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 ビクターが落とした帆などの下敷きになった人魚達は、マージェスとジェドの手で外へ返された。

その後ジェドは踵を返し、柱に打ち付けられた人魚の方へ向かう。




 マージェスはそれを見届けながら、碇と網を上げようと指示するところ




「わしゃ帰れるんかのう!?」




真横にぬるりと現れる南の老人に声が裏返る。

彼もまた、すっかりその存在が抜け落ちてしまっていた。




「ああじいさん……

おいまさか、あんたがこいつ等連れて来たのか?」



「んな訳!わしゃ魚は好かん」



「はん!?この期に及んで何言ってる!

時代は変わった!おっかねぇ程にな!贅沢は無しだ!

動くなら手伝え!漕ぐぞ!」




早口な彼を前に、何て恐ろしい船長だと老人は青褪める。






 その頃フィオが、人魚の傍に来たジェドに飛びついた。




「ぶわっ!何だ!」




ジェドは彼女に両頬を持たれ、強引に首を捻られると、顔を覗かれる。

激しく抵抗されるのも他所に、彼女は真っ先に彼の目を確認した。

老人が言う灰を被ったようなそれは、やはり、どこにも無い。

彼の顔は人魚の緑色の返り血で汚れ、鼻を突く異臭がするだけだ。




「放せって!」




彼はいつも通り乱暴に、激しく逃げる。

そう、いつも通りだ。

老人の勘違いだろうと、フィオは小さく安堵し、何でもないと謝る。




 ジェドは何も言わず、体中の汚れを拭う。

そこには少々、強い言い方になった事を気にする素振りがあるが、静かに槍を仕舞うに留めた。




 彼等がもつ槍は、伸縮性がある優れもの。

不要の際は、30cm程の長さに納められる。






 柱に打ち付けられた人魚もだが、群を誘き寄せ続ける外の2人も気がかりで、皆は船縁に寄って集った。




 柱の人魚は悶え、苦しむように(しゃが)れ声を上げ続けている。

手はただただ宙を搔き、その度に、口や爪から血が飛び散った。




 フィオはその声に恐る恐る振り返る。

どういう訳か、泣いているように感じてならない。

息苦しそうな様子は、陸に上げられた魚に似ていた。

傷付けられた事で、みるみる弱っていくのが明らかに分かる。

しかしそれは、単に体が弱っているだけではないようにも思えた。






 「ねえ!あれ!」




展望台からのシェナの声に、船内の皆はその方角を見上げる。

彼女が指し示す先は、レックスがジェットスキーで走行しているところだが




「………割れてる…!?」



「はあ!?」




カイルの呟きに合わせ、マージェスが目を擦る。




 同じ景色が漁船を取り囲むように並ぶ中、更なる不気味な現象が重なる。

広がる灰色の大海原の風景に、透明の亀裂が一筋走っていた。

何か悪い夢でも見ているのかと、ただただ一斉に目を疑う。




「訳が分からん!お前等!

空のおっかねぇ奴、倒してきたんじゃないのか!?」



「倒したっ!」




マージェスの力強い問いに、傍にいたジェドが噛みつく。




「全部綺麗に戻ったわ!再生の歌で!」




フィオも慌てて事実を話す。




「関係ないわおじさん!

空島にこんな人魚なんかいなかったわよ!」




少々怒りを込めたシェナの声が、頭上からストンと落ちる。

その時、床を弾いた冷風に、皆が身震いした。

暗い曇天に今も騒ぐ、外の人魚達。

不快な声が籠り続けるこの空間から、どうして脱出すればよいのだろうか。









代表作 第2弾(Vol.1/前編)

大海の冒険者~人魚の伝説~


8月上旬完結予定

後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって

シリーズ完全閉幕します




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