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一日目終了・得点は63点


 大量のスケルトンどもが殺到して来る。

数に物を言わせた肉弾戦法だ。

ま、肉は付いてないけど。


ん~……どう処理しようかなぁ……


と考えていると

「鬱陶しいわね」

酒井さんが呟くや、懐から取り出した符札を投げ付け、短かな腕を振りながら宙に向かって何やら印を描く。

そして「霊符の力を以って場を清浄せん。詠ッ!!」と気合一発。

刹那、大量のスケルトンどもは一瞬で灰と化して消えて行った。


「あ、ありゃまぁ……相変わらず見事な腕前で」

スゴ腕僧侶も顔負けの早業だ。


「この手の化け物は単に呪術で縛られているだけだからね。簡単に浄化出来るわ」


「や、簡単ではないと思うんじゃが……」


「簡単よ。場を清めて呪術を遮断すれば良いだけ。自分の意思で襲い掛かって来る悪霊や怨霊の類に比べれば、子供でも対処出来るわ」


「はは…」

まぁ、子供ではちと無理だけど、確かに魂と言うか自意識を持たない系のアンデッド……スケルトンやゾンビの類は弱点があからさまだし、それを自ら補う事はしないからなぁ……簡単と言えば簡単だよね。

所詮は、生産コストが安いただの雑魚けいけんちですから。

ただその分、数は揃え易いんだよねぇ。

ダンジョンだと、冒険者のリソースを削る為に良く配置されるし。

それでも術一発で全滅とは……このダンジョンを造った魔王も、さぞビックリだろうよ。


「さて、蛇ちゃんの方はどうなったかな。ま、蛇と言うかトカゲに近いタイプのバジリスクだけど」

部屋の中を覗き込むと、白熱したバトルが展開中であった。

エリウちゃん達は三手に分かれ、バジリスクを攻撃している。

リーネアは弓で頭部を狙い、エリウちゃんは魔法を放っては懐に潜り込んで胴を切り付ける。

ヤマダの旦那は後方から足を重点的に攻めていた。

中々に良い攻撃だ。

バジリスクは翻弄され、攻撃対象を絞れないでいる。


「ん~……まだ若いバジリスクですね」


「分かるの?」


「鱗が薄いですから。バジリスクに限らず、蛇や竜系統のモンスターは、歳と供に鱗が大きく分厚くなって行くんですよ。そしてその分、強くなると」

エリウちゃんの魔法攻撃やヤマダの剣も刃が通っているみたいだから、防御力はそれほど高くはないみたいだ。

歳を経たバジリスクが相手だと、生半可な魔法や物理攻撃は全て鱗に跳ね返されるからな。

ただ、それぐらいになると鱗に価値が出るからねぇ……

ドラゴンの鱗ほどじゃないけど、それでも市場価値は高いから、魔獣退治等を生業にしている冒険者達も本気で挑むワケでもですよ。

ただ、リスクは物凄く高いけどね。


「……しかしちょっと拙いかな」


「そう?結構押してるわよ?」


「ま、確かにそうなんですけど……エリウちゃんもヤマダの旦那も、斬撃攻撃の効果が薄いと分かって刺突攻撃に切り替えましたよね。ま、それは良いんです。正解です。けどその分、どうしても身体の動きが鈍くなって……刺突攻撃は斬撃と違って、剣を抜くと言う動作で一瞬動きが止まってしまいますからね。ほら、だから返り血をいっぱい浴びてるでしょ?これは拙いですよぅ……バジリスクは血にも毒があるんです。俺の世界に比べるとかなり弱いようですが、たくさん浴びるのは宜しくないですね」


「アンタの世界だとどうなるのよ?」


「俺の世界だと、触れただけで先ず皮膚が焼け爛れます。けど、薬効効果も高くてね。錬金術士の間ではバジリスクの血は高値で取引されるんですよ」

そう言えば、幾つか空き瓶を持ってきてたな。

……うん、後で集めておこう。

芹沢博士が喜ぶかも知れんし。


「そうね、薬なんて元は毒を薄めた物だしね。私達の世界でも漢方だと毒草を扱うわ」


「しかし、ん~……押しているとは言え、やっぱ梃子摺ってますね。魔王と勇者パーティーのコラボなのに、バジリスク一匹、簡単に倒せないとは……」


「多分だけど、強さの基準が違うんじゃないの?」


「と言うと?」


「あのバジリスクはおそらく、現在この世界にはいない絶滅種じゃないのかしら」


「絶滅した古代種……あ、なるほど。基準ってそう言う意味ですか」

魔王エリウちゃんも勇者の仲間であるリーネア達も、現在の世界では強者だ。

現存する魔獣やモンスターに苦戦する事は先ず有り得ない筈。

が、しかし、かつてこの地を闊歩していた絶滅種が相手だったら……

人間界で例えると、現代のライオンの前に鮮新世時代のメガテリウム(体重四トンの巨大ナマケモノ)が現れるようなものだ。

「ふむ……しかしそう考えると、千五百年前の魔王や勇者は、今より遥かに強かったんでしょうね」


「そうね。当時の魔王からすれば、あのバジリスクも雑魚だったのかも」


「……確かに」

ダンジョンの浅い階層に配置するぐらいだから、その可能性もあるか。

けど、現代とたかだか千年ちょっと前の時代と、ここまでレベルが違うってのも不思議な話だぞ。

一体、当時に何が起きたんだろう?


そんな事を考えていると、エリウちゃんが少し距離を取り、何やら精神集中。

頭の角が淡く光るや、バジリスク目掛けて雷撃が迸った。

やや赤み掛ったいかづちだ。


「ほ…」

思わず声が漏れる。

かなりの魔力を検知した。

中々に強力な雷撃系魔法だ。

俺でも素の状態だと、それなりにダメージを受けそうなレベルだ。

エリウちゃんの取って置きの魔法なのかもしれない。


その強力な電撃を受けたバジリスクは、痺れからか叫び声を上げながら動きが止まる。

そこへリーネアの弓の一撃。

矢はバジリスクの片目を貫いた。


うむ、勝負あったな。

と思った矢先、苦痛で更に大暴れするバジリスク。

反射的にか意図的にかは分からないが、いきなりその巨体を半回転させるや、丸太のような尻尾部分がヤマダの旦那とエリウちゃんを薙ぎ払う。

直撃だ。

不意を突かれた。

ヤマダもエリウちゃんも吹っ飛び、壁に激突。

エリウちゃんは魔王としての身体能力と魔法防御で辛うじて無事だが、人間であるヤマダの旦那は大ダメージだ。


むぅ……不意打ち的だったとは言え、防御すら間に合わないとは……

いや、もしかして返り血を浴びた影響か?

身体の動きが鈍ったか?


リーネアが更に矢を番えるが、バジリスクは片目で彼女を睨みつける。

刹那、リーネアの身体が硬直したかのようにその動きが止まった。


ほ、ここへ来て蛇眼発動と……


「シング」


「分かってます、酒井さん」

俺は片手を振り上げ、

次元切断ディメルシュナイデン

そのまま斜めに振り下ろす。

刹那、バジリスクの首が綺麗に切断され、地面へと転がった。

そこへ胴の切断面から吹き出た血が降り注ぐ。

首だけとなったバジリスクは、パクパクと口を動かしながら、『え?なんで?』的な感じの目で俺を見つめていた。


「……そんな恨めしそうな顔をするな。これも弱肉強食ってヤツだ」

俺は軽く肩を竦めながらそう言うと、腰に下げた皮袋の中から小瓶を取り出し、新鮮な内に血液を集める事にした。

酒井さんと黒兵衛は肩から飛び降り、ヤマダとエリウちゃんの治療に向かっている。


「相変わらず強いわね、シン殿は」

リーネアが少し疲れた笑みを向けて来た。

遠距離攻撃が主体だった彼女は、それほどダメージは受けていない。

小さな掠り傷程度だ。


「まぁ、まだ若いバジリスクだったからな。もう少し歳を経ていたら……俺も少しは本気を出したかも。それより、どうだったこのバジリスクは?」


「正直、強敵だったわ」

リーネアは落ちている首を見つめ、微かに眉を顰めた。

「シン殿は、これがバジリスクとか言ったけど……私やヤマダが戦った事のあるバジリスクとは、見た目からして違うわ。もちろん、強さも段違いよ」


「リーネア達が戦った事のあるバジリスクって、どんなタイプなんだ?」


「普通の大きな蛇よ。頭に鶏冠のような物が付いている大蛇。東方の森で何度か遭遇したわ」


「無足種か……」

リーネアの口振りからして、一応は大蛇だけどそれほど大きくはないのかな?

俺の世界にも、蛇形態のバジリスクは何種類かいたけど、取り敢えずデカかったぞ。

大きさだけで言えば、脚付きのヤツよりも遥かに巨大だった。

巨人種だって一呑み出来る様な大きな口を持ったヤツもいたしね。

「この世界だと、脚付きの種は既に絶滅して、蛇チックなバジリスクしか生き残ってないのかな」


「シン殿の世界は?」


「ん~……バジリスク属はそこそこ種類は多かった記憶が……ちなみに一番強いのが、八本足で頭に王冠のような飾りが付いているヤツな。それの成体に出くわしたら、俺でも逃げるね」

何しろ魔法にも物理攻撃にも耐性がある上に、即死系の蛇眼、同じく即死系の毒、更に身体に流れる血は大地を溶かすほどの強酸性だ。

あまつさえ高位魔法まで唱えて来る。

もはやラスボス級なのである。

まぁ、それなりの強パーティーで挑めば倒せるんだけど……対一だと、先ず逃げの一手だね。


「そうなの。シン殿すら逃げ出すバジリスク……絶対に会いたくはないわね。でも、このダンジョンにこれが居たって事は、千五百年前までは普通に存在していたって事よね」


「だね。現世では絶滅種だよ」


「その時代に生まれてなくて良かったわ」

リーネアはそう言って、笑みを溢した。



スケルトンどもが湧き出て来た向かいの部屋に移動し、そこでちょっと早いけど晩御飯。

バジリスクのステーキだ。

血に毒はあるけど、良く焼けば大丈夫。

うむ、見た目に反して中々の美味である。


ちなみに、この部屋やバジリスクの居た部屋を調べたが、特に何も無かった。

ただのモンスター部屋のようだ。

しかしながら、等間隔に並んでいる扉はまだ八つ残っている。

全てを調べるべきだろうか……


うぅ~ん……十部屋ある内、一部屋だけ正解ってパターンもあるか。

まぁ、その辺はリーダー役であるエリウちゃんの判断に任せるが……


その彼女だが、胡坐を掻いてる俺の太股を枕に、静かな寝息を立てていた。

何だかなぁ……である。

ま、初めてのダンジョン探索で、しかもリーダとして挑んだのだ。

そして強敵との連戦。

心身ともに疲れていても仕方が無い事だろう。


俺は眠っているエリウちゃんの頬を指先で突っ突くと、彼女はちょっぴり擽ったそうに身を捩った。

と、脇に座っている酒井さんが小声で

「よしなさいシング。起こしちゃ可哀相よ」


「へーい」

俺は目の前で小さく燃える焚き火を見つめる。

燃えているのは炭とバジリスクの骨だ。

その向こうで、リーネアとヤマダがそれぞれ武器の手入れを行っていた。

黒兵衛はその脇で寝転がり、地面の上で長い尻尾を左右に振ったりしている。


「ねぇシング」


「はにゃ?何ですか酒井さん?」


「後どれぐらいでこのダンジョンを攻略出来ると思う?」


「あ~……どうでしょう。何とも言えませんねぇ」

俺はバジリスクの骨を折り、それを火にくべながら答えた。

「まだダンジョンの構造とか……全体像がハッキリしませんからね。ただ、ん~……明日の行動如何によっては、一時撤退もありかなと」


「どういう事?」


「ダンジョンあるあると言うか、初心者パーティーにありがちなんですが、『もう限界だぁ、撤退しよう』って言い出してから引き返すのはアウトです。下手すりゃ全滅します」


「そうなの?」


「限界を迎える前に撤退する。これが鉄則です。ダンジョンをそのまま無事に引き返せると思っていること自体が素人考えなんですよ」


「……なるほどね。帰り道に何が起こるか分からないと。だから撤退するなら余力がある内にって事ね?」


「そう言うことです。帰り道も結構体力を使いますからね。まぁ、元気な内に戻る決断をするってのは難しいですけど……どうしても、まだ先へ進めるとか心理的に思っちゃいますから。そこがダンジョン製作者にしてみれば『してやったり』なんですが。奥へ奥へと誘い込めば勝ちですからね。ただ……このダンジョンに限って言えば逆に、奥へは行かせない、って言う強い意思を感じます。一体、何を守っているのか、どんな秘密が隠されているのか……それが余計に気になっちゃいますけど」


「魔王ベルセバンが造ったダンジョン……確かにシングの言う通り、この先に何があるのかしら」


「物凄いマニアックなエロ本とかだったら、どうしましょうね?」


「お黙り、シング」


「ははは……ま、取り敢えず明日ですよ。皆の体力や装備のリソース。ダンジョンの構成に敵の強さ……総合的に判断し、エリウちゃんに進言します。正直な話、ここは僕ちゃんの想定以上のダンジョンですからね」

この世界のレベルから判断して、もっとこう……温いダンジョンだと思っていたが、とんでもない。

次に来る時は、人員と装備をもっと増やすべきだ。

エリウちゃんを鍛えると言う当初の目的からは外れちゃうけど、ここは軍も動員した方が良いかもしれん。


しかし……

さっきも言ったが、本当にこの先に何があるのか。

魔王ベルセバンに勇者リートニア……千年以上前に、一体この世界で何が起きたのか。

歴史の大断絶……絶滅した古代種……

正直、自分自身、物凄くワクワクしている。

そもそも未踏派のダンジョン探索は、俺も初めての経験だ。

誰も立ち入った事のないこの先に、何が待ち受けているのか……ちょいと楽しみである。






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