【急成長】地獄の調練三ヶ月。再会した皇后に愛でられる変貌した肉体
あれから三月が経過していた。
廠は、まだ新兵の調練を続けていた。
季節は移り、朝の空気は冬の鋭さを失い、代わりに土の匂いを含んだ柔らかさを帯びていた。
だが、調練場に立つ新兵たちの顔つきは、季節とは逆に険しさを増している。
三か月の間に、半分以上が脱落した。
病に倒れた者、怪我で動けなくなった者、そして二度と戻らなかった者。
廠は列の中に立ち、深く息を吸った。
「姿勢が崩れているぞ」
教官の声が飛ぶ。
今は反射的に背筋を伸ばすだけだ。
「はい」
短く返事をし、廠は槍を握り直した。
手のひらには硬い皮ができ、握り方ひとつで痛むことはもうない。
隣では姜延が、汗を拭いながらぼそりと呟く。
「三か月もやってりゃ、そろそろ慣れてもいい頃だろうに……」
「慣れたら終わりだって、教官が言ってただろ」
廠が返すと、姜延は鼻で笑った。
「お前は真面目すぎるんだよ」
そう言いながらも、姜延の槍さばきは三か月前とは比べ物にならないほど鋭くなっていた。
二人とも生き残るために必死だった。
午前の調練が終わると、新兵たちは地面に座り込み、荒い息を吐いた。
その瞬間、角笛が鳴り響いた。
「午後は山越えだ。遅れた者は置いていく」
新兵たちがざわめく。
「またかよ。三か月で何回山を越えさせる気だ」
姜延が苦笑した。
廠は立ち上がり、槍を握り直した。
「行くぞ、姜延」
「おうよ。死ぬなよ、廠」
廠は小さく笑った。
「お前もな」
二人は列に戻り、再び走り出した。
ーー
二日目の夜。
迎えに行くつもりで、かすみが宿舎に忍び込んだが、
廠はまだ続けたいと言っていると、かすみが伝えてきた。
そのまま宮殿にかすみと戻り、織に廠のことを話した。
「何が、廠をそこまで駆り立てるのでしょう?」
織は誰に問う事もなくつぶやいていた。
「廠も、男の端くれ。意地があるのかもしれません」
紅陽が答える。
「確かに、まだ二日目だし」
かすみが言う。
「意地、ね…」
織の居室は今、紅陽とかすみしかいない。
調練中であっても、十日に一度は休みが与えられる。
その時に一度、宮殿に戻ってくるとも言っていた。
「まあ、とにかく死なせないで」
「はっ、もちろんそれだけは」
ーー
今日は、調練が休みの日だった。
廠は、休みの前日にそっと宿舎を抜け出し、宮殿への抜け道を通る。
抜けたところの近くに、湯殿があるのが、ありがたかった。
湯殿の女官達は、突然の訪問でも、もう驚くことはなかった。
女官の一人が、廠の服装を脱がそうとして近づいてきた。
「自分でやる」
上衣の紐をほどく。
麻布が汗で肌に張りついており、引き剥がすたびに微かな痛みが走った。
「織を呼んでくれないか?」
「直ちに」
女官がかけ去っていった。
寝台まで、待ちきれない廠は、いつも湯殿に織を呼んだ。
織は、いつも丁寧に廠の身体を洗ってくれた。
指先から、足のつま先に至るまで、丹念に。
その箇所に至ると、織は手ではなく、口元の温もりで静かに労わった。
織の温もりに包まれたまま、廠は堪えきれずに、抑えていたものが解き放たれた。
交合を続けて、終わるころには、明け方になっていた。
「廠、ずいぶんと逞しくなったね」
「そう?自分じゃまだ実感が少ないかも」
「腕とか、筋肉ついてるし」
「前よりはね」
織は寝台で、調練前と比べて明らかに太くなった廠の腕に、抱かれていた。
「ねえ、最後まで続ける気?」
「ここまで来たら、やってやろうと思っている」
新兵の調練期間は、半年だった。
その後は、それぞれの部隊へと配属される。
「…まあ、いいけど」
「こっちは、特に問題はないよね?」
「内政には問題ないわ。漢中がどうなるか、それだけ」
今も諸葛亮率いる蜀軍が、出陣のための準備をしている。
魏軍の敵将は、司馬懿という報告を織は受けていたようだった。
廠が不在の間は、織が蔣琬や諸葛亮からの報告を受けたり、決裁をしていた。
織は蜀の内情については、父である張飛や母親から聞いて、把握していた。
劉禅に鎧を着せられて、遠ざけられている時も、内情はつぶさに調べていた。
織は、忍びの集団を父から受け継いでいたのだ。
朧と呼んでいた。
その中にかすみはいたのだ。
かすみを侍女として、織のそばにつけたのは張飛だった。
「織が皇帝なら、万事うまくいきそうだな、この国は」
「何を言っているの?帝に必要なのは、その血なのよ」
「まあ、そうだよね」
まだ、明日の調練開始までは丸一日のこっている。
廠は、再び織に重なり始めた。




