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世界戦史の中で~研究所長の狂人マスラさん!~  作者: ルミネ
第2章 マスラさん、遺伝子を調査する
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第2章1話 お薬



「マースーラーさ~ん!」


 よく晴れた日の夕方。

 マルカワ軍需品研究所の所長室に元気のいい挨拶で一人の少女が入ってきた。

 その後ろからスタスタと美しい少女も入ってくる。

 部屋に入ってきた二人は女学生だ。


 最初に入ってきたのは『モチダ・マミ』。父親が現役軍人の大佐で、この研究所の成果を高く買ってくれる研究所との取引の最高責任者だ。


 もう一人の美人な方は『ナカグラ・エミリ』。本名『エリーナ・グークスラ』。この惑星外の出身で誘拐されてきた者の一人だ。現在はこの惑星の中にある国、ヤマタイ共和国の高校2年生を演じさせられている。まだ助け出す算段が出来上がっていないのと、作戦本部からの許可が下りないため、連れ出すことはできない。本人も了承済みだ。


「おや?今日はどうしたんですか?」


 と、この研究所所長。『マスラ・フラッグ』が二人に話しかけた。

 所長という役職の割には20代後半のような若さで、眼鏡にスーツの上から白衣を着ている。

 典型的な好青年っぽい見た目だ。

 ちなみに彼の本名は『グラフト・ダ・マスラ』。彼もエミリと同様異星人であり、この惑星を調査している調査員兼軍人である。

 骨格も声も変えてあるので、本来の姿は今マミ達が見ているものとは別物である。


「えっへへ~。実はこの前のお礼をしに二人で来たんです!」

 と、マミはニンマリとした笑顔で言った。



「お礼ですか?別に気を使わなくてもよかったのに…」


「ううん。こういうのはしっかりやらなきゃいけないんだよ。ね?エミリちゃん」

 マミはそう言ってエミリに同意を得ようとしたが、


「……今朝から気になっていましたが、そのエミリちゃんってなんですか?いつの間に私の事をそんな風に呼ぶようになったのですか?」

 と、不機嫌そうにエミリは言った。


「え~!私達、あの大事件を乗り越えた魂の兄弟ならぬ姉妹じゃん!冷たい事言わないでよぉ」

 そう言ってエミリにくっ付くマミ。


「えぇい!くっ付くな!鬱陶しい」


「あ、それがお礼のケーキです。あの時ルイさんにもお世話になりましたからね。ルイさんと一緒に食べてください!あれ?そういえばもう一人お世話になっていたような…」

 マミは思い出したかのようにマスラに箱に入ったケーキを勧める。

 が、哀れ。イケ面君は忘れられているようだ。


「それにしても姉妹っていいよねぇ~。私お兄ちゃんしかいないから姉妹ってのが欲しかったんだ~。そういえばエミリちゃんって誕生日はもう過ぎた?」


「いえ…まだですけど…」


「え?そうなの!?ふふ~ん。実は私誕生日もう過ぎたんだぁ~…。ってことで、私がお姉ちゃんね!」


「はぁ!?」


 などと言う会話がマスラの目の前で繰り広げられていた。


「(エリーナさんが妹…プププ)」

 マスラは耐え切れずに顔をニヤケさせてしまう。

「(キッ!)」

「(おっと)」

 マスラのニヤケ顔の理由を察したのか、エミリはマスラを思いっきり睨む。



「では、せっかくなので、早速頂きましょうかね。おや?丁度ケーキが4つ。皆で食べられますね。ルイ君、一緒に食べよう。紅茶を持ってきて下さい」


「はい。所長」


 哀れ。イケ面君の分は無いようだ。




 ルイが紅茶を持ってきたので、マスラ、ルイ、マミ、エミリの四人はケーキを食べ始めた。

 楽しい一時である。


 そんな楽しい時間をマミはこれから発する話によって台無しにした。



「そういえば、イソダ先生が一昨日捕まったけど、その後学校中である事が問題になっているって知ってる?」

 と、マミはエミリに聞いた。


「はぁ~。なんです?また厄介事ですか?」

 そう冷ややかな目でエミリはマミを見ながら言った。


「う…。厄介事っていうか、今回は噂だけなんだけど…」

 と、若干テンションが差上がるマミ。


「イソダや不良学生達によって被害に遭った女子生徒達の話でしょ?シマザキ・ユカさん以外にも被害に遭った女子生徒が複数いるという話はさすがの私でも耳にしましたよ」

 そう言ってケーキを食べ終えたエミリが紅茶を飲む。


「違う違う。それもあるけど、そっちじゃなくて危ない薬の話!」

 と、マミは否定する。


「危ない薬?」

 薬と聞いてマスラも反応した。


「そうなんですよ!麻薬です!麻薬が学校に蔓延しているって話があるんです!」

 話を真剣に聞いてくれそうなマスラにターゲットを変更し、机に身を乗り出してそう言ったマミ。


「そんな話知りませんよ?第一なんでイソダと薬が結びつくんです?イソダは薬をやってたんですか?」

 呆れたようにそう言ったエミリ。


「その可能性が大きいんだって!なんかイソダ先生達が警察署に自首した時、大量に麻薬を鞄の中に入れていたらしくて、学校中に麻薬中毒者がいるんじゃないかと疑われているんですよ!」

 自信満々にそう言ったマミに対して、


「それってどこからの情報?」

 と、エミリは聞く、


「勿論私のお父さんです!私のお父さん、フソウ市の警察署長と高校の同級生で仲がいいの!」


「「「……」」」


 情報漏洩もいいところである。

 この国は大丈夫なのだろうかとエミリは思ってしまった。


「まぁ、ともかくもう危ない事に首を突っ込まないで下さいよ?」

 と、苦笑いをしながらマスラは言った。


「はいはい、わかってますって」

 マミの返事は本当に分かっている者の返事ではない。

 どうやらマスラとの上下関係はマミの中で元に戻ってしまっているようであった。


「じゃぁ、帰ろっかなぁ~。エミリはどうする?一緒に帰る?」

 マミはさりげなくエミリを呼び捨てにして聞いた。


「…まだ私はケーキが半分残っています。気にせず先に帰りなさい」


「え~…エミリ食べるの遅いよぉ~」


「(キッ!)」


「ひっ!?じ、じゃぁ、私は先に帰るね~。バイバーイ!!」

 マミはエミリに一睨みされると逃げ帰ってしまった。




「「「……」」」




 そんな慌しいマミが出て行き、三人は無言になる。


 そんな無言の空間で、最初に言葉を切り出したのはマスラであった。


「いや~気に入られちゃいましたね」


「放っておいてよ!」

 と、エミリは拗ねてしまう。

 だが、その表情は満更でもなさそうな感じだ。


「うひひ。でもまぁ、また厄介ごとに巻き込まれそうですね"エミリ"さん?」

 マスラがそう言うと、


「勘弁してよ麻薬関連なんて……。先生の予想では、ここは"完璧な人間"を造る箱庭ではなかったのでは?麻薬に頼るなんて完璧どころか私達"人"と変わりないじゃない!」

 と、エミリは強い口調で言った。


「うひひ…。"完璧な人間"ではなく、"人間に近いもの"をDr.ジュパーソンは恐らく造ろうとしているのですよ…。つまり、人間を完璧に造るつもりなんですよ彼は…」


「はい?何ですかそれ?そもそも何のために?」

 意味が分からないという表情をするエミリ。


「簡単な事です。ヴァルカの餌。もう殆どの宇宙連邦人…世界連合に所属している人間からは大した量は摂取できませんよね?」

 マスラがそう言うと、エミリは納得した表情になり、

「あぁ…。"養殖"ってことですのね」

 と、呟いた。

 マスラ達の敵『ヴァルカ』は人の感情。特に"負"の感情を餌とする。

 マスラ達宇宙連邦人は既にその対策を様々な方法で取っている為、ヴァルカへ負の感情を与えるという事は対策されていた。



「そ・ん・な事より、調査というのは進んでいるんですか?」

 早々にこの惑星の調査の結果を知りたがるエミリ。

 調査が早々に終了しなくてはエミリの同胞惑星クラレス人の救出が遅れてしまう。救出されなければ今後起こるであろう戦闘に巻き込まれてしまう可能性があるのだ。


「フフフ、落ち着いてください。まだ私もここに降り立って日が浅い。そう簡単に調査が進むのであれば、今頃私は宇宙連邦の情報部に所属していますよ」

 と、手でまあまあという動作をしながらマスラはエミリに言った。


「ふん。…こちらも同士が増えてきています。Dr.ジュパーソンの洗脳とやらも完璧ではないようですね」

 と、エミリは不機嫌な感じでそう言った。


「ちなみに…今どれくらい人数がいるんです?」


「…122人です…」


「結構多いんですねぇ~」


「ですから、早めに解決していただいて欲しいんですよ」

 エミリはそう言って一息つくと紅茶を一気に飲み干した。


「善処します」

 マスラはそうニッコリとしながら言った。



トントン。



 すると、所長室の扉を叩く音が聞こえた。


「はい、どうぞ」

 マスラがそう声をかけると、


「失礼致します!」

 部屋に入ってきたのはイケ面君であった。


「どうしたのですか?血相を変えて。せっかくの顔面が台無しですよ」

 "せっかくの顔"ではなく"顔面"と言ったマスラの意図は分からないが、イケ面君は言い辛そうにしている。


「?」

 マスラは気になり、イケ面君の視線を辿ると、そこにはエミリが居た。


「あぁ…連邦の作戦本部からですか?」

 いくらエミリが惑星クラレスの市議会議員だからと言って軍事作戦を知られる訳にはいかない。

 だが、イケ面君が発したのは意外な報告であった。


「い、いえ、実は出張に行っていた『モリノ・エイサク』が麻薬密輸容疑で逮捕されました…」




「………は?」

 珍しくマスラは間抜けな声を出してしまった。


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