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三国志の端っこで生きています  作者: 水原伊織


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【劉禅行方不明】護衛隊長・紅陽の焦燥と消えた皇帝の謎

近衛兵の隊長である紅陽こうようは、焦っていた。

護衛対象である劉禅が、鹿狩りの最中ほんの少しの間、目を離した途端に、突如消えたのだ。


宮殿から裏口を抜けると、広い草原に出る。

そこで、劉禅はよく鹿狩りをする。

紅陽は、わずかな供回りを連れて、いつも供をする。


「いたか」

「…まだ見つかりません、人を呼びますか?」

「いや、見失ったといえば、またあの宦官に嫌味を言われる」


皓皓という宦官が今、宮殿内では権力を握っていた。

きっかけは、劉禅だった。

劉禅に気に入られた黄皓が、宮殿内で実権を握り始めたのだ。


本来は、董允というものが諸葛亮の命を受けた形で、宦官が政治に介入をしてこないようにしていた。


その董允が死んだ。


諸葛亮は今、漢中で、北伐の最中だった。

その隙を狙ったのだ。


「しかし、いったいどこへ」

「とにかく探すしかない」


紅陽は草原に吹く風の音を聞きながら、舌打ちをこらえた。

冬の匂いを含んだ風が、草をざわつかせる。


「……足跡はどうだ」


供回りの兵が膝をつき、草をかき分ける。


「鹿のものばかりで、陛下の足跡は途中で途切れています」

「途切れるはずがないだろう。人間は空を飛ばん」


紅陽は低く唸り、草原を見渡した。

どこまでも広がる緑の海。

そのどこかに、蜀の皇帝が消えている。


「隊長、馬の蹄跡があります。陛下の馬とは違うようですが……」

「どこだ」


兵が指さした先、草が不自然に倒れていた。

馬が通った跡だ。

紅陽はしゃがみ込み、指先で土をなぞる。


「……新しい。ついさっきのものだ」

「まさか、誰かに連れ去られたのでは」

「誘拐か、あるいは……陛下が自分でついて行ったのかもしれん」


紅陽は立ち上がり、空を見た。


「探せ。草原の端まで全部だ。

 陛下がどこに消えたのか、必ず突き止める」


兵たちが散っていく。

紅陽はひとり、草原の風を受けながら呟いた。


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