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先生方、出番でやんす


 タコ助の全力疾走で森を抜け、街道をひたすら西へと進み、魔王城へ着いた時には既に日はとっぷりと暮れていた。

この分だと、リーネア姐さん達の到着は明日の昼頃であろう。


「うぃ、ただいまぁ~~と」

呟きながら城内へと続く扉を潜ると、

「お、帰ったんか?」

バッタリと、廊下で馬鹿猫に出くわした。


「おぅ、今帰って来たぞよ。あ~~……疲れた。アーンド腹減ったわい」


「そら良かった。丁度今から晩飯タイムや」


「そうか。グッドタイミングでおじゃりますな」

俺は黒兵衛を抱き抱え、そのまま肩へと乗せる。

「留守中、何か変わった事はあったかね?」


「特になーんにもや。そっちはどやった?」


「お前の策通り、時勢の読めない馬鹿どもは一掃したわい」

俺は笑いながら、食堂へ向かって歩を進める。

「しかしまさか魔王城の近くに、反乱勢力の秘密基地があったとはねぇ……ちょっぴり驚きで御座るよ」


「広大な地を全て把握するなんて難しい話やで。文明の発展したワテ等の世界だって、未だにアマゾン辺りから未発見の部族が出てきたりするんやで。日本かて、どこぞに平家の落ち武者の村とかあるかも知れへんし」


「ま、国境に壁があるワケでもねぇーしな。しかしあんな所で、あの程度の敗残兵を集めて、一体何をしようとしてたんだか……本気で魔王軍に勝てると思っていたのかな?とっとと逃げりゃ良いのにね」


「人それぞれや。ま、人やないんやけど……引くに引けん事情ってのもあるやろ」


「そうかぁ?俺なら勝てんと分かった瞬間にトンズラするぞ」

もしくは死んだフリ。


「……せやな。お前はそうやな」


「何しろ賢いからな。わははは♪」

等と笑いながら、食堂へと続く扉を開ける。


「あ、シング様」

エリウちゃんがいた。

それと酒井さんも。


「おぅ、ただいま戻ったぞよ。うむ、エリウちゃんも酒井さんも、本日も可愛いですな。ぐははは♪」


「…へ?」


「おい、口調」

黒兵衛が俺の頬を突っつく。


おっと、いかん。

素が出てもうた。

「あ~…うん、コホン。何でもないぞ、うん」

今更ながら低い声で、俺は威厳を漂わせつつ食堂へと入る。


うぅ~ん、良い匂いがするね。

戦闘糧食は不味くはないけど、ワンパターンだからなぁ。

何しろ固いパンと様々な食材のごった煮がデフォルトだ。

もっとこう、バリエーションがあっても良いと思うんじゃが……

そう考えると、人間界のレトルト系食品って凄い発明だよな。

あとカップ麺も。

……

思い出したら無性に食べたくなってきたわい。


俺は黒兵衛を降ろしながらいつもの席に腰掛けると、テーブルの上の酒井さんが、

「それで、どうだったの?」

小首を傾げて尋ねてくる。


「万事順調に終わりましたよ。愚かな反乱勢力は壊滅しました。捕虜になった奴等は明日には到着するでしょう」


「そう。それで、勇者の元仲間だったって言う二人組は……」


「リーネアの姉御とヤマダ先生です。ふふ……いや、中々の者達でしたよ。さすが、先代勇者からの古参の仲間ですね。人柄も練れていますし、あの馬鹿勇者のように、正義云々の為に血潮を滾らせていると言うわけでもなく、時と場合によっては……まぁ、清濁併せ呑む事が出来る者達ですね」


「へぇ…そうなの」


そうなんです、と頷きながら、俺はエリウちゃんを見つめる。

「かつて戦った事のあるエリウにしてみれば複雑な心境かも知れんが……今は勇者から離れ、一介の冒険者だ。それに我の知己だ。……くれぐれも礼を失する事のないようにな」

ちょっとだけ釘を刺しておく。

彼女はコクコクと頷いていた。


「ふふ、しかしあれだぞ。魔王の正体が可愛い女の子だと知って、あいつ等は驚いていたぞ」


「かか、可愛いだなんて…」


「ま、連中からすれば、あの黒鎧を着た魔王しか知らぬワケだからな」


「ところでシング」

と酒井さん。

「そのリーネア達は、何で勇者の元を離れたの?」


「それとなくは尋ねましたけど、そこまで深く突っ込んでは……さすがに、まだ聞けないですよ。ま、時が経てば追々話してくれるでしょう。……長いこと同じメンバーで組んでいれば、色々とあるでしょうにね」


「そうね。それで、その二人をこれからどうするの?」


「色々と考えてありますよ。ま、色々と……ね」

俺はエリウちゃんを見つめながら微笑んだ。



グッスリと眠った後、久し振りに魔王城にてのんびりと過ごす魔王な僕ちゃん。

午前は惰眠を貪りつつ報告等を聞き、昼飯を食べた後は中庭にリッカやそこそこ年齢が上の子供を集め、遊びを交えた戦闘訓練を施す。

やはり最低限は自分の身を守れるように、サバイバル術を含め色々と教えてやらないとね。


俺の妹分であるリッカは、エルフ系統だからか、それなりに弓の扱いに長けていた。

更に魔法方面にも才能があるように感じる。

幼いとは言え、魔力の波動をそこそこ感じるのだ。

ただ俺自身、この世界の魔法体系がどう言うモノなのか、いまいち分からんから何とも言えないが……

今から教えれば、俺の世界の魔法や酒井さんのような陰陽の術も使えるようになるかも知れない。

うむ、少しづつ教えてやろうかな。


ちなみにその酒井さんは、エリウちゃんと供に大本営の会議に御出勤中だ。

黒兵衛は子供の相手に疲れたのか、木の上で寝ている。


ぼちぼち、オヤツの時間かなぁ……

今日のオヤツはなんじゃろう?

また果物かな?

……

やべぇ……人間世界のスナック菓子の美味さを思い出しちまったよ。


そんな事をボンヤリと考えながら、木の棒片手に子供達のチャンバラごっこのような剣術の練習に付き合っていると、猪のような顔をした豚鬼系種族の兵士が小走りに駆け寄ってきた。


「シング様」


「ん、なんだ?何か一大事でも起きたか?」

振り返らず、子供達の剣を受けながら応じる。


「いえ。残党勢力の討伐に赴いていた部隊が戻りました」


「おぉ、そうか。思っていたより少し遅かったが……時間的に昼飯は済ませたのかな?もし昼食を済ませていたのなら、リーネア殿とヤマダ先生をお連れしろ。あ、急かす必要はないぞ?礼を失する事のないようにな。昼食がまだなら、その後で良い」


「は」



リッカ達とペンザの実を乾燥させたオヤツ(人間界で言うとバナナチップス的な食べ物)を食べていると、一人の餓鬼ンちょが、『あ、ティラお姉ちゃんだ』と言っていきなり駆け出す。

それに他の子供も続く。


ティラやペセルには、子供達の教育係り兼しつけ役兼遊び相手を任しているので、子供達も大分懐いている。

リッカもようやく怖がらなくなったし。


と、最初に駆け出した子供がいきなり立ち止まるや、そのまま反転。

慌てるように俺の元へと戻って来るや、そのまま背後に隠れた。

他の子供達も同じだ。


ん…?

ん~……なるほど。

親衛隊に囲まれるようにして、此方へ向かって来るリーネアとヤマダの姿が眼に入った。

「あぁ、大丈夫だぞチビッ子戦士ども。あのエルフのお姉ちゃんは、その辺の性悪エルフとは違うぞ。何しろ僕らのヒーロー、勇者様の仲間だ。つまりは正義の味方なのだ。それに隣のおっちゃんも、怖い顔をしているけど思ったより気さくで良いヤツだからね。何も心配はいらないぞよ」


「シング様」

ティラちゃんが片膝を着き、他の親衛隊員もそれに習う。

「リーネア殿とヤマダ殿をお連れしました」


「うむ、任務ご苦労」


「は。それで捕らえた者どもは如何致しましょうか」


「いつも通りだ。片耳を削ぎ、奴隷として使え。少しでも抵抗したらそのまま魔獣に食わせろ」

俺は腰にしがみ付いているリッカの頭をポンポンと撫でながら、

「やぁ、リーネア殿にヤマダ先生」

ニッコリと爽やかな笑顔で声を掛けた。

ヤマダの旦那はそうでもないが、リーネアの姐さんはちょっと戸惑った顔をしている。


「道中、ウチの連中が何かご無礼を働かなかったかね?」


「え、えぇ……それは大丈夫よ。……魔王シング」

リーネアが少しだけ訝しげな表情で、俺の背後にいる子供達を見つめながら答えた。


「ははは……魔王シングとは些か仰々しく、何かこう余所余所しいな。我の事は気さくにシンちゃんとかシンさんとかシン公と呼んでくれて構わない。もちろん呼び捨てでも結構だ。それより、旅の疲れはないかね?」


「……特に無いわ。疲れるような旅でもなかったし」


「それは重畳。と、来たようだな」

チラリと後ろを振り返ると、いつもの重鎧を着込んだエリウちゃんが、ガシャガシャと金属音を響かせながら此方へ向かって歩いてくる姿が目に入った。

背中には禍々しい、奇抜なデザインのノコギリ状の大剣。

そしてその両の手の上に、抱えるようにして酒井さんが乗っている。

子供達が『魔王様だぁ』とか言いながら、ぎこちなく礼をする。

うむ、ちゃんと作法は守らないとね。


「シング様。御言い付け通り、戦闘装備で来ましたが……」

兜の下からくぐもった感じのエリウちゃんの声。

酒井さんが俺の肩へと飛び移る。


「うむ。あそこにいるのが、リーネア殿とヤマダ先生だ。見覚えはあるかな?」


「もちろんです」

フル装備のエリウちゃんが、リーネアとヤマダに向き直る。

対してリーネア達も、少し見上げるようにしてエリウちゃんを見つめていた。

両者の間の空気が重くなり、言い知れぬ緊張感が漂う。


うんうん、良い具合に殺気も感じますねぇ。

「宜しい。では早速で悪いが……両者、殺し合ってくれ」


「……は?」

エリウちゃんが目の前の俺を見下ろす。

リーネアも

「……え?」

と瞬きを繰り返している。

ヤマダの旦那は……おおぅ、無表情だ。

さすがである。


「はは、これは少し言い方が悪かったかな。殺し合ってくれではなく、殺し合うつもりで……つまり、本気で戦ってくれと言う事だ。もちろん、万が一殺されたら復活はさせるし、いざとなれば我が止めよう。ティラ」


「は」


「リーネア殿達に武器を返してやってくれ」


「はは」


「エリウ。お前の本気を我に見せてくれ。相手は前代勇者からのメンバーである古参の強者だ。経験値はお前より遥かに高い。本気を出さねば勝てぬぞ?リーネアにヤマダ。相手は若輩と言え魔王だ。勇者不在でどこまでその力が通じるか、我に見せてくれ」



城から少し先にある森の中の開けた場所で、元勇者パーティーのリーネアとヤマダが、現魔王であるエリウと対峙していた。

見守るのは親衛隊と子供達。

そして俺と俺の肩の上に乗る酒井さんと黒兵衛だ。


「おい、何をする気や?」

と、黒兵衛が耳元で囁く。

「もしかしてアレか?互いに戦い、遺恨を晴らして今日からは友達ダチやでってノリか?」


「そんな大昔の少年漫画じゃあるまいし……ちょっと検証してみたい事があるんだよ」

俺は呟き、目の前を見つめる。


ニ刀を構えるヤマダに、少し離れて弓を構えるリーネア。

対峙するエリウちゃんは、自分の素の身長を超えるであろう巨剣を両の手で持ち構えている。


さて、初手はどう出るかだが……


最初に仕掛けたのはリーネアだった。

素早く矢筒に腕を伸ばし、三本の矢を掴むと、そのまま華麗なる動作で番えて放つ。


ほへぇ……三本同時撃ちか。

しかも構えてからの動作が早く、無駄が全く無い。

さすが弓のエキスパートですなぁ……

肩に乗っている酒井さんも、見事な腕前ね、と呟いている。


エリウちゃんは向かって来る三本の矢を、剣の刃を寝かせて防御。


……なるほど。

あの巨剣は楯にも使えるのか。


更にリーネアが間髪入れずに第ニ射。

今度の矢は淡く光を放っている。


ほほぅ……この感じは聖属性かな?

魔力を付与した弓攻撃か……


それをエリウちゃんは、またしても剣で防御。

しかし矢を跳ね返すと同時に魔力が迸り、エリウちゃんの鎧の上を電流のような物が走る。

更にリーネアは第三射。

それと同時にヤマダが走る。


エリウちゃんは、今度は剣を振るって矢を打ち落とした。

が、今度の付与魔法は目眩しのようだ。

剣と矢がぶつかると同時に、辺りに眩いスパークが迸る。

その瞬間、間合いを詰めていたヤマダの双剣が走った。


「上手い…」

思わず呟いてしまった。

実に巧みな連携攻撃だ。


両の手にそれぞれ剣を持つヤマダがエリウちゃんを切り付ける。

しかし、彼女が着込んでいる鎧は前魔王も着用していた魔法の鎧だ。

鋭い斬撃も、表面に微かに傷を付けるだけに留まる。


エリウちゃんが『フンッ』と気合を籠め、剣を水平に薙ぎ払う。

が、さすがヤマダ氏だ。

完璧に間合いを掴んでいるのか、僅かに身を引き、皮一枚のギリギリでそれを避ける。

そしてエリウちゃんの剣の払い終わりを狙って、リーネアの矢が襲来。

エリウちゃんは左手でそれを払い除けるが、その一瞬の隙を狙い、ヤマダが再び間合いに入り、今度は刺突攻撃。

鎧と兜の隙間、即ち首元目掛けて腕を伸ばして剣を突き立てる。


『チ…』

と、エリウちゃんの舌打ちがここまで聞こえて来た。

彼女は大きく飛び退るや、再び巨剣の薙ぎ払い。

いや、これは魔法攻撃だ。

剣を振り払うと同時に、闇属性のオーラが衝撃波となってヤマダに襲い掛かる。

が、彼は剣を大上段に構えるや勢い良く振り下ろし、その衝撃波を断ち切った。


「……いや、見事なもんだねぇ」

感嘆の声が漏れる。

黒兵衛もウンウンと頷きながら

「大したモンや」

と言った。

酒井さんも小さく唸り、

「磨き抜かれた技量ってのは、人を魅了するわね」


「ですねぇ」

いや、本当にこの二人は見事ですよ。

これぞ勇者パーティーってなモンです。

……

肝心の勇者は我武者羅に剣を振り回すだけのヘナチョコだったんだけど……


「……うむ。ま、こんな所かな」

俺は呟くと黒兵衛を肩から下ろし、その背中の上に酒井さんを置いた。

戦闘はまだ続いていた。

エリウちゃんは再び剣を振って衝撃波を飛ばす。

それを断ち切り、ヤマダがまた懐へ飛び込む。

エリウちゃんは剣を返すが、間に合わない。


「……はい、そこまで」

俺は縮地スキルで一瞬の内に両者の間に飛び込むと同時に、威力を抑えた拡散型衝撃魔法エクトス・アンバクトを展開。

周囲に放たれた衝撃魔法が、ヤマダ氏とエリウちゃんを軽く吹っ飛ばしたのだった。







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