調合1
「気が付いたみたいね。」
心配そうに青い瞳が覗き込んできた。
え? 外国人? ヨーロッパの民族衣装風の服を着た長い金髪の若い女性が立っていた。
でも、言葉が分かる。
そこは、石造りの部屋の中で、私はアンティークみたいな長椅子に寝させられていたようだ。
「あなた、工房の前に倒れてたの。大きな怪我も無さそうだし、とりあえず、様子を見てたんだけど、どこか痛むところとかある?」
「大丈夫みたいです。」
答えたものの、ここが何処なのか分からないし、私は誰? 全然、大丈夫じゃない!
「私は、シャルロッテ。この工房で暮らしてるの。あなたの名前は?」
「えっと、それが……。」
どうしよう。自分の名前が思い出せない。自分が日本人だという認識はあるが、ここが何処なのか、なぜここにいるのかも分からない。
「あの、私の持ち物は、何かありませんでしたか?」
一縷の希望を込めて、聞いてみた。
「あっ、鞄ね。ちょっと待ってて。」
シャルロッテは、茶色のリュック型の鞄を持ってきてくれた。
中を確かめると、お財布にスマホ、手帳、ボールペン、1冊の文庫本、化粧ポーチ、運転免許証が入っていた。遠出をするためのものではない。スマホは既にバッテリー切れ。運転免許証から、自分の名前が『江利千恵子』で、とある中部地方の都市に住んでいたことは分かった。
不思議そうに見つめる青い瞳に、慌てて
「あの、名前は江利千恵子といいます。」
と、言うと、
「え? エリーチェ?」
と、聞き返された。
日本語の名前は聞き取りにくかったようだ。
しかし、ここで、おかしなことに気が付いた。シャルロッテの言葉は理解できるし、自分の言っていることもシャルロッテに通じているようなのに、自分の口から発せられているのは日本語ではないのだ。
英語やその他の言葉、少なくとも自分の記憶の中で分かる言葉ではない。
「ここは日本ではないですよね?」
恐る恐る、聞いてみた。
「二ホン?」
青い瞳の持ち主は、ゆっくりと首を傾げてみせた。




