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魔物は討伐しません、診察します〜転生獣医のもふもふサファリパーク開拓記〜  作者: あおにし
第2部 夜魔族ノクシア

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第39話 保護区は職人も土も招き入れます

いつも応援ありがとうございます!お楽しみください!

翌朝、俺は村長ゴランの屋敷を訪ねていた。


サンダーラビットを保護したことと、保護区内に「試験農園」を作ることへの正式な承諾を得るためだ。


「また、魔物が増えたか……」


「はい。治療をして人間に危害を加えないようにしっかり管理します」


「そうか。他の魔物のように、しっかり面倒を見てやってくれ。あとは、試験農園か……。わしが何を言ったところで、ワタル先生はどうせ進めるつもりなのだろう?」


ゴランは肘をつき、深い溜息をついた。


「マルタさんが、これまでの畑では続けられないと言っていました。でも、マルタさんのやりがいを奪いたくないんです」


俺の話を聞き、ゴランは頷いた。ゴランの横にいたアルノが書類を見ながら言った。


「実は、マルタさんの報告通り、村の周囲の畑にも瘴気の浸食が見え始めています。土が病み、農業を維持するのが日増しに難しくなっています」


ゴランは厳しい表情をした。


「そんな状況じゃ。今後、浄化された先生の保護区で農業が確保できるのなら、それは村の予備食糧として望ましいことじゃ」


ゴランの瞳にはいつもの頑固さだけではない、別の色が混じっていた。


「……ワタル先生。この計画、村の食糧を支える予備の畑として進めてくれ。ただし、勝手に広げるな。区画を増やす時は、必ずわしに報告することじゃ」


かつて「魔物を勝手に増やすな」と怒鳴っていた男からの、それは切実な「公認」の言葉だった。


***


その足で、俺は馬具・農具職人ガルドの工房へと向かった。


「サンダーラビットの雷を、貯めるだと?」


俺の相談を聞いたガルドは、ハンマーを止めて目を見開いた。


俺は、「電気を溜める装置」の話をしつつ、まずは放電を安全に逃がす避雷構造と、それを魔力瓶などに一時的に溜める蓄魔機構の共同検討を提案した。


「……面白そうじゃねえか。だがワタル、あの保護区の設備が増えすぎて、村から保守に通うのも限界だぜ」


ガルドは照れくさそうに鼻を擦り、壁にかけられた大型のスパナを見つめた。


「いっそ俺も、家族を連れてあっちへ引っ越そうかと考え始めているんだ。村の工房は弟子たちに任せられるだろうからな。ロッカに、住居を兼ねた工房が建てられるか聞いてみるよ」


「本当ですか? それは助かります。いざというときにすぐに相談できますから」


「俺もな、保護区での仕事が面白くてな。これを中心にしていきたいと思っていたんだよ。ただ、家族の了承がとれるかはこれからになるけどな」


「期待しています。よろしくお願いします」


ついに保護区内に「職人」が腰を据える兆しが見え始め、俺は力強く頷いた。


***


保護区に戻った俺は、リコとトーマと共に試験農園予定地の除染に取りかかった。瘴気にやられないように、全員マスクを着けた。マルタは農園予定地をじっと眺めていた。


「ここは瘴気も多いし、農園にするのは難しくないかねえ」


マルタが呟いた。


「これから、土地の除染を行います。トーマさん、協力してください」


「わかった」


草を刈り、密閉受け槽の浄化排水を撒く。黒く沈んでいた土の表面から、わずかに茶色が戻った。


「ワタル先生、この水は……」


トーマが驚いて問いかけた。


「これは一度処理を終えた、浄化成分を含む水です。これで瘴気が薄くなります。その上で、プルとプルツーで浄化の仕上げを行います。プル、プルツー。仕上げを頼むぞ」


「ぷるるっ」


「ぷるっ」


密閉受け槽の浄化排水を撒いた土の上を、二匹のスライムが丁寧に這っていく。瘴気はすでに薄まっている。残った反応を食べるだけなら、二匹への負担は少ない。


黒ずんでいた土が次第に本来の色を取り戻し、プルの通った跡にはふかふかとした茶色の土が広がった。


「マルタさん、まだ確認が――」


俺が止めるより早く、マルタは土を一つまみして、静かにその味を確かめた。


「……いい土だよ。けど、先生、畑はここからだ。種を入れて、芽が出て、根が張って……それで初めて土の本当の力が分かるんだからね」


「土を診る者」が浮かべた、プロとしての厳しくも安堵に満ちた笑み。


「次に土地を耕しましょう」


「そこは俺に任せてくれ」


トーマがそう言って、鍬で土を耕した。土が空気を含んで柔らかくなる。その土を見てマルタが優しく微笑んだ。


「明日から、種を植える作業を始められそうだね」


俺はマルタの顔が明るくなったのを見て嬉しくなった。


この場所は、ただの診療所ではなく、村の食糧を支える土を抱えた場所へと変わり始めていた。


【施設管理カルテ】

人的管理:農家マルタ・トーマを試験農園区画の管理協力者として登録。マルタは土壌管理、トーマは耕作作業を担当する。

技術人員:ガルド一家の保護区内移転について協議を開始。施設管理および技術開発の常駐体制を検討する。

技術管理:サンダーラビット(ライ)の反射性放電を安全に逃がす避雷・蓄魔機構について、ガルドと基礎検討を開始。

施設拡張:村長ゴランより保護区内試験農園の設置許可を取得。保護区はルミナ村周辺における「浄化された補完生産地」として位置づけられた。

試験農園区画:浄化排水およびスライムによる土壌除染の初期工程を完了。良好な土壌改善を確認し、試験栽培準備へ移行する。

特記事項:村の畑への瘴気再侵入リスクを考慮し、保護区内農園は将来的な食糧供給の要となる可能性がある。

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