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伝染都市アジュール  作者: 六波羅朱雀
覚醒の日
28/35

27.仲間は増えれば増えるほど、騒がしく、頼もしく。

「サクラ!」


 これまでに見たことのない喜びの表情でアリシアはサクラのもとへ走り出した。まあ、これまで、といっても出会ってそんなに時間は経ってないが。

 

「なんでここに?」

 

「煙を見てきたのだ。無事でよかった。怪我はないか?食事はとったか?武器は持っているか?」

 

「待ってよ、アリシア。そんなに焦らないで」


 いつもクールで年上のお姉さんといった感じのアリシアが口早に話すのはなんだか新鮮な光景だった。

 

「怪我はないよ。食事は、携帯食を食べた、武器もあるよ」


 ほら、といって少女は短剣を見せる。

 

「ならばよかった」


 深い安堵の溜息とともに、アリシアはサクラの頭を撫でた。

 

「ねえ、アリシア」

 

「なんだ?」

 

「あの方たちはどなた?」


 そこでアリシアは私たちがいたことを思い出したのか、サクラから手を離してこほんと声を出す。

 

「すまない。紹介しよう。彼女がサクラだ」


 「初めまして」とサクラがお辞儀をして見せる。着ているものはワンピースとも着物とも言えない変わったデザインのものだった。

 

「サクラ、彼らはサクラを探すのに協力してくれた」

 

「そうなの? それはお礼を言わなくちゃね。あの、ありがとうございました」


 可憐で小さな少女にそう言われて悪い気はしない。

 

「どういたしまして」


 そう言うと、四人で自己紹介もかねて昼食をとることになった。

 

 「どこにいたんだ? サクラは」もぐもぐ、とクッキーを食べながらアリシアが問う。


「屋上にいたらバケモノが来て、武器を下の階の部屋に置いてきてしまっていたから、バケモノの隙を見て屋上に閉じ込めて部屋に戻ったのだけど、帰ってきたらアリシア達がもう倒していたわ」


 バケモノを倒しちゃうなんてすごいのね、とサクラが笑う。

 

 「ねえ」とサクラ。

 「なんだ?」と私。


「よかったら、一緒に旅をしない? 目的地は同じ所だし」


 喜ばしい提案だった。私とレオンは顔を見合わせて、そして同時に頷くとアリシア達を見て「もちろん」と言った。

 

「ご飯を食べたら、研究所へ向かおうか」

 

「ええ。よろしくお願いしますね」

 

「よっしゃ! 仲間が増えるっていいな」

 

「よろしく頼む」


 ずっと、誰かと出会っては別れるだけの旅で、仲間ができた。それも、二人も。

 

「よろしく」


 自分さえ気が付かないうちに、口の端が上がっていた。


 ***


「さて、行こうか」


 昼食を取り終えて、歩き出す。ビルを出て、ひたすらに研究所を目指す。長い道のりになるだろう。そして、辿り着けばそこで旅は終わりだ。

 

 これまで、多くのことがあった。それが終わってしまうと思うと、少しだけ辿り着かなければいいと考えてしまう。

 

「あーつまんねえ…………」


 レオンがそう呟いた。

 

「飽きるの早すぎるだろう、レオン。まだ三十分だぞ」

 

「でもよ、一面荒野じゃんかよ」

 

「どこへ行ってもそうなのだから仕方がないだろう」


 「……でもー」と駄々をこねる。お前がやっても可愛くないから。

 「そんなことを言っているとアレックスが来るぞ」と脅してみるものの。

 

「そりゃいいな。燃えるわ。倒したい」

 

「やめろ。不謹慎だ」


 レオンが「へいへい」と答える。


「へへへ」


 後ろを歩く少女騎士の二人は微笑ましそうに私たちを見ている。

 

「ねえ、アリシア。あの二人は姉弟?」

 

「いいや。私も最初はそう思ったけど、違うらしい」


 そんな会話を聞いたレオンが問う。

 

「きょーだいだったらどっちが上だ?」

 

「そりゃあ、彼女だろう」「私もそう思うわ」

 

「え」


 心底落ち込んだようにレオンが立ち尽くす。

 

「こいつの弟? いや、悪魔の弟とかいやだ」

 

「アリシア達は見る目がある。だが、私もお前みたいな弟はいらん」

 

「なんだとっ」

 

「お前が子供っぽいのが悪いのだ」

 

「そんなことない」

 

「そういうところだ。すぐムキになる」


「お前だってかわらないだろ」

 

「なんだとぉ」「ほーらそういうとこだ」「うるさい」「やーいやーい」「これだからガキは」「誰がガキだこら」

 

「ふふ。楽しいわね」


 サクラが他人事のようにこちらを眺めながら、おバカな同級生を見るようにして笑う。右手を口元に当てた、お上品な笑みだ。アリシアが過保護になって守ろうとするのが分かる気がする。


「ああ。二人が仲間でよかった」

 

「本当に、面白い」

 

「旅が、明るくなるな」

 

「よかったなレオン。褒められたぞ」

 

「嬉しくねえー」


 そこでアリシアが前方を指さした。

 

「見えてきた。あと少しだ」


 それまでのふざけた雰囲気は一瞬にして消え、全員が真面目な表情を見せる。もちろん、私も。それは大きな、大きな、堀に囲まれた三階建てくらいの灰色の建物だった。

 

「ついに、ここまで来たな」


 レオンがそう言った。

 

「ああ」


 あの場所が、ゴールライン。

 

「もう、アジュールに入る」

 

「ウイルスに気を付けなくちゃね。と言っても、目に見えるわけではないから難しいけれど」

 

「おい、レオン。止まってないで歩け」

 

「悪魔め」

 

「何か言ったか」

 

「イイエナニモイッテマセンヨ」


 片言ではないか。怪しいことこの上ない。

 

「悪魔と言っただろうが」

 

「聞こえてるじゃんか。この地獄耳」

 

「……ん?」

 

「イイエナニモ」


 というか、前にもこんな会話をしたような。

 

「二人とも、はやく!」


 いつの間にか先を歩いていた騎士様に声をかけられる。「はーい」と返事をした後、「お前のせいで怒られたじゃないか」とレオンに言って歩き出す。一人置いて行かれたレオンは、「いや、俺のせいなのか?」と呟いた。けれども誰かに聞こえているわけもなく、仕方なく歩き出す。


 数十分後、ついに塀の前まで辿り着いた。よく見れば、入り口らしき所の塀に《第一研究施設アリア》と書かれている。塀の中を見てみれば、塀から建物の入り口までが遠そうだった。襲撃に会った時、賊による建物内部への侵入を簡単には許さないためだろうか。まだ歩かねばならんとは。車、という乗り物が古代にはあったと聞く。それが今あればよかったのだが、ないものねだりをしても仕方がないだろう。歩くしか、道はない。


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