第1章4話 制裁タイム!
カッカッカッ。パキーン。
汚れたコンクリートの上を歩き、コンクリートの床に落ちていた釘が蹴り飛ばされ近くにあった金属の板に当たり跳ね返った。
ガゴン。
そして歩いていた人物…、人物達は扉を開けた。
「お、来たか?…ん?」
人を待っていた男達と女一人は来た人物を見て驚いた。
「誰だァ!?お前!!」
来た人物は白衣を着た眼鏡の優男。
その後ろには美人な女が居る。
部屋の中に居た者達が待っていた人物ではない。部屋の中の者達は一斉に警戒をした。
「んんん!っぷは!先生!」
口元を押さえられていた少女…エミリは無理やり口元の手を首で振り払い、言葉を発した。
「おや?」
白衣の人物は探し人が見つかり笑顔になる。そして、
「フフフ。いつから女学生から囚われの姫へと転職したんです?"エリーナ"ちゃん?」
白衣を着た男…マスラがそういやらしい笑みを浮かべながら質問をした。
「何だお前…先生?学校の教師じゃないようだな…」
と、エミリの近くに居た男がそう言った。一人だけこの中では年上のようだ。
その男の近くで派手な格好をした女学生がマスラを睨んでいる。
「えぇ。以前そこのエミリちゃんの家庭教師を務めていたものですよ、『イソダ』せ・ん・せ・い」
そうマスラが答えると、
「何で俺の名前を!?…そうか、あのガキ、喋りやがったのか…」
と、苦い顔をする教師イソダ。
周りの学生達も驚き戸惑う。
その光景を見たマスラは、
「安心して下さい。警察には知らせていませんよ」
と、周りの不良達に言った。
その発言に対してその場に居た教師イソダを含め、不良達はキョトンとした表情となった。
そして、
「はぁ?なんで?お前、馬鹿なのか?」
マスラの発言に驚く教師イソダは訝しげな眼でマスラを見ながら言った。
「ふ、ふん。なら好都合だ。やれ!」
教師イソダはそう言って好都合とばかりに不良達に命令をする。
ガサッ。
教師イソダの命令で、一人の不良がマスラの前へ立つ。
金髪で長身の男子学生だ。
「お~。すっごく怖いですねぇ」
マスラは呑気な感じでそう言った。
「チッ!」
金髪の不良学生はその強面でマスラを睨んだ後、舌打ちをして殴りかかった…が、
グサッ!
マスラは"人差し指を灰色のひも状に変形"させて、その金髪不良の眉間に差し込んだ。指は2mは伸びている。
「「「「「!?」」」」」
これには周りの不良達や教師イソダも驚いた。
「え?」
金髪不良は驚いた後、膝から崩れ落ち、
「…エルンッ!エルンッ!!ウ"ウ"ゥ"ン"!エルンッ!エルンッ!!」
と、野太い声で叫んで倒れ、体をビクンビクンとのた打ち回らせていた。
「きゃぁあああああ!!」
その異常な光景に教師イソダの隣に居た女子生徒は悲鳴を上げた。
「うひひひひひ!まだまだこれからだよ!」
マスラはそう言って金髪不良の眉間から紐状に伸びた灰色の人差し指を引き抜いた後、両手の人差し指と中指を変化させ、他のこの場に居た男子不良学生の眉間に高速で差し込んだ。
勿論、その中にはエミリの口を塞いでいた男子学生も含まれる。
5~7m離れていてもお構いなしのようだ。
「「「「…エルンッ!エルンッ!!ウ"ウ"ゥ"ン"!エルンッ!エルンッ!!」」」」
他の不良達も最初に倒れた金髪と同様に意味不明な唸りを上げた後倒れる。
「うひひ!うひひひひひ!」
マスラは甲高い声で笑いながらビクンビクンと跳ね回る不良達を見て喜んでいる。
「ははは、相変わらず酷い殺し方をするんですね…」
そう冷めた笑いをしながら開放されたエミリはマスラに向かって言った。
「おやおや~?私、殺してなんていませんよ~?」
と、マスラはエミリに抗議する。
そして、
「しかしぃ~、殺す事をお望みなのはエリーナちゃんなんじゃないのかなぁ?だって、わざわざ人気が無い廃工場になんて私を呼びつけたのはぁ。そのためでしょ?」
と、笑顔を絶やさずマスラは言った。
「ふんっ」
エミリはそのマスラの言葉に対し顔を背けてしまう。
「くっくっく」
そんな可愛らしい態度についつい笑いが出てしまうマスラ。
「な、何なんだ!お前、何なんだよ!お前等はっ!!」
教師イソダはマスラ、エミリ、ルイに対してそう叫んだ。
「私?あぁ、私はですねぇ…『宇宙連邦軍第232独立科学技術部隊隊長グラフト・ダ・マスラ』と申しますぅ。階級は准将。こう見えても、戦闘系ではSランクの能力者なんですよ?」
と、"馬鹿正直"に自己紹介をするマスラ。
「……は?」
教師イソダはマスラの答えに何を言っているんだこいつは。という顔をして固まる。
ヒュンッ。
「!?」
一瞬呆けていると、教師イソダの顔の横を先ほどの紐状の灰色の指が通り過ぎた。
慌ててマスラの指の先端を確認する教師イソダ。
すると、マスラの指先に刺さっていたのは…、
「あっあっあっあっあっ!」
ヒジリの眉間であった。
ヒジリは足を伸ばして座り込み、顔は紅潮して涎を垂らし、だらしない笑みを浮かべている。
良く見ると漏らしたのか、地面は広い範囲で濡れていた。
「うひひひ。私、実は女性は大切にするタイプなので、そこら中に転がっている連中とは違い苦しみは与えていないのですよ。変わりにぃ…気持ちよくなってもらっています!」
と、マスラは説明をした。
「うひひひっ!!どうですぅ?他の男の"モノ"で気持ちよくなっている彼女を見てぇ~」
そう挑発しながらマスラは教師イソダへ近付いていく。
"モノ"と言ってもただの指だ。いや、ただの指ではないが…。
「き、貴様ぁぁああ!!」
教師イソダは勇敢にもマスラへ殴りかかる。いや、勇敢ではなく無謀であった。
パシーン。
教師イソダはマスラの空いた片手の指で足元をなぎ払われる。
「ぐあ!?」
教師イソダは転んでしまった。
「フフフ。こんなもんですかねぇ…仕上げです"ルーイ"!」
マスラはルイにそう指示をすると、
「はい。マスラ様」
と、ルイは大きく口を開けた。
同時に頭も明らかに肥大化している。倍…いや、3倍はある。
そしてルイの口はどんどん開いていき、
バキッ、ボキッ!
と、ルイは顔の骨格から嫌な音を鳴らす。
その後、
カサカサカサッ!カサカサカサッ!
と、今度はルイの喉の奥から虫の足のようなものが5本ほど出てきた。大きさが尋常じゃない。カサカサといわせながら虫の足はこすり合わせて動いていた。
いったい体のどこにそんなものが入っていたのか…。
もう美人が台無しである。いや、口がとんでもなく開いている時点で台無しではあるが…。
そしてルイは一歩一歩教師イソダへと近付く。
「ひ、ひぃぃぃぃいい!?や、止めろ!来るなぁああああ!!!」
教師イソダは腰が抜けてしまい立てない。その状態で腕だけ使って逃げようとしている。愛していたはずのヒジリを置いて…。
「あら?恐怖を感じているの?まるで"人間"みたい」
しばらく発言しなかったエミリからそう感想が出た。
教師イソダは気付いたのか、エミリの方を向き、
「た、助けてくれ!エミリ!実は俺は前から君の事がっ!」
と、何を思ったのかそう発言をしながら助けを求める教師イソダ。
その教師イソダの発言に一瞬目を見開いて驚いたエミリ。だが、次にエミリの内から湧き出た感情は笑いと軽蔑であった。
「ふ、ふふふ、あはははは!冗談でしょ!?私、"こんなの"に求愛されちゃっているの?あははははっ!不快でしかないわ」
そう笑った後に急に冷たい表情になったエミリ。教師イソダはその表情にも恐怖を感じ逃げようとするが、
「ひっ!」
既にルイが教師イソダの眼前に居た。
ルイは教師イソダの目線に合わせてしゃがみ込んでいた。
カサカサカサッ。
そして、肥大化した頭部の大きく裂けた口から出た虫の脚達でゆっくりと教師イソダの後頭部を包み…。
ガッ!
「ぎゃぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!」
一気に教師イソダの頭部をルイの口の中へと引きずり込んだ。
「<ぎゃぁああああああ!!ぎゃぁっ、ぎゃぁあぁああああああ!?!>」
ルイの口の中で教師イソダは叫びまくる。口の中に居るので、ちょっと篭った声だ。
手足をジタバタさせ、激しく抵抗をしている。
ルリの両目はその間激しくグリングリンと回っていた。
「<あぁぁぁぁぁぁ…あぁ……あっ……。…あっ…>」
やがて教師イソダは抵抗をやめてぐったりとしてしまった。
「ふふふ。これで事件は解決しましたねぇ~」
そう言ったマスラは非常に満足したような表情であった。
後日。
―マルカワ軍備研究所―
カチャッ。
マスラが研究所所長の部屋の扉を開けて入ると、そこには悲しみと後悔の涙で目を張らせたマリが居た。
「あっ!」
マミはそれに気付き立ち上がる。
そしてマスラの後に居た助手のルイの更に後ろに居たエミリを見て再び目に涙を浮かべた。今度は悲しみや後悔ではなく、喜びの涙であった。
「うぇぇぇぇぇぇ!ナカグラすわぁぁぁあああん!!!」
そう奇声を上げてマミはエミリに抱きついた。
「ちょっ!?鼻水!?汚い!!」
それに対しエミリはあからさまに嫌そうな顔をする。
しかし、
「うぇぇぇぇん!うぇぇぇぇん!良かったぁぁ!無事で良かったぁぁぁ!!」
と、マミが泣きじゃくるのを見て、
「はぁ…」
と、溜息を吐いたエミリはマミの頭を撫でた。
「……」
そんなエミリの様子を見て眉を上げるマスラ。
意外な光景を見た。という表情だ。
「ほら。私はもう大丈夫よ。マスラ先生が悪い人達を皆倒してくれたから、もう私達を追ってくるような奴は居ないわ」
エミリはそうマミの頭を撫でつつ言った。
「ほ、本当?マスラさんが倒したの?」
「えぇ、そうよ」
マミは不思議そうにマスラの顔を見る。
「えぇ、一部本当です。正確には説得してですけどね…。今日中に彼等は警察署に行って自白をするでしょう」
と、マスラが説明をした。
「えぇえ!?説得したんですか!?ど、どうやって!?」
これにはマミも驚いたみたいだ。
目の前に居るヒョロっとした人物が厳つい男達を倒すよりも言葉で打ち負かしてしまう方が信じられなかった。
「簡単ですよ。既に研究所の誰もがこの事を知っているので、警察に知られるのも時間の問題。それだったら、犯人が特定…いえ、殺人事件と発覚していない今自首すれば、罪は軽くなりますよ。と、伝えただけなのです」
そうマスラが説明すると、マミは納得したみたいだった。
「ヤケになって暴れ回らなかっただけよかったよ。ああいう輩は最後に何をするか分からないからね…ふぅ~」
マスラはそう言って一息吐き、ソファーへ座った。
一連の流れを見守ったマミの付き添いをしていたイケ面君は立ち上がる。それを見たマスラは、
「マミさん、今日はもう帰りなさい。後はもう大丈夫だから。君、この子を自宅へ送ってくれ」
と、イケ面君に指示を出す。
「はい」
イケ面君はマミを連れて部屋を出て行った。
マミは出て行く時もイケ面君ではなくエミリを見ながら手を振っていた。
エミリは手を振り替えして、マミが見えなくなった後、
「あの子には…何かするの?」
と、マスラに聞いた。
「いえ、なにも。ただ何もせず送り届けるだけです。記憶をいじったり、操ったりなどするつもりはありませんよ。…もしかして、情が移っちゃいましたか?」
そう言ってマスラは笑った。
それに対しエミリは気分を害することなく、
「そうね…。少なくともあの子に対しては悪い感情は持てないわ…。今まで彼女達はただの作り物だと思っていたのに…。私の仲間達が過激な行動に出ない理由が分かったかもしれない…。全く、すごいのを作ったものね。あの犯罪者も」
と、苦笑いをしながら言った。
「フフフフフフ。"私の父"はすごいのですよぉ?尊敬しすぎて殺しちゃいたいくらいですよ」
「それ、尊敬していないでしょう」
「いえいえ、尊敬はしていますよ。ですが奴を殺さない理由にはなりません」
「そういうものかしら?」
「そういうものなのです」
「そういえば…」
と、エミリは思い出したかのように言い、
「あのゴミ達は本当に大丈夫なのですか?あそこに寝かしておいただけでしたけど」
そう心配そうにエミリは言った。
教師イソダやその恋人エミリや不良達はあの後廃工場に寝かしておいただけで自分達は帰ってきてしまった。
「大丈夫です。先ほども言ったとおり、彼等は自主的に警察へ行き、洗いざらい喋ります。そう行動するように脳内をいじりました」
と、平然そうな顔でマスラは言った。
「怖っ!」
エミリはそう言って顔を引きつらせる。
「安心してください。あんなやり方善良な一般市民には使いませんから。それにそんな事をしたら私が頭の中を弄くられてしまいますよ」
と、マスラは言って笑っていた。
「はぁ。貴方を捕まえることが出来る存在が居る事も驚きですわ。まぁ、いいです。私も帰ります。今日はありがとうございました、先生」
「構いませんよ。私の大切な数少ない元教え子なんですから。フフフ、しかし、未だに私を家庭教師に招いた貴方の父上の意向が全く持って分からない」
「ふふ。それは私もです」
エミリはそう笑いながら言った後、頭を下げて部屋を出て行った。
「…ふぅ。それでは私は報告書でも作成しますかねぇ」
マスラはそう独り言を言って自身の机まで行き、報告書の作成に取り掛かった。




