女神様が決めたルール
「決闘と言っても、この世界では決闘を受け入れルールのもとちゃんと行えば怪我もしないし死ぬこともない」
晶は学生寮についてすぐに、不本意ながら決闘の説明を受けていた。
「……召喚されて初日に決闘なんて珍しくない。勇者候補は個性的な人格が多いから」
それはそれで問題では無いだろうか? あとそれってラズさんの事?
晶はそう思っただけで、突っ込みを飲み込んだ。
「私はあまり決闘制度は賛成ではないけどね。私たちは勇者候補になるくらいだ。ある程度の節度と理性を持っているが、それでもトラブルが起きる。それに、こう言ってはなんだが女性というものは、人間関係のトラブルが社会的なトラブルより拗れて悪化する場合が多い」
ヴァネイは思案顔で、学生寮中庭へと晶を案内する。
寮は木造三階建て、前時代的な郊外の大きなアパートメントといった居住まいで、質素でやや古臭い。綺麗な造りではあるのだが、そろそろ建て替えると言われても不思議ではない外観だ。
「やや男性的でマッチョな頭の悪い解決法だが、決闘というのも禍根をあまり残さないためにもいいのかもしれない」
中庭は中央に立ち木がある以外、変わった様相はない。軽いテニスが二面で出来るほどの広さがある。青々とした芝が植えられ、住宅街の良く整備された緑の公園を思い起こさせる。
「で、でも決闘だなんて……ボク、あんまりそういうのは……」
晶は見た目も性格も荒事向きではない。ヴァネイもラズも良く分かっている。しかしリューレスネコアは、性格が優しいから決闘は出来ないなどという言い訳では引っ込んでくれない。
「お姉様を前に、決闘……。これは戦争なの!」
戦争なのか決闘なのかはっきりして欲しいところだが、リューレスネコアは闘志が小さな身体に溢れかえっている。
反して晶は、怯える子犬のようだ。
リューレスネコアは自分の武器を持ってくると言い残し、三階の自室へと行ってしまった。晶はどんな武器を持ち出されるのかと、戦々恐々の様子で階段を昇るリューレスネコアを見送る。
「安心したまえ。決闘を双方が同意した時点で、何があってもお互い傷つかないし、死ぬ事もない」
ヴァネイは緊張する晶の背を軽く叩く。
「この中二階からは死と誕生が排除されている。例外的に生死を異世界から持ち込まない限りね。例えば妊婦でこの世界に来た人はこちらで出産する事ができる」
「……胎児が男の子だと妊婦は召喚されない」
「そんな理由で決闘の勝敗を決めるのは、どちらかの戦意喪失か擬似耐久力が零になるかで決まる」
「疑似耐久力?」
「決闘宣言と互いの同意後に、疑似耐久力がGPカードにパーセント表記される。観戦者は各々の携帯端末で決闘者の疑似耐久力を確認出来る。簡単にいえば殴り合あって、命中箇所や攻撃の威力によって計算され、パーセントが減少するわけだ」
ヴァネイはGPカードを取り出して、空欄部分を指差した。
そういえばGPを表す数字が小さすぎて空欄が多い。そこに戦闘のデータが表示されるらしい。
「しかも攻撃方法が表示されるんだ。例えば私が念動力で石をぶつけて攻撃した場合、物理(Phy)超能力(Psy)ってね。ダメージログなども残るし、一種のゲーム感覚だな」
「……しかも視覚的に分かりやすくするため、ダメージの度に服が破ける」
ラズが不穏な事を呟き、晶は引きつった笑みを浮かべた。
「はは……。ご冗談を……ラズさん……」
「……この決闘システムを作ったのは女神アメンテス様。これが答え」
ラズは真顔だ。
いつも無表情だが、真実を言っている顔だ。そして言葉には説得力がある。
「バ、バレちゃうじゃないですか! そ、そろそろ時間でボク、戻るんじゃないんですか?」
小声で訴えつつ、晶は慌ててスカートを抑えた。長くすらっとした足が悩ましい仕草で内股となり、ラズの視線を釘付けにした。
「……女体化効果時間倍増キャンペーン中だから平気。呪術かけた時、すっごい気合いいれたら、いい手応えだった。効果時間二倍」
ラズも空気を読んで、小声で答えた。
「バレ……ない? 平気……なんですね?」
いまいち信用できないが、彼女は嘘をつく人間ではない。いつも本気だから困るのだが……。
「……もちろん。ワタシにはばっちり効果時間が確認できる。あと一刻は平気。お風呂の時間まで持つ。お風呂で初脱ぎをこの目に焼きつ……。あ、大変。あきらタン」
お風呂を夢想して上を見ていたラズが、急に真摯な瞳を晶へ向けた。
「ど、どうしたの? 何が大変なの?」
「……あきらタン、さっきからまだトイレにも行ってない。つまり、その身体になってから裸体になったことも、下着を脱いだこともない。今のあきらタンが決闘ダメージで脱がされたら、女の子として初めて肌を晒したということが無理やりという貴重でレアの経験となる。凄い。人類史初に間違いない。歴史の瞬間。新しいエロの開闢。赤子は裸でおぎゃあおぎゃあと、この酷い世界に誕生したことを嘆く。でも、あきらタンは無理やり裸にされてキャアいやんと、このエロい世界で始めて肌を晒して喘ぐ。ヤベ、ヤバイ、ワタシに新しいなんかキターッ。新しいエロに立ち会えるこの興奮と幸せを全ての人に分け合えたい……」
…………。
「あー、晶クン。まず何か武器のリクエストがあったら、こちらで用意する」
「え、えっとボク、武器なんて持った事ないし」
妄想するラズを捨て置き、ヴァネイと晶は中庭へと出た。武器を部屋から持ち出し、遅れて中庭に来たリューレスネコアは、いきなり何を言い出してるのか分からない無表情の少女にドン引きして、思わず寮の中に帰ろうとした。
「……リューレスネコア。ワタシ、応援してる」
逃げ遅れたリューレスネコアは、ラズに両手を掴まれた。
「あ、うん。え? なんで?」
「……全てはエロの為に。エロは全ての為に」
「えっと、え? 個じゃないんだ」
「……個って『エロ』のロの中にエロを入れたように見えない?」
決闘が始まり、晶の衣服が剥げたら、ラズはいったいどうなってしまうのだろうか!!??




