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第3話 今何してる?

「やっぱ女の子の匂いする……」

「だろうなぁ……」

「認めるんだね! で! どんな子なの?」


 帰ってくるなり玲奈に出迎えられた(尋問)。まあもう隠すこともできないだろうし、別にやましい関係ではない。説明したら、玲奈もわかってくれるはずだ。


「まあ……優しくて、元気な子とだけ。あと、そういう関係じゃないから」

「嘘つき……やっぱ侍らせてるでしょ!」

「なわけないだろ……?」

「お兄ちゃんのことだから、『まゆちゃんの方が可愛い』って言って、見向きもしないんでしょ!」


 おい、推しと同じにしないでくれ。確かにアイツは可愛いけどそれとこれは別だ。


「と、ともかくな……詮索しないで欲しいんだけど……」

「無理だよ。だって玲奈は妹だから。お兄ちゃんの彼女を選ぶ権利があるの」

「いや、俺に選ばせてくれよ……」


 思わず笑顔が引き攣った。もうコイツも中学生になったのに、まだまだブラコンが抜けていない。お兄ちゃん離れはいつになるのやら――なんて考えていたら、俺の手を取った。


「クンクン……手から女の子の匂い……もしかして、ベタベタ触ったんだね?」

「は? 触った……? 俺が? アイツを?」


 記憶を遡りながらとあるところで合点があった。


(ハグ拒否した時に……めっちゃ肩触ったな……)


 無意識だったし他意はない。でもアイツ以外の女子なんを触るなんて考えただけで背筋が凍る。

 あの時の俺は、特別に雨谷を触った……?


「……まあいいけど、コレ、お兄ちゃんの彼女になるための条件リストだよ」


 そう言って俺に見せたコピー用紙には、こう書かれていた。


 ・お兄ちゃんと玲奈に優しい人。

 ・玲奈より可愛い子はダメ。

 ・家庭的で料理が上手な人。

 ・お兄ちゃんのダメなところも愛してくれる人。

 ・私にお菓子を買ってくれる人。

 ……この下にも30項目ほど続いていた。ギチギチに詰め込みすぎて、フォントサイズが小さい。

 いくらなんでも俺の妹は拗らせすぎだ。現実を見てもらいたい。それと同時にコイツが結婚できるか怪しくなってきた。まあ……かく言う俺は、恋愛に無頓着なわけだけど。


「あのなぁ……こんな人この世にいないだろ? 妥協しろ。それに俺の彼女だし……」

「じゃあ、この世にいなければ、あの世で!」

「おい、俺は現世で相手を選ぶぞ」


 軽口だと信じたいが……なんか言い切れない節がある。コイツのお眼鏡にかかる完璧超人は現れるのか……。

 いや、無理だな。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺がPCゲームをしている時に、着信があった。相手は案の定雨谷だったけど早すぎないか? デジタル時計は20時と表示されてるし、園児だった頃の方が遅寝だ。

 まあ約束は約束だ。俺が着信を受け入れると、コレから寝るとは到底思えないほど元気な声だった。


『塩川くん! 今何してるの?』

「おお……今はゲームしてるぞ」

『へぇ……私、今何してると思う?』


 おいおい、「何処が変わったと思う?」ぐらい難題が飛んできた。雨谷の方からは生活音的な音は聞こえないし、考察のしようがない。

 知らんがな――なんで返したら、傷つくんだろうし会話が終わる。しらみつぶしでいいか。


「じゃあ、宿題?」

『違うよ』

「本読んでるとか?」

『違うんだなぁ〜』

「わかった! スマホいじってるでしょ」

『違うんだよねぇ』


 消去法は寝落ちどころか朝が来てしまうな。


「降参する。それで、何してたんだ?」

『何もしてない』

「……は?」


 呆気に取られて間抜けな声を出た。一連のやり取りはなんだったんだよ……。


「なんだよそれ……」

「……だって、お話ししたいし……」

「わかったよ。でもこっちゲームしながらでいいか?」

「うん、大丈夫」


 その返事を聞いて俺はBluetoothを入れてヘッドホンを付けた。

 もし突拍子のない事を言い出して、家中にまで俺の貞操が注目されるのは御免だ。

 通話の向こうからは足をバタバタ……寝っ転がってるのか? そんな音がする。


「じゃあさぁ……初印象を言い合おうよ♪」

「……おう」

「じゃあ、最初は塩谷くんからだよ」

「え? 言い出しっぺからするものじゃないのか?」

「えぇ? 気になるんだけどなぁ……」


 通話越しでも悪戯っぽい顔が浮かぶし、何処か楽しそうだ。

 雨谷の初印象――初対面は確か、入学して3日ほど経って、クラス内にどんどんグループが出来る中、置いてかれていた俺に雨谷が話しかけてくれた。

 その時の話題は他愛無い物だった気がする。「好きなアーティストは?」とか「どこの中学出身」とか。

 まあその時の俺は、クラス内では女子どころか男子にも話しかけてもらえなかったので、容姿も相まって天使のように見えた。まあ、今となっては小悪魔の方が近いけど。

 うん、そのまま言ったら調子づくに決まってるので、言葉を選んで言う。


「えっと……優しい子だなぁ……とだけ」

「それだけ?」

「まあ、うん」

「本当に?」

「本当に」


 君のような感の良いガキは嫌……いにはなれないけど、好きではないかな。

 今日、距離を置いたことも、真意を隠していることも、雨谷には筒抜けなのか?

 意地でも口を割らない俺にふふってと雨谷は笑って、「素直じゃないなぁ……そう言うとこも……ね?」と言った。

 そういえば……まだ好きとは言われてないんだよな。

 遊ばれてる訳ではないだろうけど、何と言うか……こそばゆい。


「塩川くんの初印象、聞きたい?」

「まあ……聞きたいかな」

「え〜どうしよっ♪」

「言い合うんじゃなかったのか?」

「…………」


 なんか黙り込んだぞ。もしかしてそこまで良い印象じゃなかったのか?

 でも今の距離感はおかしいくらい近いし……いや、言ってくれないと分からんな。こればかりは。


「……最初はね、遠い人だと思ってた。いつも一人だし」

「おい、皮肉か?」


 あの時は好きで一人だったわけじゃない。中学の頃とは周囲の雰囲気が違くて、馴染むのが遅れただけだ。うん、今はぼっちじゃないよ。


「そうじゃない……最初は、“話しかけた方がいいかなー”ぐらいだったよ。でも、本当は優しくて、紳士的で……」

「あ、雨谷って恥ずかしい事をさらっというよな……」


 ダメだ。雨谷って、こんな人間だったっけ? こんな正直な人間じゃなかった気がする。はあ……なんか、気持ちを返せないのが申し訳ない。


(今は……我慢してくれよ)


「ま、照れる夏樹くんも……ね?」


 おい! 不意打ちで名前を呼ぶのはやめてくれ。さっきの発言でかなり悶えているんだ。「照れてない」と軽くあしらうが、「またまた〜」とからかいが帰ってくる。

 はあ……俺はどうなっちまったんだ。いつもならミスしないキャラコンで盛大に失敗した。もうゲームに集中できん。


「また揶揄ってくる……これだから雨谷さんは」

「素直じゃないなぁ、これだから塩谷くんは♪」


 やっぱり雨谷の声色は楽しげだった。

 そして通話時間は、過去最長を記録した。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます


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こればからりは、声を大にして言わないとですね


「早く付き合えよ!」

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