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深掘りギリシャ神話 ~男神と女神、愛と哀の奥の奥~  作者: 風炉の丘
星の乙女は正義の女神? ~アストライア編~
9/15

短編スピンオフ 風の三兄弟

アイドースの過去話を書くため、家族関係を調べたり設定や構想を練っていたところ、彼女の兄たちの話がいい感じにまとまっちゃいました(笑) せっかくですのでスピンオフとして公開します。

 天空の屋敷で、3柱の兄弟が生まれた。

 名前をボレアス、ゼピュロス、ノトスという。

 ボレアスは力自慢の暴れん坊。ゼピュロスはハンサムな優男。そしてノトスは、可もなく不可もない普通な男神だった。

 だが不思議なことに、星空の神アストライオスと暁の女神エオスの間に生まれながら、3兄弟は星空を飛ぶことができなかった。

 代わりに風を自在に操れたため、3兄弟は「アネモイ」と呼ばれた。


 ところで、アネモイ3兄弟には沢山の兄がいた。なんと、夜空に輝く星の全てが兄なのだ!

 そして最も歳の近い兄が、暁の明星を司るポースポロスと、宵の明星を司るヘスペロスの、明星兄弟だった。

 明星兄弟は、夜空を飛べず燻っているアネモイ3兄弟を見かけるたびに、「無駄飯食らい」「親のすねかじり」「星空一族の恥さらし」と、執拗に煽ってくる。

 怒れるボレアスは明星兄弟をぶっ倒そうと追いかけるが、明星兄弟は高らかに笑いながら星空へと飛び去っていった。飛べないボレアスは暴風で攻撃しようとするが、天空より上には空気がないため、一矢報いることすらできない。ボレアスにできることはただ一つ、周囲に当たり散らすことだった。おかげで屋敷の壁や庭が無残に破壊され、その度に修理が繰り返された。明星兄弟が来るたびに修理費用はかさむ一方である。

 一方のゼピュロスは、勉学や鍛錬よりも女体の神秘に興味津々で、毎日のように侍女のニュンペーにちょっかいを出していた。侍女たちも満更でもなさそうだったが。

 ノトスは「このままじゃいけない」と分かっていても、何をしていいか分からず、新たに生まれた妹アイドースの遊び相手になりながら、星空を見上げる毎日だった。

 父アストライオスは「いずれお前たちにも、お前たちにしか役目が見つかる。それまで時を待て」と励ますが、漠然としていて要領を得ない。こうして時ばかりが虚しく流れ、3兄弟は燻り続けていた。


 そんなある日のこと。ノトスは幼い妹を連れて近場の丘へ散歩に出かけると、道の途中で茂みで隠された洞窟を見つける。

 大人なら屈まないと入れない、小さな小さな雲でできた洞窟だった。


 天空世界に雨は降らない。雲の上にあるからだ。だから昼はどこまでも澄んだ青空が広がり、夜は眩いばかりの美しい星空が支配している。

 天空世界は雨が降らない代わりに、雲でできた地面が水分を多く含んでいる。植物は雲に根を張り、雲の水分を吸収して成長する。

 天空世界の風景は、一見すると地上世界と同じだ。少なくとも、草木が生い茂る野原や整備された石畳の道は、同じように見える。しかし草木の生えない、地肌や岩肌が剥き出しの場所は、代わりに白い雲が剥き出していた。


 洞窟の先には何があるのだろう?

 好奇心に囚われたノトスは怖がる妹を入り口に待たせ、独り雲の洞窟を下っていく。入り口の明かりが見えなくなると、今度は進先が徐々に明るくなっていく。たどり着いた底には、光り輝く泉があった。周囲を見回すが他に道はない。ここが終点のようだ。

 それにしてもこの泉、何が光っているのだろう?

 ノトスは泉のそばに近づいて見下ろす。すると泉の底には、黄金に輝く広大な世界が広がっていた。

「これは……、これはなんだ? そうかこれが……、これが地上世界!?」

 天空世界の下にも世界があると話には聞いてはいたが、実際に見るのは初めてだった。

 暖かくて、緑が充ち満ちて、生命が溢れた世界。大地には起伏があり、果てまで広がる水たまり……いや、あれは海か?

 そうか。そうなのだ。ここは終着点じゃない。むしろ出発点だ!

 飛べない夜空を見上げても虚しいだけ。この見下ろした先にこそ未来がある。俺たち3兄弟の未来が。

 ノトスはその世界に、無限大の可能性を見出すのだった。


 その夜、ノトスはボレアスとゼピュロスに提案する。

「俺たち3人で、自分試しの旅に出ないか?」

 正直、3兄弟はまだ未熟な半人前。独りで旅立つ勇気はない。だけど3神揃えば1.5人前だ。困難にぶち当たっても、きっとなんとかなる。そう思っての提案だった。

 ボレアスもゼピュロスも大賛成。ところが、思い立ったが吉日とばかりに、ろくな準備せずに旅立つことになる。

 ノトスとしてはちゃんと家族に挨拶して旅立ちたかったのだが、二人はどうしても今夜中に旅立ちたいらしい。まるで逃亡者だ。わけを聞いても笑うばかりで何も教えてくれない。

 幼い妹が気がかりだったが、置いてけぼりはごめんだ。仕方なく、家族に置き手紙をしたため、兄弟と共に丘へ向かう。

 雲の洞窟を下り、広大に広がる世界へと。

 最初にボレアスが飛び降り、ゼピュロスが続き、ノトスの番となった。

 今更迷いはない。しかし、わずかに未練はあった。

 ノトスは振り返って見上げる。そこには雲の壁しか見えないが、その視線の先には屋敷があった。

 可愛い妹は、今頃夢の中だろうか。


「ごめんなアイドース。兄たま、行ってくる」


 こうして風の3兄弟は、雲の洞窟を抜けて地上世界へと降り立つ。

 旅は苦難の連続だったが、その果てに「嵐を呼ぶ男神おとこ」と出会う。若き王子ゼウスである。

 ゼウスの家臣となった3兄弟は、ティタノマキアでの奮戦を経て、風神の役割を与えられる。

 北風の神ボレアス。西風の神ゼピュロス。南風の神ノトスの誕生であった。


    風の3兄弟 完

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