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 ビクターはロープを切断するとほぼ同時に、帆と帆桁(ほげた)の重みで瞬く間に上昇した。

展望台の縁に即刻辿り着くと、そのまま反動をつけて飛び移る。




そこの柱から伸びるロープは、相変わらずシェナを風に靡かせていた。

ビクターはそれを掴み、彼女を手繰り寄せていく。

随分と軽く感じるのは、彼女が軽いからという訳ではない。

先程からコントロールされるように吹く風は一体、何だ。

生きたような動きを見せるそれはまるで、真下の危機の渦に彼女を下ろすまいとしているようだ。




「掴まってろ!」



「放せる訳ないでしょうが!」




彼女のあらゆる感情を乗せた声に合わせ、風が不思議とこちらへ導いているように感じる。

ビクターは妙な感覚に気を取られ過ぎないよう、展望台の縁に踏ん張り、手を動かす事に集中した。






 (ようや)くシェナに届くと、胴体から抱えて展望台に着地させてやる。




「何してんだ!下降するなら手ぇ緩めろよ!」



「見てたでしょ!?

ロープが真横に伸びてっちゃうのよ!」




それはそうだがと、ビクターは掴んでいたロープを眺める。

至って普通の造りをしたこれは、ただ漁師達が作ったものだ。

ましてや自分達人間に、魔力などない。

やはり風かと、ビクターは一瞬、空島で見た彼女の光る声を思い出す。

魔女が彼女の喉から()ぎ取ったそれは、金色の炎のようで、それはそれは美しいものだった事を。






 「ちょっと!下りるわよ!早く!」




シェナはしかし、気にせず(はや)し立てながら網を伝いかける。




 その時、船の外から轟々と立つエンジン音が、体を振動させた。

2人はそのまま展望台から覗くと、船の両脇から2隻のジェットスキーが現れた。

レックスとグレンは海面に激しく降り立つと、ライフルを海中に向けて同時発砲する。




「殺しちゃうの!?」



「脅しだろ」






 彼等は人魚の影が蠢くそこに突っ込むと、小回りを効かせて群に飛沫を放ち、更に連続的なエンジン音で視線を向けさせた。




 ビクターとシェナは青褪める。

一切怯まない海上の2人は、一気に海面に白い波の直線を描き始めた。

人魚の視線が彼等に向き、漁船に集る群は傾れの如くジェットスキーの方へ向かう。






 外の彼等の影響で、船内を襲撃する人魚は減った。

その隙にカイルは、柱に突き刺さる荒れ狂う1体に接近する。

傷口から滴る血は尾鰭と柱を伝い、(ふもと)に緑の血溜まりを作っていた。

それに誰もが顔を引き攣らせる。




「お宅ら…一体何だ…」




恐々(こわごわ)と呟くカイルだが、一驚上げた人魚は、彼の顔に泡と血を激しく飛ばすだけで、言語を持たない。









代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


8月上旬完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




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