調合2
「私、日本人なんです。でも、どうしてここにいるのか、思い出せないんです。ここ、何処ですか?」
私は泣きそうになるのを堪えて、尋ねた。パスポートは、鞄の中に入っていなかった。
「ここは、ザラって街よ。アルランメディエ国の王都ね。」
聞いたことがない国と街だ。
「あの、日本大使館に行きたいんですけど。その前に、スマホのバッテリーが切れてて、充電できないでしょうか?」
どうにか、この状況を脱する方法がないか、半ばパニックになった私は、助けてもらったお礼も言わずに、ずうずうしいお願いをした。
「タイシカンって何? スマホのバッテリー? ジュウデン?」
シャルロッテは、青い瞳を瞬かせ、首を傾げてみせた。
スマホって、和製英語だっけ?
通じてない言葉をどう表現したらいいのか分からず、バッテリー切れのスマホを見せてみた。
「何これ?」
シャルロッテは、好奇心に満ちた青い瞳で、スマホを見つめている。
そんな馬鹿な。スマホが分からないなんてこと、あるんだろうか?
私はまさかの事態に、固まってしまった。
その時、外からドアを叩く音が聞こえてきた。
「あ、誰か来たみたい。」
シャルロッテは、訪問者を出迎えに行った。
「ロティ。あの子、どうなった?」
若い男の声が聞こえてきた。シャルロッテは、ロティと呼ばれているようだ。
「それが……。気が付いて、怪我も無いみたいなんだけど、記憶が曖昧なの。名前はエリーチェちゃんね。二ホンって知ってる?」
シャルロッテは、訪ねてきた男を部屋に招き入れた。
「二ホン? 聞いたことないな。」
若い男が答えた。
「エリーチェちゃん。彼はグラン。冒険者で、いつも材料採取なんかを手伝ってもらってるの。」
「やぁ、こんにちは。朝、君がこの工房の前に倒れていたのを見つけて、ロティに見てくれるようお願いしてたんだ。」
冒険者?
会話の中にさらっと出てきた『冒険者』という単語と、紹介されたグランの服装で、私は、嫌な予感でいっぱいになった。グランは、明るい褐色の髪の背の高い男で、RPGの登場人物のような、いかにも冒険者な格好をしていたのだ。
「あの、助けていただいて、ありがとうございます。」
自分でも、声が上擦っているのが分かる。
工房の前に倒れていたって言ってたっけ。
工房っていうことは、職人さん? 冒険者と職人さん?、日本もスマホも知られてないって、どういうこと?