調合20
「私、何をやっちゃったのか、分からないのですが……。あ、でも、ふざけてると思われたのでしょうか? 答案用紙の大部分が白紙だったので。」
「別にそういうことではないと思うけど。」
錬金術師養成学校校長から2人そろっての呼び出しを受けてしまった翌日の午後、私たちは、理由をあれこれ考えながら学校に向かった。
「あ、帰りに、ソフ海老買いに寄ろうね。他に、え~と、ダシ?……が取れそうな食材も探してみようよ。」
「お説教が長かったら、無理ですよ。あぁ、何がいけなかったの? そもそも文が書けないのに受験したのがダメだったんだけど……。」
正面口からホールに入り、受付のライラに挨拶する。
「こんにちは。校長先生に面会予定なのですが。」
ライラは、ゆっくりと頷き、「お待ちしておりました。校長室へお進みください。」と、答えた。
私たちは、そのまま、ホールの大階段を上がり、2階の校長室へと向かった。
装飾の施された立派な木のドアの前で、ノッカーを3回鳴らすと、中から、「どうぞ。」と、アンジェリドの声が聞こえてきた。
「失礼します。」
シャルロッテ、私の順に校長室に入る。
「先日は、ありがとうございました。勉強不足でした。まずは綴り方から始めることにします。」
私は、無謀な受験について咎められる前に、反省の言葉を口にした。
「会話と読解はできて、作文ができないということじゃったな。まぁ、頑張った方ではないかの。」
コーネルは、大して気にしてないというような調子だ。
「さて、図書館を利用したいという話じゃったな。」
「はい。エリーチェは、言葉、というか筆記に関して、問題がありますが、一方で、私たちの知らない世界の、知らない事象や事物に関して知識を持っています。そして、錬金術に興味を持っております。私は、彼女の知識を錬金術に取り込むことができれば、有益な結果が得られると考えます。」
図書館の話が出ると思っていなかった私は言葉が出ず、シャルロッテの話に唖然とした。
「筆記については、私が教えます。しかし、既に読解は問題がないのですから、図書館で自学自習する機会を与えて欲しいのです。」
どうやら、図書館の話をシャルロッテがコーネルに頼んでくれていたようだ。
「シャルロッテの言い分は分かった。じゃがの、学校図書館は錬金術師養成学校の学生、研究生、卒業生、教師とその助手などの職員に利用を限っておる。何故か、分かるかね?」
「本から得た知識だけでは、危険があるということでしょうか?」
「そうじゃ。火について書かれた書物をいくら読んでも、実際に火に接したことがない者には、火の持つ熱も輝きも真には理解できぬ。しかし、本を読んで知識を得たことで、火について全てを知ったように勘違いしてしまう危険がある。」
コーネルは、私の方を向いて続けた。
「知識は、経験や実践とともに在らねばならぬ。錬金術は有用な学問であり技術であるが、危険を伴う毒薬でもあるのじゃ。錬金術に対する基本的な姿勢ができていない者が知識だけを貯め込むことは、好ましいことではない。」
「エリーチェが、シャルロッテの工房を生活の拠点としたことで、錬金術師養成学校の外で、偏った形で錬金術を学んでしまう可能性を危惧しているのです。」
アンジェリドが口を開いた。
「シャルロッテは当校の卒業生です。錬金術師として、最低限必要なことは、在学中に教えてあります。その上で、得意なもの、興味のあるものを選んで、応用し、研鑽を重ねているはずです。」
「今、エリーチェに自学自習を認めると、身近であるシャルロッテの得意分野だけを見、エリーチェ自身の興味のある知識だけを重ねるようになってしまうじゃろう。」
「あの、それでは、私が、シャルロッテさんの工房でお手伝いをするのはダメということですか?」
やっぱり、踊るキノコと対峙するしかないのか?
「ところで、シャルロッテには、週に1日、できれば2日、当校で教鞭を取ってもらいたいのじゃが……。」
「後輩を教え導くことも、錬金術師として大切なことです。シャルロッテ自身が学ぶことも多いはずです。エリーチェを秘書として付けることも認めましょう。講師付きの秘書であれば、工房での仕事もあるでしょうし、図書館での資料収集も仕事の内に入るかもしれませんね。」
「それって……。」
「学問とは、本来自由に行われるものじゃ。誰が何処でどんな風に学ぼうとも、制限するべきではないのじゃ。が、我々の錬金術は、まだこの国において歴史が浅い。否定的な見方をする者も少なくない。危険は避けたいのじゃ。エリーチェには目の届くところに居てもらうよ。」
「無条件にとは言えませんが、エリーチェが錬金術に新しい風を吹き込むこと自体は喜ばしいのです。秘書として最低限のことは、学んでいただきます。ただし、あなたの立場は学生ではないので、少し注文が厳しくなりますよ。」
アンジェリドから、さっそく、宿題が出された。
「シャルロッテから回復水と解毒水の調合を学び、それぞれを500ミニターずつ作成して、私のところに届けてください。」




