第40話 復讐の果てに・2
前半の続き!
ガンマは信じられないという顔で襲いかかってくるイリアム=オリュンポスを見た。
「ガンマさん! かわして!」
ミネルヴァΔがメルセデスを突き飛ばした。そしてイリアム=オリュンポスと刃を交える。ビームセイバーの刃とビームバイオネットセイバーモードの刃はお互いに何度もぶつかりあった。
「お前さえ居なければ……か。くかか、いいねぇ! 俺の好きなセリフだ! だがてめぇは生き残っちまった! なぁ、もう一度死んでくれよ! 今回は……そうだな、俺自身の快楽のために!」
ラムダは言う。
「こいつ……動きが人間離れをして……!」
クローネは歯を食いしばった。普通、RAは中に人間が搭乗している以上、パイロットは自分の身の安全も頭の片隅にでも入れるため、その攻撃の激しさにも限度が出てくるはずだ。だが、今回はそれがない。まるでRAと一体化をしてしまったような容赦ない攻撃だ。
「あるいは本当に……機体と人間、それに邪神とが融合してしまったのかもしれませんね……」
クローネは呟いた。その時、虹色の光の鞭がイリアム=オリュンポスの両腕を焼き切った。イリアム=オリュンポスが後退をし、クローネは攻撃が飛んできた方向を見た。そこにはアタックスキルを発動したばかりのハイペリオンオメガVVの姿があった。
「クローネさん、お姉ちゃん、大丈夫ですか?」
オメガからの通信が入る。
「まったくもう、遅いですよ、オメガくん。どこに行ってたんですか……」
クローネは口ではそう言ったものの表情は嬉しそうだった。だがオメガはモニターに映ったガンマを心配そうに見る。
「オメガくん……?」
クローネが尋ねた。
「いえ……あの、クローネさんはお姉ちゃんをお願いします。僕はあいつを相手に……!」
そう言って敵を見て、オメガは驚いた。破壊したはずの両腕がみるみるうちに元の姿に再生を開始したのだ。
「そんな……あいつは生物なんですか? それとも機械……」
「くかか、両方だよオメガぁ! 俺は人間であり機械であり邪神! オメガ・グリュンタールぅ! お前など俺の敵ではない!」
イリアム=オリュンポスが右手を前に出すとそこから触手が槍のように伸びてハイペリオンオメガVVに襲いかかってきた。
「そんなっ! 武器も使わずに攻撃してくるなんて……!」
だが、触手はハイペリオンオメガVVの直前で止まる。
「な、なんだ……!」
イリアム=オリュンポスのコックピット内ではラムダが目を丸くしていた。
「そう簡単に……俺の弟をやらせてたまるかよ……」
「消えろ! 下等な人間! いや、人間にすらなりきれていない模造品の分際で! お前は俺に記憶と身体だけを提供していれば……!」
「あいにく……俺の復讐はまだ終わっちゃいないんで……な。他のやつに横取りされるわけには……」
ラムダはコックピット内で内部に僅かに残った人格とそう会話をしていた。邪神の人格が叫ぶ。
「邪魔を……するなぁぁぁぁぁぁぁ!」
だが触手は動かない。
「ちっ……今の俺にはこれが……精一杯だぜ。……ごめんな、オメガ……」
ラムダはふっと笑った。そして邪神に乗っ取られたラムダの表情に戻る。
「やっと……消えたか……」
ラムダは言った。
「ちっ、だが興が冷めた」
イリアム=オリュンポスは伸ばした触手を元に戻すとハイペリオンオメガVVに背を向けて飛び去った。
「撤退……した?」
オメガは首を傾げる。
*
ガンマはティンダロスに戻るとひとりでその廊下に座り込んだ。そんな彼女の姿をアギリが見つける。
「ガンマ……?」
アギリは声をかける。
「私は……また、目の前で弟を……」
ガンマは言う。
「顔を上げろ、お前が責任を感じることはない」
「でも……!」
「オメガは生きてる」
アギリは続けた。
「それに少なくともあいつはお前を姉としてリスペクトしていると思うぜ」
「アギリ……私は……怖い。私がまた昔のように復讐に囚われてしまうかもしれないのが……」
「その時は……」
とアギリは言う。
「その時は僕が止める」
「ありがとう……」
ガンマはふたたび下を向いた。
*
サザーム・ジェノバはラムダ・プロメテウスと対峙していた。場所は自身の戦艦ネメシスの艦橋である。ラムダは両手両足から伸びる醜い肉の触手を引きずり、狂気を湛えた表情で立っていた。
「あんた……俺がせっかく復讐の機会を与えてやったのに、全然やる気がなかったんだってなぁ」
ラムダは言う。
「そうだな、私はすでに復讐の虚しさを知った。私は復讐の永続性を知った。私は復讐の連鎖を知った」
「ち……お前を選んだのは俺の人選ミスだった。だから今この場で死ね」
ラムダは触手が伸びた右腕をサザームに向ける。
「そうか……だがすでにお前は敗北している。たとえ私を殺したとしてもな」
ラムダの触手がサザームの心臓を刺し貫いた。銀色の仮面が黒い床に音を立てて落ちた。
*
シルフィ・オルレアンは先程の戦闘データから相手の特性について分析するため、自室にて小型コンピュータをいじっていた。しかしそこに見慣れないメッセージが入っていることを発見する。
「これは……」
シルフィは何が起きてもいいように他のコンピュータとの接続を切ってからメッセージを開く。画面に映し出されたのは銀色の兜のような仮面を被った男だった。
「シルフィ・オルレアンか」
仮面によって少しエコーがかかっているものの、シルフィはその声の持ち主をすぐに思い出す。
「あなたは……!」
「このメッセージが届いたということは、私はもうこの世にいないであろう。すでに気づいているとは思うが私の名前はサザーム・ジェノバ。かつてお前に倒された男だ。私の話を聞いて欲しい」
サザームは話し始めた。
「クローネから話を聞いているとは思うが、私はラムダやティラエを伴い、世界に復讐をするため『観測者』の別部隊、いや、正確にはナイアーラの配下として再起をした。ナイアーラの目的はこの世を狂気で満たすこと。それ以外にはないだろう。だから復讐に囚われた我々がこの戦いを掻き乱してくれればくれるほど奴は心の奥底で喜んでいたに違いない。だが私にはもとより復讐の気持ちなど消え果てていた。お前と戦い、敗北し、私は全身に醜い火傷を負って世界をさまよい歩いた。私は世界をこの目で見た。自らが自らの足で世界を歩くことにより、私はこれまでの自分がいかに無知だったかということに気付かされた」
それからサザームはひと呼吸置いて続けた。
「世界は驚くほど醜かった。そして私を復讐に駆り立てたのもまた、醜い復讐の連鎖の中の一環に過ぎないとわかった。私が『観測者』の指揮官としてナイアーラに拾われた時、私には復讐の気持ちなど消え失せていた。だから私は、ラムダやティラエを自分の気持ちのままに泳がせることによって復讐の虚しさに気づかせようとした。そうしているうちに、お前たちはナイアーラを倒してくれた」
サザームは続ける。
「これで我々の戦いも終わると思っていた。しかしそうではなかった。まさか奇跡的に生き残っていたナイアーラの肉片がラムダの身体を乗っ取ることになろうとは……。恐らく奴はラムダの記憶を読み、私が自らの命令に従っていなかったことに気がつくだろう。奴は文字通り『神』なる存在だ。それ故に自らの思い通りにならないものは気に入らない。私を始末し、この戦艦ネメシスを乗っ取り身体の一部とすることだろう。その後のことは私にも予想できない。しかし、決して気持ちのいいことにならないだろうということだけは確かだ。幸いにして奴は完全な邪神ではなくその一部だ。だからお前たちだけでも倒すことができる。もっともかなり苦労はするだろうがな」
それからサザームはシルフィに呼びかける。
「私の最後の頼みだ。ナイアーラを復活させてはならない。奴の再生能力は桁外れだ。だが、間髪入れずに攻撃をすれば勝てない相手ではない。そこで私も少しだけ協力させてもらった。奴が戻ってくる前に艦内に爆弾をしかけてな。座標はこのメッセージに添付してあるファイルにある。同時にネメシスの位置情報も補足できるようになっている。だが爆弾が爆弾であると気づかれないようにするため、爆弾はまだ作動していない。最後にスイッチを入れるのはお前に頼みたい、シルフィ。危険な仕事だが……かつての英雄であるお前にはできるはずだ」
そう言うとメッセージ映像は消滅した。同時に画面にひとつのファイルが表示される。恐らくそれがサザームの言っていた戦艦ネメシスの位置情報と爆弾がセットされた場所がわかるその内部の図面だろう。だが問題は誰と同行するかだ。本来ならばスターペンドラゴン隊の全員で追いかけ、ネメシスを仕留めるのが常道だろう。だがサザームはかつて敵だった人物。新生「観測者」を率いている以上今の地球防衛軍内にも彼を敵視する人物は多く、物わかりのいいスターペンドラゴン隊でも説得するのに時間がかかるかもしれない。それに、サザームとは個人的に決着をつけたい。となれば爆弾作動と同時に外部から攻撃を仕掛けてくれるRAパイロットと協力した小規模な作戦を展開するべきだろう。だとすると呼ぶのは……あのふたりだ。
シルフィはスターペンドラゴンの格納庫にオメガを呼んだ。
「シルフィさん、頼みたいことって……」
「オメガくん、私と一緒に出撃してください!」
「はい?」
オメガは聞き返した。
「戦艦ネメシス……サザームさんたちの戦艦ですけど、その場所にラムダさんがいるんです。ラムダさん、いえ、邪神ナイアーラは戦艦とも一体化をして……そこから先は想像にかたくないですよね。ですから、一緒に……」
「僕たちだけですか?」
オメガは言った。
「いえ、ガンマさんにも連絡して……」
「でも……艦のみんなには言っていない」
オメガが痛いところをついてきた。
「それは……」
「あなたと向こうのリーダー、サザームさんとの個人的因縁はわかります。でも、この艦のみんなだって……」
「わかってます。時間をかけて話せばきちんとわかってくれるだろうってことくらいは……でも、時間がないんです! 相手はナイアーラですよ!」
オメガは考える。確かに相手があのナイアーラなら、こちらが素早く動かなければどんどん力を蓄えてまた取り返しのつかないことをしてくるかもしれない。
「でも……じゃあどうして僕たちなんですか?」
オメガは尋ねる。
「ラムダさんを……救ってください」
シルフィは言った。
「肉親と死に別れる痛みなら、私だってわかりますから……。それに彼、多分、まだどこかに意識は残っていると思うんです。ほら、オメガくんへの攻撃も躊躇ったように見えたでしょう?」
言われてみれば……とオメガは思う。
「わかりました!」
オメガは敬礼のようなポーズをとった。シルフィはにっこりと笑ってそれを返す。
「じゃ、行きますよ!」
シルフィはオメガを先導するように格納庫のタラップを駆け上がった。その先にはRAのコックピットに繋がる通路がある。
「あの……シルフィさん。シルフィさんのRAは……」
「ダンのを借りさせてもらいます!」
シルフィがそう言って振り返ると、その手にはオレンジ色のキーがぶら下がっていた。
「まったく……意外とあぁいうところがあるんですから……あの人は……」
オメガはやれやれと言いながらもシルフィに続きタラップを駆け上がった。
「ハイペリオンオメガVV。オメガ・グリュンタール、翔びます!」
オメガはコックピットのレバーを引いた。
「アンフィプテラ。シルフィ・オルレアン、発進します!」
シルフィもコックピットのレバーを引く。
新しいアンフィプテラは灰色をベースに、角や両肩部分がオレンジ色に塗装し直されていた。2機のRAは無断発進をする。
*
「んえっ、無断発進っすよ! 艦長!」
艦橋でレアーノが素っ頓狂な声を上げた。
「あ、あぁ……ハイペリオンオメガVV……。あいつはいつもだろ。それから……アンフィプテラ!? 誰が乗って……」
アリアが言い終わる前にレアーノがアンフィプテラに通信をかけた。
「シルフィさん!?」
「ごめんなさい! でも、追わないでください! 私たちは私たちの戦いをしなくちゃあいけないんです!」
シルフィは言った。
邪なる神は嗤う。
人類など取るに足らぬものだと。
人類は戦う。
たとえ相手が神なる存在であろうと。
次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『遊戯者の最期』。
その女神は、人を惑わす。




