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第41話 遊戯者の最期・2

 前半の続き!

 オメガたちはその無人島の砂浜にラムダを埋葬した。そして簡素ながらも目印となるように流木で造った木製の十字架を建てた。


「いつか……」


 とオメガは言う。


「いつか、ちゃんとしたお墓を建ててあげましょう」


 ガンマは無言で頷いた。


 *


 スターペンドラゴンとティンダロスは帰艦したオメガたちを乗せるといよいよ最終目的地、海底遺跡ルルイエへの航海を開始した。

 ティンダロスに帰艦したガンマを、アギリが迎える。


「おかえり、ガンマ」


 格納庫にて、コックピットから降りてくるガンマにアギリはそう声をかけた。


「ただいま……」


 ガンマは言った。


「辛かったんなら……」


 アギリが言い終わる前にガンマは彼に飛びついた。そしてその胸元で涙を流した。


 *


 ディーナ・オルレアンはティンダロス艦内の廊下でミラとばったりと出くわした。


「ミラ」


 ディーナは声をかける。


「指揮官……」


 ミラは立ち止まった。


「ゼロムの……具合はどうだ? やはりまだ何も思い出さないのか?」


 ディーナは尋ねた。


「思い出さない方がいいのかも……」


 ミラはボソリと呟く。


「本人が封印したくて忘れている記憶なら、あえて思い出したりしない方が……」

「そんなことはない、と私は思うがな」


 ディーナは言う。


「私だってシルフィの姉だということがわかって良かったと思っている」

「でも……指揮官は思い出してはいないでしょう?」


 ミラが言った。


「指揮官が知っているのはあくまでも『自分がシルフィの姉である』という事実だけ、そんなもの思い出でもなんでもない。でも……あたしは、ううん、あたしにもウィンダーにもアギリにも、思い出したくない記憶はある……。だから、過去のことは知らない方が幸せなのかなって……その方が、心から笑えるのかなって思って……」


 ミラはそう言うとディーナとすれ違い歩き去った。


「私は……」


 ディーナは呟いた。


「私は、何者なのだ……?」


 *


 スターペンドラゴンとティンダロスがルルイエ遺跡に向かう最後の補給地として立ち寄ったのは南ローリー大陸の南端にあるプンタアレナスの街だった。南極に近いため少し肌寒いその街は、どこか北欧を思わせるような街並みだった。

 オメガはアギリとウィンダーを伴って街の雑貨屋を見て回っていた。


「もうこれが最後のチャンスですからね……クローネさんの誕生日プレゼントを買う……」


 オメガは言った。


「ま、この前はとんだ邪魔が入っちまったからな……」


 アギリは北欧風の雑貨を眺めながら言う。


「それに……ピッタリだと思いません? 北欧系のクローネさんのために北欧風の雑貨を買ってあげるのって……」

「お前にしてはよく考えたぞ」


 アギリはオメガの頭をからかうように撫でた。


「『しては』ってなんですか!?」


 オメガは文句を言う。ウィンダーはふたりとは少し離れた位置でティーカップ類を眺めていた。


「ウィンダーも……もう少し……」

「俺は……」


 ウィンダーはオメガとアギリとを見る。


「オメガ、どうして俺を誘った?」

「え?」

「お前とアギリとで十分なはずだ。俺を誘う理由が見えない」

「べ、別にそんなに深い考えは……」

「俺は……いいんだ」


 ウィンダーはそう言うと相変わらずの読めない無表情で店の扉を開けて出ていった。


「ウィンダー……どうかしたんですか?」


 オメガはアギリに尋ねる。


「あいつ……最近はいつもあんな感じだ。元々無口無表情だったが……ここのところは何を言ってもやってもつまらなそうでな……」


 アギリも少しだけ困ったように言う。


「ったく、何が不満なのか言ってくれればいいものを……」


 *


 ウィンダー・ロズウェルは街の通りに出ると歩いていた。頭の中を色々な考えがぐるぐると巡っている。どうしてあんなことを言ってしまったのだろうか、俺は……。そんなんだから新しい環境にいつまで経っても馴染めないんだ……。

 俺の周りであらゆるものが変わってしまった。とウィンダーは思う。スターペンドラゴンと共闘することになり、お互いの隊の交流が盛んになった。俺の居場所だと思っていたティンダロスにも色々と変化があった。俺の仲間だと思っていた指揮官やアギリ、ミラたちもスターペンドラゴン隊のメンバーたちと交流するうちに、次第にそっちにも馴染んでいった。でも、俺にはそれができない。俺は与えられた居場所を享受することしかできない。今更新しい場所を与えられたとしても、俺はそこに馴染むことはできない。俺はミラほど明るくもないし、アギリほど柔軟でもない。それに指揮官ほど聡明でもない。自分で自分の居場所を狭めていっているのはよくわかっている。でも、どうしようもなかった。どうすればいいのかわからなかった。

 そんなことを考えていると、ウィンダーは誰かに正面衝突をしそうになった。


「……すみま……」

「いいの、あなたに会いに来たんだから」


 ウィンダーは驚いて相手の姿を観察した。紫色のウェーブがかかった髪に柔和そうな表情をした19歳ほどの少女だ。身体はゆったりとしたドレスのような服を着ている。


「あなたは……?」

「アイリス、って言ったらわかるかしら?」


 アイリス……! ウィンダーは身構えた。それって……アギリの言っていたルルイエ神聖教団のトップに君臨している……。


「えぇ、そうよ……あなたたちの元上司にあたるのかしら?」


 アイリスは楽しそうに言った。


「お前は……」


 ウィンダーは拳銃を持ってきていないことを後悔した。ここでこいつを撃ち殺せば戦況は一気に有利になるだろう。


「ねぇ、ウィンダーくん、私の仲間になってくれない?」


 アイリスはウィンダーの首に腕をかけた。


「なぜ、俺がお前なんかの……」


 ウィンダーは言う。


「だってあなたには居場所がないでしょ?」


 アイリスはまるでウィンダーの思考を読んでいたかのように言う。


「ふふっ、ちょっとだけ私たちに協力してくれればいいの……。私たち、本当はあなたのいるべき場所だったはずよ。それなのに周りが裏切っちゃって……。可哀想」


 アイリスはウィンダーの頬を愛撫するように撫でた。


「でも、俺は……」

「いいことを教えてあげるわ……。アギリもミラも……もうあなたのことはなんとも思っていないの……。薄々勘づいていたでしょう? あなたはいらない子、どうでもいい存在、いてもいなくても変わらないような存在なの……」


 アイリスは続けた。


「でも私にとっては違うわ。あなたは特別な力を持っている……。こんな場所で骨を埋めるなんて勿体ない存在よ……。無理にとは言わない……でも、考えておくといいわ……」


 アイリスはそう言うとウィンダーから身体を離した。

 ウィンダーが見つめる中、彼女は雑踏の中へと消えていった。


 ウィンダーはアギリとは合流せずにそのままティンダロスへと戻った。しばらくして帰ってきたアギリは「オメガがようやっとクローネへのプレゼントを決めたぜ。まったく、あの優柔不断野郎は……」とため息混じりに言っていた。さらにそれからしばらくしてミラもスターペンドラゴンから戻ってきた。彼女は今日もゼロムと話せて見るからに楽しそうだった。本人はゼロムよりもオメガの方が好きだと公言していたが、最近はゼロムといる方が多い気がする。

 ウィンダーは廊下でいつものように言い合いながら歩いているアギリとミラに声をかけた。


「ふたり……とも」


 ふたりは立ち止まった。


「俺は……今日、アイリスに会った」


 アギリの表情が一瞬固まった。


「なんだって……? いつだ? どこで……」

「アギリと別れた後、街で……」

「何故それを早く言わない! 僕は……」

「言うタイミングが見つからなかった」

「タイミングもへったくれもあるか! そういうことはすぐに……」

「ちょっと、ワカメ? 興奮しすぎだっての。ウィンダーも、もう少しハッキリしたらどうなの?」

「それは……」

「で、何を言っていた?」


 ウィンダーは言葉に詰まった。仲間を裏切れと言われたなんて言えない。そんなことを言ってしまえば、俺はふたりから信用を失ってしまう。


「どうした?」


 駄目だ……ここまで切り出しておいたのに何も言えなかった。ウィンダーは自分の不器用さを呪った。どうして俺はいつもいつも……。


「済まない、嘘だ……」

「へ?」


 ミラが拍子抜けしたような声を上げた。


「ウィンダー……」


 アギリはウィンダーを睨みつける。


「いくらお前でも……」

「ワカメ……!」


 ミラがアギリとウィンダーの間に割って入った。


「それにあんた……どういうつもり、嘘を言うなんていつもクソ真面目なウィンダーらしくもない……」

「なんでもない」


 ウィンダーはふたりに背を向けて歩き始めた。荒波は立てたくない。でも、俺はふたりの信用を失ってしまった……。


 *


 プンタアレナスの街にある一軒の宿屋の部屋で、ドゥルヨーダナ・ヴァラナシィは窓の外を見ながらため息をついた。


「我らが主教様は何をしていやがるんだ? 最近めっきり姿を現さねぇ」


 部屋の隅に影法師のように控えているセッテは答えた。


「主教様は自分の作戦に従って動いている。それが過ぎればもうすぐ……」

「もうすぐ……なんだ?」


 ドゥルヨーダナの瞳がきらりと輝く。


「もうすぐ、暴れられるってのか?」


 セッテは頷いた。


「へっ、そいつは楽しみだ……」


 *


 その日の夜、ウィンダーはプンタアレナスの軍港に停泊したティンダロスの甲板に出て夜風に当たっていた。


「そこにいたのね……」


 背後からそう声をかけられ、ウィンダーは振り返る。そこに立っていたのは、ドレスの裾を風にたなびかせているアイリスだった。


「俺は……嘘をつけばよかったのかもしれない。でも、それができなかった」


 ウィンダーは呟いた。


「ふふっ、あなたは裏切り者になってしまったのね……」


 アイリスは言う。


「でもそれは裏切りじゃあないわ。裏切り者はあの子たち、あなたは表返っただけよ……」

「アイリス……俺は……どうすればいい?」

「簡単なことよ。あなたは自分の本当の居場所を作るだけでいいの……。大丈夫、何も怖くないわ……。これまでだって戦ってきたでしょう?」


 *


 それとほぼ同時刻、クローネ・コペンハーゲンはスターペンドラゴンの食堂にいた。食堂にはもうひとり、オメガの姿があった。


「クローネさん、お誕生日、おめでとうございます」


 オメガは言った。


「ありがとうございます。本当はもうすぐ……なんですけどね」


 クローネは答える。


「そ、そうですよね……。歳をとるのはなるべく遅らせた……」

「オメガくん?」


 クローネの黒い瞳がきらりと輝いた。


「な、なんでもないです……。そうじゃあなくて……これ、受け取ってください」


 オメガはリボンで綺麗に包装された手のひらサイズの紙袋をクローネに手渡した。


「ありがとうございます」


 クローネはニコリと笑ってそれを受け取る。


「開けてみても……いいですか?」

「はい!」


 オメガは言う。クローネは紙袋を破れないよう丁寧に開けた。

 紙袋から出てきたのはフェルトで出来たストラップだった。小さなモフ子さんが形作られている。


「これは……」

「キットを買ったんですけど……僕が造りました。あの、手芸はまだ初心者で、これから上手くなれたらなって思うんですけど……」

「上手いと思いますよ。モフ子さんの特徴がよく出ていると思います」


 クローネはストラップを大切そうに抱えた。


「ますますオメガくんが女の子みたいになっちゃいますね」

「それ、どういう意味ですか?」


 その時、艦内に警報が鳴り響いた。


「警報……っ!?」

「オメガくん、また何かやらかしました!?」

「いや、僕はここにいるからやらかしたのは僕じゃあないでしょう……」


 ふたりはそう言いながらも艦橋に急いだ。


 艦橋に飛び込むと、すでにアリアたちが前方のモニターを真剣な表情で見つめていた。


「まずいことになりやがったぜ……」


 アリアが呟く。モニターには軍港を出ていくティンダロスの姿が映し出されていた。

 そこで通信用モニターにひとりの少女の姿が映る。それはセッテ・ガーだった。


「ティンダロスは我々のものになった。同時に乗員の命も預かっている。殺されたくなければハイペリオンオメガVVを渡せ。以上」


 相変わらずの無表情で彼女はそう言った。

 天を割り、奴が現れる。

 小さなこの星を狂わせる奴が。

 それはまさしく滅びの瞳。

 遠い時空の邪神がそこに。

 次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『邪神、降臨』。

 世界が滅びる。

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