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ちょっと、話が違うではないですか! あれほどオフレコでお願いしますと、何度も何度も念を押したのに、なぜ!? なぜ夏の女王様に言ってしまったのですかぁ! おかげで大変な目に合いましたよ。ええ、それはそれは大変でした。まぁ、なんとか夏の女王様は機嫌を直してくださいましたが、ああ、とてもくたびれました。あなたのせいですからね!
ウォホン。まあ、この件に関してはもういいです。ええ、あなたも悪気があったわけではないのでしょう? ええ? 悪気しかなかった!? ……まあ、いいでしょう。あなたは素直な人間だ。素直でよろしい。さて、改めまして、まずは礼を言いましょう。ひまわりを持って来てくださり、ありがとうございます。ただ、あなたもすでにお気づきでしょう。冬はまだ終わっておりません。やから一号は見事に失敗しました。つまり、その、えっと…………ひまわりは、無駄になりました。ええ、無駄です。完全に無駄足です。いや、ちょっと、怒こらないでくださいな。確かに、ひまわりは無駄でしたが、あなたは意味あることをした。夏の女王様が冬の時期に「四季の国」に帰って来られたのです。これがどれほどすごいことか、あなたはわかっていないようだ。ええ、あなたが「ヒートランド」に行ったことは、それだけで価値あることだったのです。それはわたくしが補償いたします。あなたは胸を張っていいのです。
さて、夏の女王様が帰ってきたことで、進展がありました。ええ、夏の女王様が、塔に行って、直接冬の女王様とお話をされました。塔内部には、四季の女王様しか入れませんから、ようやく冬の女王様の意志を確認できました。何故冬の女王様が塔から出て来ないのか、その理由が判明いたしました。理由は至極単純でした。
―――いや、だって、ハルが来ないから。
そうです。春の女王様が来ないから、冬の女王様は塔から出なかったのです。ただ、それだけの理由だったのです。夏の女王様は「寒いわ寒いわ」と言いながら、はやくハルを探してきなさいと、わたくしに命令されました。他にも従者はたくさんいるのに、何故か隠居前のわたくしに命令されました。女王様の命令を無視するわけにはいきません。故に、わたくしは老体に鞭打っておるわけです。最近は膝が痛くて困ります。階段を昇るのも辛くて……え? 今度は春の女王様を探せばいいのかって? いえいえ、それはあなたの仕事ではありません。あなたの仕事は、やからが求める褒美を探して持ってくることです。春の女王様を探す部隊は既に編成されております。春の女王様には常に側近兵が付いております。その側近兵と今連絡を取っているところですから、直に見つかるでしょう。ご心配なく。
さて、ここからが本題でございます。ええ、お察しのとおり、やから二号が現れました。やから一号がいたのだから、やから二号もいるでしょう。ええ、いるでしょう。この調子でいけば、やから三号、やから四号、やから五号と現れて、ゴレンジャーを結成するやもしれません。名付けて、やから戦隊、ゴレンジャー! なんて。あははは……そんな怖い目で睨まないでくださいな。ええ、眉間にシワが寄っておりますよ。ええ、怖いです。落ち着いて、落ち着いて。深呼吸しましょう。ええ、深呼吸です。ヒーヒーフー、ヒーヒーフー。え? それはラマーズ法だって? そんな細かいことはさておいて、お待ちかね、やから二号が望む褒美でございます。ええ、やから二号は、わたくしが最も懸念していたことを所望しました。それは、女王との結婚です。卑しい愚民のクセに、おこがましいヤツですよ! まったく、けしからん!! ヒーヒーフー、ヒーヒーフー。血圧が上がって、血管が切れそうですよ。はぁ、はぁ……。気を取り直しましょう。あなたの今回の任務は、『世界最小のピコ鉛筆』と『世界最大倍率のテラルーペ』を探し出すことでございます。ん? なぜそんなものを探してこなければいけないのかって? ええ、あなたには全てお話ししましょう。ただ、今度こそ、トップシークレットでお願いいたします。他言は絶対にしないでください。いいですね? 約束でございますよ。
これから我々が行うことは、社会のルールギリギリのラインを犯すことになります。ええ、言ってしまえば、詐欺です。つまりは、お触れを、改ざんするのです。え? 言っている意味がわからないって? よくあるでしょう。契約書の端っこに、ものすごく小さい字で重要な注意書きが書いてあること。そうですね、具体例をあげれば、借金の借用書の端っこに、「金利は100倍です」と小さく、それはそれは極小のミクロの文字が書いてあったとしましょう。その借用書にハンコを押してしまったら、100倍の金利を払わなければならぬのです。何故なら、借用書に「金利100倍」と書いてあるから、そして、そこに判を押したから。社会のルールとはそういうものです。字が小さすぎて見えなかった! と怒っても、後の祭りでございます。借用書の細部まで確認しなかった方が悪いのです。ええ、ようやく分かってもらえたようですね。王様のお触れは、城の前の看板に書かれています。そこに、『世界最細の芯を持つピコ鉛筆』で注意書きを書き足すのです。そうですね、例えば
―――「※女王と結婚する以外の褒美に限る」―――
とかね。看板の端の端に極小の字で書くのです。『世界最細の芯を持つピコ鉛筆』で書いた文字は肉眼では見えませんから、その注意書きが以前から書いてあったかどうかは、誰にもわかりません。そして、『世界最大倍率のテラルーペ』で、やから2号に注意書きを見せるのです。ほら、ここにちゃんと書いてあるじゃないか。
―――「※女王と結婚する以外の褒美に限る」―――
だから、他の褒美にしなさい、ってな感じでね。どうです? 完璧な作戦じゃありませんか? え? そんなの詐欺だって? ええ、だから言ったじゃないですか。我々がこれから行うことは、社会のルールギリギリのラインを犯すって。え? ギリギリのラインを完全に超えているって? 言い逃れできない犯罪だって? いや、しかし、これ以外に王の威厳を守りながら、やから二号を撃退する方法はないのでございます。どうかご協力くださいまし。共犯者になってくださいまし。
え? いやだ? 他にやりたいことができたって? ちょっとまってくださいよ~! お願いです。後生です。一生で一度のお願いです。前回も一生に一度だと言っていたって? そんなことはありません。記憶にございません。今回が最初で最後のお願いでございます。どうか、どうか、どうか! このジジイを助けてくださいな~!!