(10)
こうしてはいられないと、シェナはやはり、展望台から下りて皆に合流しようと決めた。
普段通り網を伝っていては、もたもたしてしまう。
何かいい方法はないかと模索し、不意に掴んだのはロープ。
柱に巻かれたそれを解くと、固定を確かめるべく、数回引く。
カイルやレックスがするロープ下降はした事がないが、何度も見てきて知っている。
彼女は展望台の縁に攀じ登ると立ち上がり、戦い続ける仲間達を見下ろした。
強い風を受けてピンと張る帆の音に、漁船の揺れが軋み音を上げている。
身を貫くような冷風が吹き荒れる中、シェナは踏ん張ってロープを両手で握り、口をきつく結んだ。
ここの誰よりも高い位置にいる。
少々怯むがしかし、自分は、空島の高い城から竜の口を目指して飛び降りた。
それを思えばこのくらい、何ともない。
体の前でロープを掴み直すと意を決し、縁を蹴って宙に飛び出した。
だが
「わあああーーー!」
彼女の恐怖に満ちた絶叫と共に、強風が長く、力強く吹き荒れる。
彼女は風に靡き、大気に尾を引いているようだ。
人魚や漁師達、3人までもが風で立位を乱し、視界を髪や飛沫で遮られていく。
「「「シェナ!?」」」
下の者達は青褪める。
下降どころか彼女は、ロープをしっかり握って放さない。
できる筈がなかった。
ロープは垂れ下がるどころか宙を微かに上下し、まるでシェナを凧のように泳がせているではないか。
彼女は風を受けて膨らむ帆に衝突し、鈍い声まで溢している。
「助けてーーー!」
人魚の緑の血に汚れるビクターが、1体を海に投げ飛ばした直後、シェナの真下へ駆けた。
「手ぇ緩めろバカ!」
しかし、彼女に目を奪われている場合ではない。
人魚達はまだ、船内で狂気を放ちながら襲撃を繰り返している。
「キリがないわ!」
フィオが声を張ってカイルを振り返った途端、後方から影がみるみる伸びて覆い被さる。
「屈め!」
カイルが怒鳴りながら槍を投擲。
フィオは瞬く間にしゃがむと、頭上にそれが通過する風を感じた。
彼が投げた槍は、フィオの後方から迫っていた人魚の右肩を貫き、そのまま船の中央の最も太い柱に打ちつけられる。
「おい死んじまったんじゃ!?」
グレンが慌てるところ、レックスが3体目を投げ捨てたところで槍を仕舞う。
「してられるか!外へ気を逸らす!
その隙に島を探せ!」
彼は、予め積み込んでいるジェットスキーで海上に出て、この群を自分に引き寄せると言う。
「なら2手だ!」
レックスが去ろうとするところ、グレンが肩を掴み、そのまま先を越して下のフロアに消える。
レックスは急ぎ後を追った。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します