第1話 魔動機兵、戦火に翔べ! ・2
前半の続きです。
オメガは、クローネと共に走った。どこに向かっているのかは分からない。だが、必死に走った。
やがてふたりは、ひとつの頑丈そうな黒いレンガ造りの建物の前にたどり着いた。
「オメガくん、今は緊急時です。ですが、この建物の中で見たものは、決して他言しないように……」
クローネは建物の前にたどり着くと言った。
「な、なんなんですか……? ここは……」
「私もよく知りませんが、上層部により完全に秘匿された建物です。恐らく、外部の人はその存在すら知らないでしょう。ですが、それ故に他の建物よりも頑丈に造られているはずです。事態が収まるまで……オメガくんはここに……」
そしてクローネは、拳銃を取り出すと、建物のキーの部分目掛けて撃ち込んだ。その手つきはだいぶ手馴れたものだった。
「さぁ、早く……!」
クローネは扉を開いて建物の中にオメガを案内する。オメガが入ったのを見計らい、クローネはそっと扉を閉めた。
中は真っ暗闇だった。だが、次第に目が慣れてくると、姿を現した光景にふたりは息を飲んだ。目の前には、一機のRAが直立不動の姿勢で保管されていたのだ。やはり、頭部には騎士を思わせるエッジのあるRAだが、その姿は前に見た二機よりもだいぶ騎士に近い見た目をしていた。体色は深い灰色をベースに、エッジや胸部のアーマー、それに両肩などは緑色をしている。背部にはΩ字形のウイングがついていた。
「あれは……ハイペリオン……?」
クローネが息を飲むように言った。
「な、なんなんですか? その……ハイペリオンって……」
「RAの機体のシリーズ名です。今回奪取された三機も、ハイペリオンシリーズでした。機体名はそれぞれ、白色のがハイペリオンミハイル、緑色がハイペリオンガルー、そしてもう一機が、ハイペリオンシュヴァリエ……。ですが、四機目が存在していたなんて……」
それからクローネは決意を決めたように四機目のハイペリオンの方に歩いていった。
「な、何をするんですか……?」
「オメガくん、ついてきてください。ここよりも遥かに安全な場所を見つけました」
「遥かに安全な場所……?」
「はい、私があの機体を起動させます。ですから、オメガくんはしっかりと私の後ろで掴まっていてください。攻撃は最大の防御、RAのコックピットこそが最大の隠れ場所です」
だがその時、建物が大きく揺れた。
クローネはオメガの手を取り、再び走り出す。
「オメガくん! 急ぎましょう! ハイペリオンに乗り込む前にこの建物が崩れたら、元も子もありません!」
***
ハイペリオンシュヴァリエは、赤と白の2色で構成された細身の機体だった。頭部にはやはりハイペリオンシリーズに共通するエッジが付いている。
その機体のコックピット内で、ミラは呟いた。
「あたしだって……もう一人前に……」
ミラは自らの身体を見下ろした。アギリに言われた通り、確かにあたしはまな板かもしれない……。それに、身長だって他の人よりも小さい。だから、今日、この基地に潜入する時も、警備兵に中学生だと勘違いされた。本当に頭にきた。あたしはもう……十六歳だっていうのに……! だからあたしは、殺し尽くすのだ。ウィンダーやアギリや、それに指揮官様に一人前だと認めてもらうために、この基地を残らず破壊し尽くしてやる……!
ミラは、ハイペリオンシュヴァリエの背部からプラズマライフルを引き抜いて乱射した。あそこにある頑丈そうな建物から手始めに破壊してやる……!
***
オメガとクローネは、ハイペリオンの周囲に張り巡らされた鉄製の足場をよじ登った。だが、そこでふたたび建物を衝撃が襲う。
「あっ……」
クローネが足を踏み外した。
「クローネさんっ!」
オメガがクローネの手を掴もうとするが、間に合わない。クローネは床に叩きつけられ、さらにその上に足場の一部が崩れ落ちていく。
「クローネさん!?」
オメガは床に飛び降りるとクローネの元に駆け寄った。そして足場を取り除いていく。
クローネは気を失っていた。オメガはクローネを助け起こす。
「クローネさん、しっかりしてください……!」
だが、そこでオメガは気がついた。クローネの腕の骨が折れている。それに、頭からは血が流れていた。
「く……。そ、そんな……」
オメガは絶望しかけるが、そこでハッと思いついた。確かに、クローネさんの怪我は致命傷だ。だが……まだ死んではいない。だったら……!
オメガはそっとクローネを抱きしめた。頼む……助かってくれ……!
クローネの身体は緑色の光に包まれ、みるみるうちに外傷が塞がり、そして折れていた骨が再生していった。大丈夫だ。これで命は助かる……。オメガは気を失ったままのクローネをそっと担ぎあげた。それからまだ残っている部分の足場を伝い、ハイペリオンの胸部にあるコックピットによじ登った。
だが、コックピットのハッチを開けるにはキーが必要である。そんなもの、オメガは持っていない。いや……と、オメガは思った。クローネさんならば持っているはずだ。多分、同じ地球防衛軍所属の機体である以上、本来のクローネさんの乗るべき機体とこのハイペリオンの機体のキーは共通するように出来ているのだろう。
オメガはそっとクローネをハイペリオンの胸部に下ろすと、そのポケットを漁った。女の子の持ち物を漁るというのは微妙に不道徳なことをしているようにも感じられるが、今は緊急事態だ。やむを得まい。
やがて、オメガは深紫色の薄い板のようなガジェットを見つけ出し、その先端をハイペリオンに向け、スイッチを押した。ハイペリオンのコックピットハッチが勢いよく開いた。
「よし、クローネさん、ごめんなさい。でも……僕は……!」
オメガはそう言いながらクローネを担いでコックピットに乗り込む。センサーがパイロットの乗り込んだことを確認し、ハッチは閉じられた。と同時にコックピット内の明かりがともり、前方と左右の三方向のモニターに周囲の様子が映し出された。
外では、ちょうどハイペリオンの黄色いツインアイが点灯したところだった。
手元の小型モニターに機体名が浮かび上がる。機体名は「HYPERION-Ω」と表示された。
「ハイペリオンオメガ……。僕と同じ名前だ……」
オメガは呟くと、大きくレバーを引いた。大丈夫、僕は本来、兵器として造られた人間だ。RAの操縦方法は、遺伝子にしっかりと組み込まれている。
「ハイペリオンオメガ。オメガ・グリュンタール、翔びます!」
後部のΩ字形のウイングから魔法粒子が噴射され、ハイペリオンオメガは起動を開始する。周囲を覆っていた足場を跳ね除け、そして、建物の壁に突入した。
黒い壁が崩れ落ち、ハイペリオンオメガが戦場に姿を現した。その姿を目の前で視認したミラは思わず息を飲む。
「嘘……四機目のハイペリオン……? そんなの聞いてないんだけど……?」
だが、すぐに気を取り直してプラズマライフルを背部に戻すと、腰からビームレイピアの柄を引き抜き、光刃を展開した。
「でも誰が相手だろうとあたしは……!」
「来る……!」
オメガは相手の動きを見切り、自身の機体も、腰部からビームセイバーの柄を引き抜いた。そして黄色く光る光刃を展開させる。
二機の光の刃は空中でぶつかり合い、火花が散った。
「こいつ……死ね!」
ミラはハイペリオンシュヴァリエのビームレイピアを大きく振るった。すかさずハイペリオンオメガはビームセイバーでその攻撃を防御する。
「もう誰も、お前たちなんかに傷つけさせない……!」
オメガは機体を後方に飛びのかせ、叫んだ。
「メガロスラッシャー!」
ハイペリオンオメガの頭部のエッジが分離し、ブーメランのようにハイペリオンシュヴァリエ目掛けて飛んでいく。
「はぁ!? 何あれ、あんな隠し武器、あたしたちのハイペリオンにはないんだけど!?」
メガロスラッシャーはハイペリオンシュヴァリエの周囲を回転しながら飛びめぐり、何度も攻撃を加えた。ハイペリオンシュヴァリエはビームレイピアを使ってその攻撃から身を守る。恐らく、メガロスラッシャーはオリハルコン合金製のため、魔法粒子製プラズマの光刃とぶつかっても焼き切れることなく、互角に渡り合える。もしこれが仮に、RAの大半のパーツを構成しているミスリル合金で出来ていたならば、一瞬にして焼き切られていたところだろう。
「どうした……まな板ちゃん……って、敵機か?」
ミラの所に、アギリからの通信が入った。
「うるさい! そんな事よりさっさとあたしを助けてよ!」
「はいはい、もちろん助けますって。何しろ僕は紳士なんだからねぇ!」
ハイペリオンオメガとハイペリオンシュヴァリエが戦っている場に、ハイペリオンガルーが突入してきた。ガルーはビームクローを使い、メガロスラッシャーを弾き飛ばす。
「に、二機目……!?」
メガロスラッシャーはハイペリオンオメガの頭部にふたたび収まった。
と、そこでハイペリオンオメガのコックピットに通信が入った。
「ハイペリオンオメガ……! ってお前は民間人か? どうなっていやがる」
相手は、緑色の髪をした東洋系の青年だった。
「すみません、成り行きで……! あと、こっちにはクローネさんが気を失っています!」
「クローネが!? そうか、その様子だと助けてくれたってわけか……感謝するぜ。少年、俺はあっちのガルーをやる。お前は……シュヴァリエに当たれ!」
ハイペリオンオメガの右隣に銀色のRAが飛来した。東洋の鎧のような見た目に、額には三日月形の金色の前立てに似たパーツがついている。
「分かりました……! ですがあなたは……!?」
「俺は和泉神威。階級は大尉、んでもってこいつの機体名は月聖神だ」
あの時、クローネさんのブレスレット型通信機に通信を入れてきた人だ……。と、オメガは思う。
月聖神は腰部からビームセイバーのものよりもやや長めな柄を引き抜いた。そしてそれを両手で持つと、水色の光刃を展開する。
「そう珍しいものを見るような目で見るな。こいつは光刃刀こうじんとう、こっちじゃあ珍しいだろうが極東の島国じゃあRAの基本装備だ!」
月聖神は光刃刀を降るってハイペリオンガルーに斬りかかった。
ハイペリオンオメガはふたたびハイペリオンシュヴァリエと向かい合った。両者はそれぞれにセイバーとレイピアを構えてお互いの様子を伺う。
やがて先に動いたのはシュヴァリエだった。ミラはシュヴァリエに月の攻撃を入れさせる。だがオメガはその動きを見切り、セイバーを降るってビームレイピアの柄を斬り裂いた。
「はっ、はぁ!?」
ミラが驚く間もなくビームレイピアは機能を失い、ただのミスリル合金製の棒切れと化す。オメガはそのままトドメを刺そうと切っ先を相手のコックピットに向けた。
「お前は僕の大切なものを傷つけた。……お前なんか……!」
「しまっ……」
ミラは初めて命の危険を感じ、目を見開く。だがそこで空中から光弾が降り注いだ。ハイペリオンオメガはすんでのところでその攻撃をかわすが、それによりシュヴァリエにトドメを刺し損ねてしまった。
ミラはそっと上を見上げる。空中には、天使の翼のようなウイングを広げたハイペリオンミハイルの姿があった。
「ミラ……油断は禁物だ」
ウィンダーからの通信が入る。
「ありがとう、堅物っ」
「それは褒め言葉か?」
「あんたは本気で言ってるんだから救いようがないよねー。ま、そういうことだと思っておいて」
「了解した」
ウィンダーはハイペリオンミハイルを下降させると、ビームセイバーを抜き、ハイペリオンオメガに斬りかかった。
「また新手……!? でもこれで三機、敵は全部か……!」
オメガはミハイルの攻撃に対抗しながら呟いた。
だがその時だった。
戦場に雨あられと光弾が降り注いできたのだ。オメガは咄嗟に空中を見た。そこには黒いRAが静止していた。RAは両手のひらを広げ、その真ん中から光弾を戦場に撃ち込んでいた。一見すると無差別な攻撃に見えなくもないが、どちらかというと敵方、すなわちウィンダーたちを狙っているように見える。
「神威さん! あれは……!?」
地球防衛軍の別の機体だろうか。そう思いオメガは神威に通信をかけた。
「すまん、皆目見当もつかん!」
敵機三機は、それぞれに新たに現れた黒いRAの方向を見上げた。
「ちくしょう! 邪魔をするな! 喰らえ!」
激昂したミラがプラズマライフルの光弾を黒いRAに撃ち込む。だが、命中する前に見えない壁に阻まれたかのように光弾は消滅してしまった。
「バリヤーでも展開しているのか……?」
アギリが呟く。
と、そこで三人に仮面の女からの通信が入った。
「お前たち、まずいことになった……。やつと戦うにはまだ早い。早急に撤退しろ」
「で、でも……!」
ミラが反論する。
「命令だ。それに我々の目的は達成した。四機目のハイペリオンや『観測者』の乱入といったアクシデントはあったが、作戦は概ね成功だ。戻ってこい」
「了解した」
ウィンダーが答える。
三機はバーニアから魔法粒子を噴射し、戦場を離脱していった。
それと同時に、黒いRAも空気に溶け込むかのように消え去った。
「消えた……?」
「おそらくステルス機能だろう。それよりもお前……」
と、神威が言う。
「はい……なんでしょうか……?」
「本当に、RA操縦なんかしたこともない初心者か?」
「あ、あの、それは……」
オメガは口ごもった。何から説明した方がいいのだろうか。
だが、神威はニヤリと笑っていう。
「まぁいいさ、事情はそっから降りてからたっぷりと聞かせてもらう。今は……お前と一緒にいる眠り姫さんのこともあるしな」
オメガはハッとして背中にもたれかかって気を失っているクローネに目をやった。戦闘中は特に意識していなかったが、今、改めて見てみると、少しだけ恥ずかしく感じる。いくら友人とはいえど、異性とこんなにも近くに、というかもはやゼロメートル距離で接しているなんて……。
「やれやれ、顔が真っ赤だぜ、ええと……」
「オメガです。僕は、オメガ・グリュンタールといいます」
オメガは神威をしっかりと見据えて答えた。
「そうか、これからよろしくな。オメガちゃん」
神威は少しだけからかうような調子で言うとこちらに向かってウインクをしてきた。
「よろしく……お願いします」
オメガはやや緊張しながらも頭を下げた。
それは、太古の地球に降り立つ破壊の化身。
大いなる畏怖の象徴にしてすべてを創造せしもの。
その名は邪神、海から迫る。
次回、魔法戦線ハイペリオンΩ『邪神の遺産』。
終末への序章が今、始まる。




