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第1話 魔動機兵、戦火に翔べ! ・1

 魔動機兵、ライドアーマーによる戦争が始まった!

 邪神復活を阻止するため、RA(ライドアーマー)ハイペリオンオメガは天を翔ける!

 空想科学巨編、魔法戦線ハイペリオンΩ、毎週土曜日投稿開始!

 少年は、緑の丘の上に腰を下ろした。丘からは、レンガ造りの建物の一群を望むことが出来る。赤色の髪をした小柄な少年だった。彼は右腕にバスケットを、そして左手には傷ついた小鳥を手にしている。オメガ・グリュンタール、それが少年の名前だった。

 オメガはバスケットをそっと自分の右脇に置くと、右手を小鳥の上にかざした。すると、小鳥の傷口は段々と塞がっていった。


「さぁ、飛んでおいき、もう怪我は治ったよ」


 オメガが左手を伸ばすと、小鳥は空へと羽ばたいていった。その時、オメガは背後に気配を感じて振り返る。ひょっとして、今の、誰かに見られたか……? だが、そこに居たのはオメガのよく知っている人物だった。腰くらいまで届く黒髪に大人しそうな顔をした少女だ。だが、その服は地球防衛軍のものである灰色、黒、白で構成された制服を着ていた。

 彼女の名は、クローネ・コペンハーゲンという。


「なんだ……クローネさんですか……」


 オメガはほっとしたように呟いた。


「相変わらず、不思議な力ですね」


 クローネはオメガの左脇に座りながら言う。


「ですが、とても素敵な力だと思います」

「そう言ってくれるのはクローネさんだけですよ。多分、ほかの多くの人は、僕が人間じゃあないということを知ったら、恐れ、遠ざけるに違いない……」

「そんな事は無いと思いますが……」


 そう言いながらクローネは目線をバスケットに移した。


「それよりもオメガくん、サンドイッチ、作ってきてくださったのでしょう?」

「あ、はい……」


 オメガはバスケットを開き、クローネとの間にそっと置いた。


「せっかく、一緒にピクニックに出ると約束したのに、こんな殺風景な場所ですみません……」


 クローネはサンドイッチを手に取りながら謝った。


「いえ、クローネさんも、仕事があるでしょうし……」


 眼下に望める赤レンガの建物群は、クローネの仕事場、すなわち地球防衛軍の基地だ。


「オメガくん、このサンドイッチ……!」


 クローネはサンドイッチをひと口噛じるなり言った。


「ど、どうかしたんですか!?」

「相変わらずとても美味しいです! やっぱりオメガくんの作る料理はこのアーカムの街でいちばん、いいえ、世界でいちばんだと思います」


 オメガはほっとした。クローネさんに喜んでもらえて、本当に良かった……。


「ですが、本当にごめんなさいね。私、いつもオメガくんに作ってもらってばかりで……本当はもっとなにかお返しが出来たらと思っているんですが……」

「だ、大丈夫ですよ!? クローネさんが色々と軍の仕事で忙しいのは分かっていますし……それに、僕にとってはそうやってクローネさんが喜んでくれることがいちばんのご褒美ですから……」

「オメガくん、やめてください、そんな台詞……。他の誰かに聞かれたら、勘違いされてしまいますよ?」

「勘違い? 何をですか?」

「なんでもないですっ」


 クローネはやや怒ったような調子でオメガから顔を背けた。まったく、オメガくんは基本的にいい人ですが、たまーに鈍すぎやしませんか!? 友情と愛情の違いすらよく分かってない気が……。でも、あまり責められる事ではありませんよね……。オメガくんにもオメガくんなりの事情があるのですから……。

 オメガとクローネが出会ったのは今から一年前、クローネがこのアーカムの街にある地球防衛軍基地に赴任して来たばかりのときだった。オメガは、そのアーカムの街にある小さなレストランで料理人として働いていたのだった。そこの常連客として彼と親しくなったクローネは、彼自身の口からその過去についての告白を聞いたのだった。

 オメガ・グリュンタールは人間ではなかった。彼は、兵器として人工的に製造さられたいわゆる人造人間、人間兵器だったのだ。彼が持つ治癒能力は、それに由来している。オメガと同時に製造された人間兵器たちは二年前のミレニアム戦役においてほとんどが死滅したが、オメガは事前にゼロム・グリュンタールという名のエルフに助け出され、ここ、アーカムの街に流れてきたのだった。グリュンタールの姓は彼から与えられたものである。


「まったく、よく分からない人だなぁ……」


 オメガは呟いた。


「それはこっちのセリフです」


 クローネは口をとがらせる。彼女は怒ったような口調をしながらも、不思議と悪い気はしていなかった。


「オメガくん、いいですか? そんなふうに人の心の中に土足で上がり込むような発言ばっかりしていると、いつか女の子に嫌われてしまいますよ?」

「あぁ、それって……クローネさんが前に言ってたレンアイ……とかいうやつの話ですか? ……でもクローネさん、今まででたった一度の恋は振られて終わったんですよね?」

「オメガくんっ!」


 クローネはオメガにヘッドロックを決めた。清楚系な見た目に反して意外と力は強い。


「いだだだだだだだだ、ごめんなさいっ」

「ふぅ、まったく……」


 クローネは溜息をつきながら力を緩めた。


「まったく、そんなんだから振られちゃうんですよ……」

「オメガくん、ぜんっぜん反省してませんね!?」


 クローネはバスケットに手を伸ばすと、オメガが自分用に用意をしたサンドイッチを奪い取った。


「あっ、ちょっと、クローネさん!?」

「心から反省するまで返しませんよ!?」

「わ、分かりました! 本当に謝ります!」

「本当に? 二度と?」

「にっ、二度と言いません!」

「よろしい」


 クローネはサンドイッチをオメガに返却する。

 オメガはサンドイッチを口に運びながら言った。


「でも、やっぱり分からないですね……」

「何がですか?」

「クローネさん、僕に対してだけでしょう? そうやってすぐに怒るのは……」

「それはオメガくんが私を怒らせるようなことをいつも言うからです!」


 クローネは言い返した。まったく、それなのにどうしていつもこうやって一緒にお昼を食べたりしているのか、自分でも分からなくなってきました……。

 だが、その時だった。基地の方で煙が立ちのぼるのをオメガは目視した気がした。


「クローネさん、あれ……」


 クローネはまだ気がついていない様子だ。


「なんですか? 今度また余計な……」

「違います! 火事ですか? そ、その……基地で……」

「え? う、んん!? げ、げほっげほっ」


 クローネも基地の様子に気がついてむせ込む。


「だ、大丈夫ですか!?」


 オメガがクローネの背中をさすり、水の入った水筒を手渡す。


「す、すみません……トマトの皮が喉につかえました」

「口内の状況を的確に伝えなくても大丈夫です……。そんな事より、基地の方は……」


 オメガが言いかけた時、クローネの左腕に装着されている腕輪型の通信機が鳴った。クローネは慣れた手つきで通信機のスイッチを押し、許可を入れる。


「クローネか。こちらは神威かむいだ。至急、基地に戻ってきて欲しい。三機の新型RA(ライドアーマー)が何者かによって奪取された」


 通信機の向こうで男の声が言った。

 それを聞いてオメガは思考を巡らせる。RAといえば……近代戦争の主力となっている人型機動兵器の事じゃあないか……。また、誰かが戦争を始めようとしているのか……?


「わ、分かりましたっ、すぐに向かいます……!」


 クローネは通信を切ると、駆け出しながらオメガに別れの挨拶をした。


「オメガくんっ、ごめんなさい! ピクニックの続きは、また後で……!」

「了解です! クローネ・コペンハーゲン中尉!」


 オメガはクローネの武運を祈り、敬礼をした。


 オメガはクローネの姿が見えなくなると、自分の下宿もある店に戻ろうと支度を始めた。バスケットを手に取り、水筒を……。いや、ない……。オメガはすぐに思い出した。そういえば、さっき水筒をクローネに手渡したきり、返してもらっていなかったのだ。しょうがない、後で返してもらうか……。いいや、あの水筒は僕のものではない。本来は店長のものだったのを、僕は貸してもらっていただけだ。ならば、今すぐにでも追いついて返してもらうべきだろう。今からなら、まだ、多分……。

 オメガはやや短絡的な思考をするとクローネを追って駆け出した。大丈夫、地球防衛軍基地には優秀なRAパイロットがいっぱいいるんだ……。そんな危険なことにならないうちに彼ら彼女らが何とかしてくれるさ……。


 地球防衛軍基地の敷地内は阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。レンガの建物は次々と破壊され、周囲からは炎や煙が上がっている。怪我人も多く発生しているようで周囲には人がバタバタと倒れていた。

 オメガはそんな地獄絵図の中を進んでいく。クローネの姿はとうとう見つからないままにここまで来てしまった……。僕は一体全体どうすれば……。

 そして、ある建物の角を曲がったところで、オメガは自らの無力さを痛感することになってしまった。角を曲がった先でゆっくりと目の前を横切ろうとしていたのは、白い鋼鉄の巨人だったのだ。身長はおおよそ十二メートルほど、身体には天使の羽根を連想させるような意匠が巡らされ、頭部には中世の騎士の兜を思わせるようなエッジが伸びていた。巨人はこちらに気がつき、ふたつの水色に光り輝くカメラアイと、オメガの視線が合わさる。間違いない……あれが、RAだ。到底人間が生身で立ち向かって、勝てる相手ではない……。


 ***


 白いRAのコックピットで、銀髪に赤色の目をした少年がモニターの様子を無表情のまま見つめていた。モニターの先には、赤髪の少年が、こちらを恐怖心と畏怖心が入り交じったような表情で見上げている。


「どうした……ウィンダー、動きが止まっているぞ?」


 モニターの隅に、黒い仮面をかぶった女からの通信が入る。顔こそ分からないが、金色の肩くらいまでの長さの髪は美しい。


「指揮官……申し訳ない……。しかし、基地内に民間人を確認した。どうする」


 ウィンダーと呼ばれた少年は抑揚のない声で仮面の女に問うた。


「民間人……?」


 女は思案するが、それを遮るように別の少女からの通信が入った。


「殺しちゃいなよ、そんなやつ。どうせあたしたちの邪神様にとってはミジンコのような存在でしょ?」


 金色の髪に赤色の瞳をしたまだあどけなさが残る顔つきの少女だ。


「あぁ、なんて下品な物言いなんだ……ミラちゃん。僕の場合はもっと美しい比喩表現をだな……」


 紫色のウェーブのかかった髪に、やはり赤い目をした少年が割って入った。


「はぁ!? あんたには言ってないんだけど、アギリ! ワカメみたいな髪の毛しやがって!」

「僕の艶やかな髪にケチをつけるっていうのかい? 君こそその胸は誰がどう見てもまな板じゃあないか」

「殺す! 誤射に見せかけてこの場であんたを殺す!」

「あ……居なくなった……」


 言い争うミラとアギリを横目にウィンダーは無感情な声で言った。


「はぁ!? 血祭りが見られなかったのはあんたのせいだからね! ワカメ!」

「そいつは悪かったねぇ、まな板ちゃん」


 ***


 オメガはその場をそっと逃げ去った。あのRAのコックピットでパイロットがどんな思考をしたのかは分からないが、とにかく、しばらく動きを止めてくれたおかげで、何とか命拾いをすることが出来たのだ。だが、さらに先を進んでいくと、前方の倉庫と思しき建物が大爆発をし、オメガは思わず後方に尻もちをついた。


「あ、新手……?」


 オメガの前に姿を現したのは、まるで獣人のような前傾姿勢をした深緑色のRAだった。両腕からは光の爪が伸びており、頭部にはやはり昔の騎士のようなエッジが付いている。RAはこちらに気が付き、オレンジ色のツインアイを向けた。


 ***


「へへっ、見っけ」


 緑色のRAのコックピット内でアギリが呟く。


「悪いがまな板ちゃん、やつを先に血祭りにあげるのは僕の方だ……」


 アギリはビームクローの伸びた右腕を振り上げさせた。


「さぁて、味あわせてやろうか。僕のこの華麗な戦い方を……!」


 ***


 オメガは思わず目をつぶった。あぁ、僕はもうここで終わるんだ……。彼はそう思った。

 だが、突然、彼は何者かに腕を掴まれると右方に引き寄せられた。


「なっ……」


 オメガは思わず目を開いた。それは、クローネだった。


「まったく、どうしてあなたがここにいるんですか!?」


 クローネはオメガの腕を掴み、逃げるように促しながら言った。


「あ、あの……水筒を返してもらおうと……」

「馬鹿なんですか!? ま、まぁでも……こうなった以上、逃げますよ。こっちです!」


 クローネはオメガの腕を掴み、走り出した。

 後半へ続く!

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