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24 父との再会

 父が目覚めたと連絡があった日、祝はそのまま家を飛び出して水の館へ向かった。

 水の精霊王は慌てる祝に、「瑞祥は逃げないわよ」と苦笑していたけれど、顔を見るまでは安心できなかった。

 母と蝶子は仙境へ入れないので家で待っている。

 早く2人にも父の様子を伝えたかったのだ。


 父は泉の部屋を出て館の中の客間で休んでいるらしい。今は、有馬と話し合っている最中だから、それが終わるまでじっと待つことにした。


「今日までがんばってポリニーを集めましたね。精霊でも見つけるのに苦心することがありますから、花もあなたの気持ちを汲んだのでしょう」


 祝にお茶の用意をしてくれた精霊はクスクスと笑っている。


「精霊さんたちにこっそり教えてもらったから毎日父に届けることができました。あっ、ポリニーにもお礼を言った方がいいですね。今から行ってきます」

「まあまあ、そんなに慌てなくても瑞祥さまのお部屋に入れるようになるのに、あと少しかかりますから、ゆっくりとおいでなさいな」


 イスから飛び降りて館の外へ走ろうとした祝は、それを聞いて一度立ち止まり、ぺこりと頭を下げた。


「ポリニーにお礼を言いたいのですけど、どうやって言っていいのかわからないのです。教えて頂けますか」


 祝は館の外にいた精霊に尋ねる。精霊は、「心を込めてお礼を言えば届きますよ」と教えてくれた。

 教えてもらった通りに、草がふわふわの地面に膝を着く。


「花を育ててくれた水の館を流れる小川、育んでくれた土、そして、お父さんの心を守ってくれたポリニー、本当にありがとう。おかげで無事にお父さんが目覚めました」


 祝が目を閉じ声を出すと、膝の辺りがムズムズとしだした。

 祝が目を開け視線を下げると、祝を取り囲むように黄色い小さい花が茎をのばし、一気に咲き出した。


「わわわっ、どうしようこれ」


 膝を着いたままなので、黄色い花にあっという間に視界が埋もれてしまう。


「ポリニーからの祝さまの言葉に対する返礼ですよ。せっかくですから今日のお茶の分を少し頂きましょう」


 精霊は埋もれた祝を引っ張り起こし、黄色い小さな花の部分だけを摘んでいく。

 祝も花にもう一度お礼を言って少しだけ分けてもらった。


 館に戻ると、水の精霊王が祝を有馬と父がいる部屋に連れて行ってくれた。

 ドキドキしながら水の精霊王の後をついていく。


「あら、どうしたの。後ろに隠れてないで出て来なさいな」


 水の精霊王は笑っているけれど、3年ぶりの父との対面なのだ。

 子どもの3年は大きい。7歳だった祝は10歳いなっている。

 身長だって伸びたし、髪も背中の真ん中まである。顔つきもぽよよんとした頬っぺたが少しシャープになっているのだ。

 もし、父が今の祝を見てガッカリするような表情をしたら、と思うと会いたいのに、足がすくんでしまう。


「祝、ただいま」


 水の精霊王が隠れている祝を前に押し出すと、部屋の真ん中に置かれていたベッドにクッションを置き、上半身を起こしている父が祝に手を伸ばした。


「お父さぁんっ!」


 祝は父へ駆け出して、そのまま胸に飛び込んだ。

 父は祝の記憶にあるままの姿と匂いと温かさだった。


「大きくなったな。ほら、よく顔を見せて」


 祝は涙と鼻水でグズグズになった顔を上げる。父はその顔を見て、大笑いした。


「アハハハ、不細工だなあ」

「おかえりなさい、お父さん」


 ヒックヒック、言いながらも祝は父に笑いかける。父は大きな手で祝の顔を撫でると、涙を指先で拭った。

 気が済むまで父に抱き着いたあとで、祝がさっき摘んだポリニーでお茶を淹れてもらい、それを飲んでようやく落ち着いて座ることが出来た。

 ポリニー、ホントにすごい。


「さっき、有馬さんとヴィーからお父さんが寝てる間のことを聞いたんだ。よく頑張ったな」


 父が水の精霊王のことを名前で呼ぶのを初めて聞いた。父なりに水の精霊王に感謝しているのだろう。


 父は呪詛を受けた時のことを詳しく話してくれた。

 相手に跳ね返ったのを確認したあとで、倒れたそうだ。


「呪詛が跳ね返るときに一緒に意識を飛ばしたんだ。正確には意識の一部を呪詛に同調させて返すことで相手を確認することができるんだ」


 父は倒れながらも呪詛を放った相手の顔をしっかりと確認していた。


「呪詛を放った相手は知らない人だったけれど、その横に一緒にいたヤツは知り合いだった」

「周りまで見えたの?」

「ああ、跳ね返って術者に返ることで術者の中に自分の意識を入れることが出来るんだ。だから、そのときに術者の視界を共有するからね。隣りにいたヤツの顔も見えたわけだ」


 普通はそんなことは危なくてしない、と有馬は顔をしかめていた。父は、せっかくですから、と笑っていたけど、そんな理由で3年も寝込まれては困る。


「知り合いって誰だったの?」


 祝が尋ねると、父は祝ではなく有馬の顔を見た。有馬は肩をすくめた。


「この3年、祝は十分よく『鍵』としての知識を付けたし、成長もした。毎日ここへも通っていたんだぞ。教えても大丈夫だ」

「有馬先生……」


 いつも精霊捕縛術では怒られてばっかりだから、そんなふうに思ってくれていたなんて。

 祝はびっくりして有馬を見上げる。


「そうですか。じゃあ、祝も知っておいた方が良いですね」

「ああ、その方が祝も自分を守ることが出来るだろう。これから親がずっと側についていられるわけじゃないんだ」


 父はちょっと納得いかないような顔をしていたけれど、3年間も沈んでいたという後ろめたさもあるのか、最後には有馬に同意して名を明かしてくれた。


「呪詛を術者に命じたていたのは、百合子さんの兄貴だった」

「百合子伯母さんのお兄さん?」


 ということは、従兄の(ゆずりは)にとっては伯父に当たる人だ。


「どうして、お父さんを殺そうとしたの?」

「それは……」


 父は言葉に詰まり、有馬がそれを引き継いだ。

 

「墓堀家は光の妖精王の庇護下にあることは知っているな? 『鍵』は光を体内に持って生まれてくる子が選ばれる。ただし、体内に持っている光の量は個人差が大きい。瑞祥は規格外だった」


 父は先祖返りと言われるほど、光の精霊たちに好まれた。それだけ、父の持っている光の量が多かったからだそうだ。

 だから、父は四代精霊の祝福をすべて受けているし、精霊たちとのコンタクトもたやすい。

 『鍵』としてだけの能力を考えると、伯父より父の方が跡取りとしては相応しいのだそうだ。


「おまけに百合子さんは川渡一族だから、光より闇が近いんだ。光の祝福のない国継と闇に近い百合子さんの子どもである楪が『鍵』として仕事が出来るか不安に思っている人間は少なくない」


 有馬は自分もその一人だ、と付け加えた。


「川渡は『鍵』の仕事がどういうものかというのを表面上のことしかわかっていないんだ。結界を解き、この町を公にすることを望んでいるらしい」


 町に誰でも入って来れるようにすることで、自分のグループ会社を大きくし、楪を跡取りにしたあとは精霊の力を使って事業を拡大するつもりでいるらしい。

 もちろん、精霊たちは楪の思うようには動かないし、そうなった場合、仙境へ繋がる門を閉じ、墓堀家どころかこの町のすべてが消される可能性の方が高い。


「だけどな、国継は当代だと言っても精霊の祝福もないから水の精霊王以外とはまともに話をしたこともないんだ。だから、精霊のことは良く分かっていない。領地を治める統治者としては失格なんだ」


 伯父は父や有馬ほど仙境のことを重要視していないみたいだ。

 それに危機感を抱いた精霊たちは、余計に息子である楪を遠ざけているのだという。

 祝福を受けられないことに焦っていた楪や、そのことで跡取りから外されることを懸念していた伯母の実家は、祝たちが戻ってきたことによって、その不安がピークに達したらしい。


 不安材料は排除する。

 そう考えたとしてもおかしくない。


「伯母さんや楪は実家がしていることを知ってるんですか?」


 祝が有馬に尋ねると、有馬は首を振った。


「さあ、どうだろうな。瑞祥はどう思う?」

「知らないとは思いますけど、知っていて見なかったことにしている可能性もありますね」

「じゃあ、まずはその確認だな。俺は一度離れに戻って沙織さんや蝶子にお前の状況を話してくるよ。瑞祥は祝と一緒に戻ってこい」


 有馬はそう言うと、水の精霊王に退出の挨拶をして土の館のある方へ戻っていった。



 


いつも読んでくださってありがとうございます。


有馬は水の祝福がないので、町へ戻るときに淡いの森を通らなくてはいけません。

水の館を出て土の館へ戻り、町へ戻ることを土の精霊王に伝えて門を抜けて町へ戻る、という面倒なことをしています。


祝は春の庭からすぐに水の館へ来れるので、有馬の苦労があまりわかってないかもしれません。


次は父の帰宅です。

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