(9)
マージェスは船室の上に素早く攀じ登り、船内を見渡した。
まるで旅客船と呼べる程の乗船者数になっている。
悍ましい事この上ない人魚達に、後の漁師達も四苦八苦していた。
レックスが相手にする1体は小柄だが、両腕を掻っ切る速度は目まぐるしい。
昔は喧嘩っ早い性格で、今もどこかその気はあるが、ここまで素早い取っ組み合いは経験がない。
引っ搔かれる間際のところ、手にする槍で防御し、躱し続けている。
相手の動きが弱まった隙を狙い、横面に1撃。
横転した人魚が起き上がるところで胸部を1つ蹴り上げ、それが後方へ大きく仰け反り体勢が翻ると、首を掴んで引き寄せ1発殴打。
よろけた人魚は無抵抗に苦しみ、牙や爪を立てずに唸る。
俯く体勢を機に、腰を抱えて船縁に乗せ上げ海へ落とした。
それでも次々飛び込む人魚は、時に僅かな垂直飛びを見せた。
鏡の鱗が並ぶ尾鰭もまた鋭利で、鮫の歯を想像させる。
床を少々跳躍し、大人の身長を超えたところで爪と牙を立て、噛みついてくる。
そこをカイルが、手にしていたライフルを背に回すと槍に持ち替え、人魚の口に噛ませた。
一時、互いの額が衝突しそうな距離で睨み合うと、人魚の腹を蹴って槍ごと後方へ吹っ飛ばす。
船の柱に衝突した人魚の口から槍が放され、彼は透かさず拾うと、横面、胴体と連続的に殴打。
相手は爪で更なる抵抗を見せるが、手ならばと、槍で深く突き刺す。
悲痛の叫びを上げる人魚だが、間を置かず胴体を持ち上げ、見事、海に転げ落としてやる。
しかし入れ替わるように、1体が飛び込んでくるではないか。
カイルの頭上を跳び越え、彼は後方を振り返り焦りの顔を見せる。
その先には銃を構えるグレンがいたが、マージェスの指示通り、発砲せずそれを上手く接近武器として扱った。
人魚が飛び込み、迫りくる角度はベストな向き。
鋭利な爪を真っ直ぐ突き出し、大口を開けて悲鳴を轟かせる。
今にも頭を喰い千切るつもりかと、グレンは見定めた開いた胸部をライフルのストックで勢いよく突いた。
嗚咽する人魚はそのまま接近を断たれ、床に墜落。
転がり、腹が晒されたところを狙って2回、3回と彼は踏み込む。
その度に骨の軋みを感じた。
泡を口から零す人魚は唸りながら、グレンの足を掴もうと上体を起こす。
だが、起き上がる顔面に合わせてライフルの向きを変え、銃身部分をスイングして殴打。
人魚は床に頭部が減り込みそうになる。
動きが弱った隙に、尾鰭の根元を両手で掴んで船縁まで運ぶと、そのまま海に戻した。
変わらず3人の子ども達までもが槍やナイフで戦闘を続ける中、マージェスの舌打ちが鳴る。
船の揺れは更に激しく、外側から大量の人魚の群が喰らいつき、沈めようとしていた。
「おいお前等!
こいつぁ空の姉ちゃんにもらった大事なもんだ!
壊させるなよ!」
マージェスは怒号を放つと、その場から飛び降りる。
狙っていたか、真下に接近していた1体の人魚をそのまま踏んづけて着地。
彼はこの中でも体重が重く、勢いがついた落下に人魚は圧迫された。
どの攻撃を受けた人魚よりも、動かなくなっている。
彼はぐったり俯せになるところに広がる長髪を掴むと、床を引きずり、瞬く間に海へ投げ飛ばした。
代表作 第2弾(Vol.1/前編)
大海の冒険者~人魚の伝説~
8月上旬完結予定
後に、代表作 第3弾(Vol.2/後編)
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって
シリーズ完全閉幕します




