調合4
「さあ、いただきましょ。」
シャルロッテに促され、私はスプーンを手に取った。
「いただきます。」
シチューはほんのり甘く、ぽかぽかと体が温まってきた。
「どうかな?」
シャルロッテは、心配そうに、こちらを見ていた。
「おいしいです。あの、おなか空いてたんですね、私。」
「よかった。ちゃんと食べれるって大事だよ。後のことは、どうにでもなるよ。」
シャルロッテは、明るく言い、チーズを薦めてきた。
「これ、妖精さんが売りに来るリューブル山羊の乳から作ったチーズだよ。すっごく、おいしいんだから。」
グランは、既にシチューの皿を空にしていた。机に置かれた鍋から、おかわりを自分でよそっている。そして、チーズをパンにのせ、食べてみせた。
「うまいよ。これ。ほんとに特別なんだ。」
私も、チーズをパンにのせ、齧ってみた。柔らかく、ちょっと癖があるチーズは、本当においしかった。これ、チーズケーキの材料としてもいいかも。
食事がすんだ後、私も食器の片付けを手伝った。
台所には、レンガ造りの竈と、煮炊きが出来るコンロのようなものがあった。洗い場には水道の蛇口は無く、隣に水を貯める大きな瓶があった。
台所も、さっきまでいた部屋にも照明器具らしいものは見当たらなかったが、それにもかかわらず、作業が十分にできる明るさは保たれていた。
「灯りが見当たらないんですけど、この部屋、どうして暗くないんでしょうか?」
思わず、呟いた。
「天井に、光の粉で作った塗料が塗ってあるからよ。」
と、シャルロッテは答えてくれた。
「月光樹の実を乾燥させてから、潰して粉にしたものね。」
冒険者に、妖精さん、塗料が塗られただけの天井で明るくなる部屋……。
何なの、これ?
私は、躊躇っていたものの、思い切って尋ねた。
「ここは工房だとお聞きしましたが、シャルロッテさんは何の職人さんなのですか?」
「私は、錬金術師なんだ。ザラの錬金術師養成学校を卒業して、ここに工房を開いて3年目なの。」
私は、自分がとんでもないことになったと、改めて思い知らされたのだった。
シャルロッテとグランに、自分が日本という国で生活していたこと、突然、このザラに来てしまったが、どのように辿り着いたのかまったく分からないこと、2人が日本を知らないように、私もこの国の名アルランメディエ国は初耳だったことを話した。
2人は、私の話を聞き終わると、何やら相談し始めた。
「やっぱり、マグダレスに相談したほうがいいんじゃないか?」
「うん。何か情報を持ってる可能性もあるしね。」
「あと、学校に行って、アンジェリド先生や校長にも、二ホンを知ってるか聞いてみたらどうだろう?」
「2人は物知りだもんね。」
シャルロッテによると、ザラの錬金術師養成学校は王立の教育機関だそうだ。
「もともと、錬金術は、海の向こうのパンドラ大陸で興った学問なの。先代のアルランメディエ国王ノイヴィセント5世陛下が錬金術に興味を持ち、パンドラ大陸から錬金術師を招いて学校を創設したんだけれど、最初の卒業生が出たのは、10年前。」
「いまだに、奇妙な目で見る連中も多いよ。まぁ、ロティがいろいろと、やらかしてるのが原因だと思うけど。」グランは、訳知り顔で付け加えた。
「別に、やらかしてなんかいないわよ。」
「いやいやいや。次々とへんてこな物を作って、森の魔物退治に出かけてるのは、皆が知ってることだろ。」
何か、物騒な話が出てきた。
「出来たものの威力を確認するのは、当然のことだと思うの。」
「はぁ、勘弁してくれよ。最近じゃ、俺たち冒険者よりも、火薬姫ロティの方が強いって噂まで出てるんだぜ。」
か、火薬姫!? このおっとり優しそうな人が? というか、この工房で爆発物を作ってるってこと? 大丈夫なのか?
別の不安要素が出現し、私は胃のあたりに鈍い痛みを感じた。
「じゃあ、また明日。」
グランは、シャルロッテからワインの瓶を受け取って、上機嫌で帰っていった。
「錬金術って、難しいですか?」
私は、シャルロッテに尋ねた。
「そうだね。実は、私、退学寸前になった落ちこぼれなんだよね。」
シャルロッテは悪戯っぽく笑って答えた。
「細かい作業が苦手で……。でも、親身になってくれる先生や友人がいたし、何よりも錬金術が好きで、楽しいから……。」
しかし、続けられた言葉は、更に驚くべきものだった。
「初めて金の調合に成功した時の感動は、今も忘れられないわ。」




