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伝染都市アジュール  作者: 六波羅朱雀
覚醒の日
29/35

28.触れてしまえば、それは冷たい真実で。


 十五分後。ようやく三分の一を歩き終える。「はー」とサクラが大きく息を吐いた。「少し、休憩するか?」とアリシア。本当、サクラには弱いな。

 

「アリシアはすごい体力だな」

 

「まあ、騎士だからな」


 誇り高そうにそう言った。確かに、こんな時代でも彼女の武器はよく手入れされているように見える。

 

「尊敬するぜ」

 

「そういうレオンはもうくたばっているのか?」


「んなわけあるかよ。誰が簡単にくたばってやるものかっ。お前こそ疲れたんじゃないのか?」

 

「はは、面白いジョークだな」


 すっかり喉が渇いて、笑う声さえ掠れている。アリシアに水をもらい、一気飲みする。

 

「ぷはっ」


 冷たい水が喉を通る感覚。気持ちがいい。生きていると実感できる瞬間だ。

 

「私、もう大丈夫よ」

 

「そうか? サクラ、ここから先は一気に進むだろうから、もっとゆっくりしてもいいぞ」

 

「ううん。大丈夫。それに、夜になる前に全部終わらせないと」


 ──終わらせないと。


 それは、アレックスとの戦いだろうか。彼女たちの目的はバケモノを倒し、この地を取り返すことだから。


 ──アレックスに、勝てるのだろうか?


 サクラの言うように日が暮れる前に内部を散策し終える必要があったので、また歩き出す。建物にはツタが絡まっている、なんてことはなくて、ひたすらに砂に吹かれた跡が見られるのみ。所々、日陰にタンポポらしき草花が控えめに咲いているのが伺えたが、それだけだ。


 建物の中は、埃っぽかった。長い間誰も掃除をしていないのだから、仕方がない。受付らしきデスクには、割れた花瓶の破片が散乱していて。待合室のような部屋には破られ裂かれたソファの布地が散らばっており。天井を見ればすでに振動か何かで床に落ちてしまった、電気の機械が付いていた跡が。


 昔襲撃を受けたという割には綺麗だった。血の跡が無いのは、もしかしたら床や壁は塗り換えられたのかもしれない。隕石が近くに落ちたせいか、埃っぽさは消えずにどこまでも続いている。しかし、こんな荒廃した時代のせいか蜘蛛の巣は見られなかった。人類が滅び、世界が砂漠と化し、虫さえも息の根を止めたというのだろうか。


 窓ガラスは全て防弾だった。普通の銃では何発撃っても傷もつかないだろう。恐らく、何百年たった今でも難しい。

 

「こっちだ」


 アリシアを先頭についていく。彼女は壁に貼られたボロボロの地図を頼りに歩く。どうやら、地図に書かれていたのは彼女の知る『ロシア語』というものだったらしい。残念ながら、私には読めないが。


 そうして一番奥の部屋へ辿り着く。なんだか、他の場所とは雰囲気が違った。教会とはまた異なる、厳かな空気。まるでここが科学の神聖な場所だと言うかのように。


 私たちが入って来た扉の正面には、銀行の金庫の扉のように分厚い銀の扉があった。もちろん、銀行なんて行ったこともないし、金庫なんて絵でしか知らないけれども。指紋認証の機械(本で読んだから、きっとこれがそうだと分かった)があって、アリシアが触れた。


 すると、何処からともなく声が聞こえてきた。

 

『私の名はこの部屋を任されたAIイシス。あなた方がウイルスに感染していないことを確認いたします。皆さま、指紋認証機に手をかざしてください』


 そう言われてはかざさないといけない気になってしまう。私たちは声の持ち主に従った。かざすと、タッチパネル(?)が青く光った。なんとなく、大丈夫なのだと分かった。

 

『皆さまが感染していないことが確認されました。また、世界のウイルス濃度も基準値をクリア。よって、予定よりおよそ一年早いですが、コールドスリープを終了します』

 

「え」


 私たちは互いに顔を見る。けれども、まだ誰も理解できていない様子だ。

 

「え」


 もう一度そう言ったところで、重い扉が真ん中から左右に開いた。ズズズ、という音とともに、埃が巻き上がる。「うぇえ」とレオンの呻く声がした。「全員、服の袖で口元を抑えろ」とアリシア。それに従って腕で口を押える。こんな、何百年も溜まっていた埃なんて吸い込んだらどんな病気にかかるか分からない。


 十秒ほどで扉は開けるのをやめた。これが最大限開けた状態なのだろう。扉の奥には、広い、どこまでも広くて白い部屋が広がっていた。

 

「す、げえ」

 

「埃、ないよ」

 

「なんだ、あの機械は」


 それぞれが感想を述べていく。サクラの「埃、ないよ」に関しては「そこかよ」と突っ込みたくなったが。まあ、確かに閉ざされていた室内は、病的なまでに綺麗な状態を保っているけれども。


 アリシアの言うように、部屋にはいくつもの機械が規則正しく並んでいた。恐る恐る部屋へ入って機械を見れば、上部分はガラスのようで中が見えた。そこには人がいて、みんな、白い白衣のようなものを着ていて、眠っているみたいだった。

 

「これが、父の言った、もうすぐ目覚める守るべきものなのか」

 

 アリシアが呟いた。この者たちは、ずっと昔から眠り続けているのだろうか。先ほど、イシスはコールドスリープを終了すると言ったわけだから、もう目覚めるのか?

 

 「イシス」と呼べば『お呼びでしょうか』とすぐに返事が返された。相変わらずどこから聞こえてきているのか分からなくて、少し不気味に感じてしまう。

 

「彼らは、いつまで眠るのだ」

 

『本来であれば、あと一年ほど。ですが、今しがた世界のウイルス濃度が一パーセント未満であることが確認できましたので、皆さまがそれぞれ機械についている青いボタンを押せば、解除となります』

 

 一つ一つ押して回れ、ということだろうか。この数を?ざっと見ても二百は超えているが。そう問えば、答えが返される。

イシス曰く。

 

 『AIの暴走によって勝手な判断により解除をせぬよう、コールドスリープの解除は人の手にのみ行えるようにプログラムされております』とのこと。


 けれども。

 

「面倒だな」


 私がそう呟いた次の瞬間。私は、いいや、四人全員が、耳を疑った。このAIは妄想を述べているのかと。私たちの耳は、揃いにそろって同じタイミングで仲良くイかれてしまったのかと。


『あなた様がそうプログラムしたのではないですか』


『我が創造主モニカ・レファレンス様』


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