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丘の上で結わう花  作者: pan
第1章 退屈な日常が、変わる
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第38話 暇つぶしのアレ

「――お兄(にい)、起きて!」


「……ん、寝てたか。ふぁー……」


 体を揺すられ起きた駈は、大きく開いた口を手で覆(おお)いながら生意気にも欠伸(あくび)をする。


 昼飯であるラーメンを食べてから車に戻った駈(かける)たちは家族団らんの時を続けていた。しかし、駈は満腹感と朝からの疲労で体が限界を迎えていたのか、早苗に起こされるまで寝てしまっていたのだ。


「もう、まだお昼なのに寝すぎだって」


「確かにそうだな……。もしかして着いた?」


「そうだよ。ほら、お兄も荷物持って!」


 早苗はすぐさまトランクの脇に置いてあった自分の荷物を手に、先に行っていた両親の元へ向かっていった。駈も早く向かおうと寝起きでだるさの残った体を無理やり起こし車から降りる。未だ快晴が続いている空は眩しく、自然が見えるまわりの空気は心を落ち着かせる。


「あ、駈ちゃん。こんにちは」


 両親たちが待つ場所へ駈が到着すると、祖母がゆったりとした口調で挨拶してきた。腰に手をまわし、年に一度しか見られない孫の顔を見ながら優しい表情をしている。


「こんにちは、おばあちゃん」


「よし、駈も来たし入ろうか」


 お邪魔します、と孝(たかし)の合図で紗季(さき)の実家へと足を運んでいく。


 紗季の実家は老舗(しにせ)の旅館で、祖母と紗季の姉が切り盛りしている。見た目は旅館らしい和風の作りで、くすんだ木が歴史を感じさせる。温泉はもちろん、宴会用の大広間もあるため、田舎と雖(いえど)も客足は少なくない。


 お盆の時期は紗季たちや親戚が集まるため、一般客はおらず貸し切り状態となる。貸し切りと言っても料金はかかるが、風情ある壮大な旅館を優雅に満喫できるなんて羨ましい限りだ。


「では、お部屋にご案内します」


 旅館の入り口で待っていた姉が会釈(えしゃく)してから階段に向かった。駈たちは荷物を片手に、ミシミシと鳴く木の板を踏みしめながら付いて行く。


「こちらになります」


「もう姉さん、そんなにかしこまらなくていいって毎年言っているでしょ」


「そうね。でもお客様だから、それではごゆっくり」


 姉は柔らかい表情でこの場を後にした。旅館に勤めているからか堅い振る舞いを解くことはせず、せめてもの笑顔だったのだろう。駈たちは部屋に入ると、各々の荷物を一か所にまとめから腰を下ろした。


 案内されたのは毎年泊まっている二階の角部屋だ。泊まれる部屋で最も広く、四人分の布団を広げても余るぐらいの和室と主室がある。もちろん旅館の代名詞とも言える広縁(ひろえん)もあり、そこに座って自然を楽しむことが出来る。


「さて、とりあえず夕食まで待つか」


 孝は体を伸ばすと、主室にある卓に腕を置いた。ここでの夕食は部屋に運ばれるのではなく、宴会場でとることになっている。そこでは親戚や祖母がお世話になった人たちが集まって、言葉を交わしながら時間を過ごす。


 駈にとってはその時間が退屈でしかない。誰とも話そうとせず、話しかけられない、話しかけられたとしても祖母か家族だけだ。


「待っている時間が暇なら遊ぼ!」


 早苗は待ち時間を潰す定番アイテムとも言えるトランプを取り出した。そのまま卓に置いたかと思うと、ケースからトランプ出してシャッフルする。確かに時間は有り余っているのだが、駈は寝起きということもあり、あまり乗り気ではない。


「よし! 今年も大富豪やるぞ!」

「えー、ババ抜きでいいよー」

「私は神経衰弱がいいわ」


 家族は乗り気なのか、それぞれやりたいゲームを言い始めた。駈はそんな和気あいあいとしたやり取りに粘りつくような目で見ていた。


(……まあ、今は楽しんでおけばいいか)


 駈は加わろうと家族が集まる卓へ近寄った。この空気を壊さないようにとか相手の様子を窺っているわけではない。ただ、自分が楽しみたいから。その一心で、声を出す。


「……んじゃ俺は、七並べで」


「あ、お兄も遊ぶ!? 七並べは却下だけど」


 早苗に賛同しているのか両親も「そうね」「だな」と声を上げる。ただ思い付いたゲームを言っただけで、ここまで否定されるとやるせない。駈は肩をすくめながら、小さく溜め息をついた。


「はあ……じゃあ大富豪で」


「よっしゃあ! 駈もこう言ってるし大富豪だ!」


「お父さん、うるさい」


「あ、はい……」


 大声を出しながらガッツポーズをとる孝だったが、娘からの冷ややかな眼差しと沈み込んだ声色に態度を改め、体を縮こませた。熱しやすくも冷めやすい早苗の態度は誰に似たのやら。




 この後、結局やりたいゲームを順繰りやっていった。それぞれ得意なゲームを選択していたのか、大富豪は強欲な孝が、ババ抜きは相手の考えていることを妙に見抜ける早苗が、神経衰弱は記憶力に長けている紗季が独占していた。ババ抜きに関しては未だにどうやって毎回一位抜けしているのか理解が出来ない。


「やったー! また一位!」


「いやー、早苗はババ抜き強いなー」


「まあね、お父さん顔に全部出てるし」


 孝は「なに!?」と驚愕の表情を浮かべながら顔を撫でまわす。


「もう孝さん、早く取ってください」


 紗季は急かすように声をかける。手札はすでに一枚、つまり二位抜けが確定していた。孝は最後の一枚を取り、手札に収める。


「毎回こんな感じだな、駈」


「……そうだな」


 駈も顔に出ているのか最終的には孝との一騎打ちになる。駈の手札は一枚、反対に孝の手札は二枚。つまりババはあっちに存在し、相手は表情に出やすい。駈の勝機は十二分だ。


 駈は二枚あるカードを交互に指で撫でる。どっちを取るべきか孝の表情から汲み取るためだ。しかし、どういう訳か表情が変わらない。駈は揺さぶってやろうと言葉をかける。


「父さん、ババどっちさ」


「教えるわけないだろう、息子よ」


 孝は表情筋をピクピクと痙攣させながら、落ち着いたような口調でいなす。どう考えても表情を固めようと必死になっているようにしか見えない。しかし、駈は一世一代の勝負かのように真剣になって集中している。


(よし、これだ!)


 駈は意を決し、カードを抜き取ろうと指で挟んだ。その瞬間、踏込(ふみこみ)から女将(おかみ)らしき人の声が聞こえてきた。


「三橋様、ご夕食の時間でございます」


「はーい。さて、行きましょうか」


 いつの間にかトランプだけで数時間過ごしていたらしい。駈は声が聞こえていたのではないかと恥ずかしくなり、抜き取ったカードを確認せず宴会場へ向かった。

旅館の用語とか振る舞いがわからなすぎて勉強不足を感じた……。


お読みいただき、ありがとうございます。

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