プロローグ
初めまして、読んでくださってありがとうございます。
異世界に転生しない、転移しない、現実世界のファンタジーです。
どうぞよろしくお願いします。
七年前、若い夫婦に女の子が生まれた。
普通なら大喜びで誕生を祝うものだけれど、その女の子の場合、それはひっそりと行われていた。
その子は真っ黒な髪に大きな目をしたかわいらしい子だった。
生まれてから2日目の夜、女の子が寝かされている産院のベッドの横には現実世界にはそぐわない格好をした人が立っていた。
夜なのに輝いて見えるほどの金色の髪は滝のように背中に流れ、夏の青空のような膝までのチュニックには髪と同じ金糸で精密な刺繍が施されていた。編み上げブーツを履き、頭上には王冠のような物が乗っていた。
その人の目は濃いサファイアを思い起こさせる藍色で、低く穏やかな声は耳を通り抜けるときに揺らいでいるようだった。
女の子の父親はその人の姿を見ると、足元で片膝を付き頭を下げた。
「お前たちの家は仙境の鍵の番人だ。それを忘れたわけではあるまい?」
金色の髪の人は女の子へと手を伸ばし、額に指を付ける。
父親はそれを見て、握った拳に力を入れた。
「この子は鍵となる子、精霊の愛し子。遥か昔からの盟約は変えられん。我らは鍵の番人の一族に繁栄をもたらし、鍵の番人は次世代の鍵を生む。この理からは誰も逃れることは出来ないのだ」
父親は黙ったまま、眉を寄せている。
「この子に名を授けよう。『祝』が良いだろう。この子の人生に祝うことが多くあるように」
そう告げると、金色の髪の人の姿は薄れていき、やがて消えてしまった。
ぐっすりと寝ている妻と、反対側に置かれたベビーベッドで眠る娘。
父親は小さくため息をつき、娘のそばに行った。
「おめでとう、と言っていいかどうかわからないけれど、妖精の王から名前を授けられたよ。君は今から『墓堀 祝』だ」
1つ気になるのは、妖精王が名前を授ける時、その子の人生の不足を補うために名前を選ぶと言われていることだ。
「おちびちゃんはどんな人生を歩むのかね」
父親は娘の寝顔を見て小さく笑った。




