(13)
ビクターはロープを切断するとほぼ同時に、帆と帆桁の重みで瞬く間に上昇した。
展望台の縁に即刻辿り着くと、そのまま反動をつけて飛び移る。
そこの柱から伸びるロープは、相変わらずシェナを風に靡かせていた。
ビクターはそれを掴み、彼女を手繰り寄せていく。
随分と軽く感じるのは、彼女が軽いからという訳ではない。
先程からコントロールされるように吹く風は一体、何だ。
生きたような動きを見せるそれはまるで、真下の危機の渦に彼女を下ろすまいとしているようだ。
「掴まってろ!」
「放せる訳ないでしょうが!」
彼女のあらゆる感情を乗せた声に合わせ、風が不思議とこちらへ導いているように感じる。
ビクターは妙な感覚に気を取られ過ぎないよう、展望台の縁に踏ん張り、手を動かす事に集中した。
漸くシェナに届くと、胴体から抱えて展望台に着地させてやる。
「何してんだ!下降するなら手ぇ緩めろよ!」
「見てたでしょ!?
ロープが真横に伸びてっちゃうのよ!」
それはそうだがと、ビクターは掴んでいたロープを眺める。
至って普通の造りをしたこれは、ただ漁師達が作ったものだ。
ましてや自分達人間に、魔力などない。
やはり風かと、ビクターは一瞬、空島で見た彼女の光る声を思い出す。
魔女が彼女の喉から捥ぎ取ったそれは、金色の炎のようで、それはそれは美しいものだった事を。
「ちょっと!下りるわよ!早く!」
シェナはしかし、気にせず囃し立てながら網を伝いかける。
その時、船の外から轟々と立つエンジン音が、体を振動させた。
2人はそのまま展望台から覗くと、船の両脇から2隻のジェットスキーが現れた。
レックスとグレンは海面に激しく降り立つと、ライフルを海中に向けて同時発砲する。
「殺しちゃうの!?」
「脅しだろ」
彼等は人魚の影が蠢くそこに突っ込むと、小回りを効かせて群に飛沫を放ち、更に連続的なエンジン音で視線を向けさせた。
ビクターとシェナは青褪める。
一切怯まない海上の2人は、一気に海面に白い波の直線を描き始めた。
人魚の視線が彼等に向き、漁船に集る群は傾れの如くジェットスキーの方へ向かう。
外の彼等の影響で、船内を襲撃する人魚は減った。
その隙にカイルは、柱に突き刺さる荒れ狂う1体に接近する。
傷口から滴る血は尾鰭と柱を伝い、麓に緑の血溜まりを作っていた。
それに誰もが顔を引き攣らせる。
「お宅ら…一体何だ…」
恐々と呟くカイルだが、一驚上げた人魚は、彼の顔に泡と血を激しく飛ばすだけで、言語を持たない。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




