残骸………
喰われたと仮定した場合……骨や肉片……
近辺で血が滲んでおったなど…」
「おいおいおいおいおいおい止めてくれそんなおっそろしい!」
スタンリーは長老の言葉に血の気が引き、慌てる。
彼や他の南の住民はただ、一般的な人探しをする感覚で動いていた。
人魚なんて誰が想像するだろう。
それも、人喰いの類など。
長老が言うような事は、誰も思いつく筈もなかった。
「しかしじゃ、スタン……
見たろう……ただ事ではない……
急に出ていく事が考えられんのなら…
襲われた可能性も視野に入れんと…」
その親子とは決して、仲違いしていた訳ではない。
南でも東同様、皆が結束して生きているとスタンリーは言う。
再び沈黙が生まれ、火の粉が上がる音を背に、長老は視線を窓の外に向ける。
そして、どこか急いだ様子でマージェスを振り返った。
「あの子等はどこにおる……」
4人が気がかりだ。
以前、西の海底の沈船に封じられていた、グリフィン。
彼を囮に、彼等は魔女に誘き寄せられた。
現実離れも一体どこまでか、次は人魚ときている。
恐ろしい事この上ないその者共の目的は、何か。
「チビ共といると思うがな……」
マージェスも、ここへ来るまでに彼等の姿を見た訳ではない。
「…………他の者にもじゃが
浜に寄らんよう言ってくれ………
片した訳ではない今……油断できん……
何かは来る……」
暗く落ちる長老の目はそっと、曝け出されたレックスの右足に向く。
傷を合わせるように布で硬く包み、締め付けられていた。
そこには薄っすらと、血液と緑の薬草の色が滲んでいる。
今は静かに寝息を立てているが、直に激痛に襲われるだろう。
この静かな内に、一刻も早く施術ができる南への移動を実行したいところだ。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




