フンガー、などと言ってる場合ではない
ヴァンパイアは俺の奇襲攻撃を受け、そのまま軽やかに吹っ飛び、数度のバウンドを繰り返しながら地面を転がって行った。
もちろん、本気を出して蹴りを入れたワケではない。
俺が本気を出したら、死んでしまうかも知れないからね。
「さて…」
身体に貼ってある符札を剥がし、姿を表す僕チン&酒井さん。
それと同時に、
「シングさん!!?」
摩耶さんが叫んだ。
「な、何をいきなり……なんで吸血鬼ちゃんを!!」
いやいや、吸血鬼ちゃんって……
やはり摩耶さんはちょっとショタコン気味だ。
酒井さんも俺の肩で深い溜息を吐いているし。
ちなみに黒兵衛と博士は、安堵の溜息を吐いていた。
ラピスは……あ、倒れているヴァンパイアを木の棒で突っ付いているよ。
「いやぁ~……摩耶さん、一体を何をしてるんですか?今、血を吸わせようとしてたでしょ?何を考えているんですか?」
一応俺の世界では、本人の自由意志で吸血族に血を与える事は、この世界で言えば献血のような物で、特に珍しい事ではないのだが、この状況下でそれはちょっとどうかと……ねぇ?
「あ、あの子は飢えているんです!!今にも死にそうなんです!!だから私は……」
「……むぅ」
僅かだけど、魔法かスキルで魅了されているのかな?
ちょいと冷静さを失っているような気がしないでもないが……単に性格ってのもあるか。
「あのですね摩耶さん。飢えた吸血族に血を与える。それはまぁ普通の事です。但し、俺の世界では、です。吸血鬼云々って、この世界の常識じゃないでしょ?血を吸われた人間種がどうなるかは詳しくは知りませんけど、それって普通の考えじゃないでしょ?」
「でも見捨てる事は出来ません!!」
「あぅ……あ、あのねぇ摩耶さん。その……例えば見た目50ぐらいの脂ぎったオッサン吸血鬼が、腹が減ったから血を吸わせてと言って来たらどうします?その綺麗な首筋を曝け出してどうぞって言いますか?」
「え?え、えと……それはちょっと……」
「ですよね。ちなみに言っておきますが、あの餓鬼……見た目はあんな感じですけど、軽く100は超えてますよ?人間ならオッサンを通り越して超爺ィですよ」
ロリ婆ァは許せるけど、ロリ爺ィは殺意の対象ですからね。
「え…」
「有難うシング。後は任せて」
と、酒井さんが肩から飛び降り、摩耶さんの下へ歩いて行くや、
「摩耶。そこでちょっと正座しなさい」
いきなりお説教タイムの始まりだ。
でもまぁ、今回は仕方が無い。
ショタ系ヴァンパイアに魅了されたとは言え、いきなり血を吸わせるのは……ちょっとな。
そもそも吸血鬼を危険対象とみなして、ここまで来たのにねぇ。
本末転倒過ぎるよ。
「さて……ん?」
吸血鬼族の餓鬼が、何事も無かったかのようにムクリと半身を起こす。
そして俺を睨み付けながら、
「酷いね。子供に向かっていきなり蹴りを入れるなんて」
「黙れ。若作りの爺ィが、誰に向かって口を聞いてるんだ?あぁん?」
「せやで」
と、何時の間にか足元に来ていた黒兵衛。
「しょーもないほど臭い演技で姉ちゃんを誑かしおってからに……この糞ヴァンパイアが」
いやぁ~……そんな演技で騙される摩耶さんも、どうかと思うんじゃがなぁ……
俺は黒兵衛を抱き上げ、肩に乗せる。
その刹那、
「ふぇぇぇっ!?」
素っ頓狂なラピスの悲鳴が響いた。
見ると起き上がった吸血鬼の餓鬼が、ラピスの腕を掴み、次の瞬間、何の躊躇いも無くその首筋に牙を突きたてた。
「ふひゃッ!?なな何してるんれすかッ!?じ、事案発生でしゅ!!ラピス、いきなり汚されたでしゅ!!」
お、おいおい、摩耶さんがダメならラピスって……見境無しかよ。
どこで教育を受けた吸血族だ?
この餓鬼の親は基本的な躾けも施してないのか?
いや、そもそもルール自体を知らなかったとか……
つまりコイツの親もこの世界で生まれた吸血鬼……と言うことかな?
「ん?何だコイツは?血が……人間じゃないのか?」
「離せでしゅ!!」
ラピスが至近距離から顔面パンチを喰らわす。
人間相手ならある程度はダメージを与える事が出来るだろうが、吸血鬼が相手ではダメージは皆無だ。
「ここここの餓鬼……もう許さないでしゅ!!ラピス、怒ったでしゅよ!!」
「ふん、五月蠅いぞ。少し黙れ」
ガキンチョ吸血鬼は無造作にラピスを放り投げる。
ほぅ……なるほど。
やはり膂力は人間種より上か。
「いや、お前が黙れ」
縮地スキルで瞬間的に吸血鬼の眼前に現れた俺は、おもむろに右パンチを顔面に喰らわしてやった。
「ぐぉッ…」
くぐもった声を上げ、童顔吸血鬼は地面を滑る様に転がり、トタンで出来た小屋に激突する。
もちろん、蹴りと同様、殆ど力は入れていない。
「ぐ、こ、この……貴様ぁぁぁ……許さんぞ!!」
「あ?許さん?下級吸血鬼風情が、誰見てモノ言ってんだ?」
そう言って、もう一度蹴りを入れる僕チン。
肩に乗ってる黒兵衛が、
「自分、アレやな。相手が格下と分かると、途端にイキり出すんやな。小者感が半端やないでぇ」
「何を仰る黒兵衛さん。僕チンは育ちの悪い餓鬼に躾を施してやってるんですよ。ある意味、善行で御座る」
しかも超手加減しているしな。
「さて、本来ならタコ殴りにしてやる所だが……ちと聞きたい事があるので、これぐらいで勘弁してやる。感謝しろよ、餓鬼」
俺は腰に下げた七星剣の柄を軽く叩き、
「それとも、今すぐこの場で細かく切り刻んで膾にしてやろうか?あぁん?」
「な、なんだ貴様は……」
「なんだろうねぇ?」
ニッコリと微笑みながらヴァンパイア小僧に近付く僕チン。
が、その時、
―ヒュン…
短い風切り音と共に、吸血鬼の餓鬼の頭部が激しく揺れた。
見ると側頭部に、矢が突き刺さってる。
更に再び風切り音が鳴り響き、数本の矢がヴァンパイアの身体に突き刺さった。
な、なにぃぃぃッ!?奇襲攻撃だとッ!?
慌てて矢が飛来して来た方向に目をやると、そこには白を基調としたフードを纏った男達が立っていた。
中には鎧に身を包んだ者達もいる。
しかもその数は、ざっと30人超……かなりの数だ。
それぞれその手に、弓や剣、メイスに聖印らしき物を模った杖等の武器を持っている。
戦闘準備万端、と言う奴だ。
な、何者でおじゃる?
ってか、これだけの人数がいて俺の察知スキルにも反応しないなんて……
まさか物凄く高レベルの不可知化魔法を掛けていたと言う事か?
……
あ、スキルを切ったままじゃったわい。
「ぐ…が……」
吸血鬼の餓鬼は既に息も絶え絶えだ。
どうも俺の世界の吸血族と比べ、防御力などが格段に劣っているようだ。
いや、まだ子供だからかな?
「せ、聖騎士……コソコソ後を尾けていると思えば……」
聖騎士?
あれが摩耶さん達、魔女ちゃん軍団と敵対している聖騎士と言う輩か?
確か、何かしらの宗教勢力に属する武力集団だと聞いたが……
うん、良く分からん。
俺の世界だと、そもそも宗教と言うもの自体それほど浸透してないからなぁ……
とかボンヤリ考えていると、第三射の矢が吸血鬼の身体を射抜き、
「く、糞が…」
餓鬼はそのまま息絶えた。
矢で射抜かれた箇所から薄い白煙が立ち昇り、やがてその身体がボロボロと崩れ、煌く塩のような細かな結晶体へと変わってしまった。
中々に珍しい最期だ。
ほへぇ……吸血族の死に方は初めて見たけど、こんな感じなのか?
いや、もしかしたら矢に何か特殊な魔法が掛けられていたのかも知れん。
しかし……ふむ、どうする?
この状況は些か想定外だったぞよ。
「……黒兵衛」
「アイツ等、前にワテ等を襲って来た連中や。確かブリエンヌ騎士団とか言うたな」
「ほぅ…」
今、この場での邂逅は偶然か?
確かこいつ等、遥々欧州からこの国まで吸血鬼を追って来たとか何とか、そんな話をチビ魔女からの情報だと言う事で酒井さんから聞いた覚えが……しかしまさかここで出て来るとは。
困ったねぇ……吸血鬼から情報が聞き出せなくなっちゃったじゃないか。
さて、どうしようか……
ここは少し、こいつ等に探りを入れてみるか?
前に浄徳坊主達と闘り合った時、酒井さんから色々とレクチャーを受けたしね。
なら、そうと決まれば……
「お……おおぅ、これは聖騎士様」
俺は黒兵衛を肩から下ろすと、そのまま崩れるように大地に膝を着け、両の手を握り合わせて祈りのポーズ。
我ながら迫真の演技だ。
「まさかこの辺境の国でお会い出来るとは……」
「む…」
矢を番えていた聖騎士の一人が弓を下ろし、その隣にいた鈍鉄色のハーフプレートを身に纏った聖騎士が、訝しげな表情で、
「この国の者ではないな?我等と同郷か……お前、神官か?」
そう異国の言葉で話し掛けてきた。
もちろん、言語翻訳魔法を常時発動しているので、その辺は大丈夫。
俺の言葉も自動的に変換されるしね。
「はは、如何にもです。この辺境の国にて、神の教えを広めようと旅をしているのです」
「ほほぅ、それは殊勝な事」
と、少し豪奢な法衣を身に纏った、ちょいと爺ィが入った神官が鷹揚に頷いた。
「しかし、どうして魔女と行動を共にしているのだ?しかも相手は大逆の魔女、マヤ・キツレガワだぞ」
「た、大逆の魔女……ですか?」
なに、その二つ名は?
「ふむ、知らぬのか?まぁ、一般神官ならそれも仕方なかろうが……」
「存じ上げませんでした。魔女と行動を共にしていたのは、成り行き上のことで……それよりも聖騎士様達が何ゆえ、この辺境の国に?もしかして、このヴァンパイアを追ってわざわざ本国から……」
「その通りだ、神官」
口を開いたのはフルプレートを装備している偉丈夫の騎士だ。
「もっとも、追っていたと言うより、猟犬として泳がしていたのだがな」
「猟犬?」
「ヴァンパイアは隠れている魔女を見つけ出すのが得意だからな。化け物の有効活用と言う奴だ」
「……なるほど」
何となく、話が見えて来たぞ。
つまりコイツ等は、吸血鬼の後を尾け、魔女を見つけ出しては……って事か。
「しかも丁度、本国より召還命令が出た所でな。その薄汚いヴァンパイアを始末しようとしていた矢先に、まさか最後にまた獲物が掛るとは。しかも相手はマヤ・キツレガワとその一党。ふふ、これも神の思し召しか」
「……ですね」
神の思し召しねぇ……
つまり、この俺との出会いもそうなんだね。
こいつはまた、随分と皮肉が好きな神ですねぇ。
「しかし聖騎士様。このヴァンパイアは一体どこから……」
と、俺が更に情報を引き出そうと下手に出ながら話し掛けているその時、
――魔力反応!?
後方から高出力の魔力をスキルで検知するや、全身鎧の聖騎士の一人が、いきなり青白い炎に包まれ悲鳴を上げた。
ぬぉい!?まだ情報収集している最中なのに……一体、何が起こった?
振り返ると、そこには怒髪天を衝くという言葉どおり、髪を少し逆立てた摩耶さんの姿が。
魔力のオーラで全身を包み、愛用のドクロの杖を振り上げている。
ぶっちゃけ、超怒っていると言う様だ。
この世界だと、ピキピキドカーンとか言ったかな?
どど、どうしたんだ摩耶さん?
まさかショタ吸血鬼が殺されたから、それで怒ったの?
その時、不意に脳内に酒井さんの声が響き渡った。
『ぼ、暴走しちゃったわ。今の摩耶は怒りで我を忘れている状態よ。シング、戦闘態勢を取りなさい』
ふにゃ?暴走って……なんでいきなり?
やはり摩耶さん、ショタコン……
『分からないけど、その聖騎士どもの話が耳に入ったみたいね。摩耶は他所の国の言葉も分かるし……そいつ等、何を言ってたの?』
や、こいつ等が真犯人ですよ。魔女殺害の。ヴァンパイアを猟犬代わりに使っていたとかヌカしてました。
『猟犬……あ、そう言うことね。血を吸う為にヴァンパイアが魔女を見つけ、その後で聖騎士どもが寄って集って……何て外道なの』
しかし摩耶さんは、魔女がどうなったかは知らない筈じゃ……
『説教している時に、それとなく言っちゃたのよ。でも、まさかその場に犯人が現れるなんて……』
あ~……
『ともかく、全員逃がさないように。それとシング。良くやったわ』
そこでテレパス通信が途切れると同時に、本格的に戦闘が始まった。
摩耶さんは怒りの顔で、ドクロの杖、ダンシングしゃれこうべMK3改を振り回し、杖の先のドクロの目の部分から放たれる殺人光線で聖騎士どもを焼きつつ、高位の攻撃魔法までブッ放している。
喜連川摩耶、超ファランクスモード発動と言った感じだ。
酒井さんも符札を飛ばしつつ、式鬼を召還したり範囲攻撃の術等を行使して聖騎士どもを蹂躙。
黒兵衛は摩耶さんの傍で、何やら指示を出しつつ、近付いて来た聖騎士に体当たり&引っ掻き攻撃。
そして博士は超未来的な銃を構え、レーザー的な光線で聖騎士を次から次へと灰に変えている。
更にラピスは、「ふぇふぇふぇ」と奇妙な笑い声を溢しながら、赤いランドルセル型バックパックから放たれる小型ミサイルで、敵を攻撃。
直撃弾を受けた敵は、体半分が吹き飛んでいた。
見た目とは裏腹に威力が高い。
「いやはや、中々に強力なパーティーじゃないか……攻撃方面に特化し過ぎてるけど」
「な、何をしている神官!!その腰に下げている剣は飾りじゃないだろ!!貴様も応戦しろ!!」
「ふへ?あぁ……そうですね。合点承知」
俺は七星剣を抜き放ち、目の前にいた聖騎士の足を、太股から一刀両断。
「は…?」
両の足をいきなり失った聖騎士は、そのまま地面に垂直に落ちた。
ついでに両の腕も肩から切り落としてやる。
これはサービスだ。
「ギ…ギャァァァァッ!!」
「五月蠅いよ」
軽く蹴飛ばし、次に近くにいた聖騎士の腕を狙って剣を振るう。
「ぐはッ!?き、貴様……何を……」
「あ?何って……お前等が魔女ちゃん達にした事をそのままやり返そうかなと。この国の言葉だと、因果応報って……言うのかな?その辺はちと分からんけど……」
俺はそう言って、聖騎士の下顎を切り飛ばしてやり、更に腹部に剣を突き立てる。
もちろん、急所は狙わない。
「痛いだろ?胃の辺りを刺されると猛烈に痛い上に、直ぐには死なないんだよねぇ」
「がが…ががが……」
「で、叫びたくても顎が無いから叫べないと」
血をダラダラと流し、悶え苦しむ聖騎士をグーで張り飛ばすと、聖印を模ったメイスを手にした神官が、
「こ、この……魔女に魅了されたか!!」
「は?魅了も何も、最初から俺は摩耶さんのパーティーの一員ですぞ」
素早く相手の懐に飛び込み、そのメイスを奪うや、
「ほれ」
ブン回して胴を直撃。
神官は血反吐を撒き散らしながら真横へと吹っ飛んで行った。
内臓破裂で、死ぬまで10分ぐらいって所かな。
「こ、この悪魔がーーーッ!!」
「ん?」
別の聖騎士が、巨大なハンマーを振り下ろしてくる。
もちろんスキル効果で命中判定が著しく劣っているので、攻撃は俺の脇を擦り抜け、ハンマーは大地に激突。
俺はそのまま、横合いから聖騎士の両手首を切り落としてやる。
「ぐぁぁぁぁッ!?」
「本当に大の男が五月蠅いなぁ……」
俺は軽く舌打ちを溢し、柄を握り締めたままになっている手の部分を払い除け、ハンマーを軽く片手で持ち上げるや聖騎士の足元を狙って振り下ろす。
「ぐはッ!?」
聖騎士の足首より先が地面にめり込んだ。
「ふん」
更にもう一度、強く叩く。
「ぐがが……こ、この悪魔が……」
「は?悪魔?僕チンが?馬鹿を言っちゃいけないよぅ」
俺は大ハンマーを放り捨て、七星剣を男の胸元に突き付けながら、
「俺は悪魔じゃなく、魔王様だ」
そう言って、心臓を避けるように肺に大きな穴を開けてやる。
「苦しんで、死ね」
「ぐ、がが……か、神よ……」
「神?良く分からんけど、お前等の信奉する神って奴を呼べよ。ほれ、早く召喚してみろ。俺が一度ブン殴ってやるから」
とは言っても、本当に現れたら逃げるかも知れんがね。
そもそも神の戦闘力が分からんし。
「どうした?ん?ほら、呼べよ」
胸に刺した剣を捏ね繰り回す。
「がぁぁぁッ!!」
「汚ねぇ賛美歌だなぁ。それじゃ神は降臨せんぞ」
もっとも、魔女を殺して悦に入るような神なら、こう言った声が好きなのかもな。
「さて…」
俺は剣を引き抜き、次の獲物を探す。
と、法衣を身に纏った首魁らしき男と目が合った。
老境の域に入っているその男は、怨敵を前にしたかのように瞳をギラつかせながら、
「魔王じゃと……よもや異界より召還されし者か」
「ご名答。10ポイント獲得だ」
「く……何が目的だ魔王。この世界の支配か」
「……は?」
支配?この世界の?
そんな大それた事、微塵も思った事すら無い。
そう言えば以前、酒井さんに、
『シングは一応、亡国の王族でしょ?普通、そう言う人って大抵は王家再興とか考えるんだけど……アンタは違うの?』
と聞かれた事があった。
もちろん俺の答えは、
「これっぽっちも、考えた事無いです」
いや、本当に考えた事が無いのだ。
俺の希望は、この世界で摩耶さん達に協力しつつ、ボリボリ尻を掻きながらアニメを見たりゲームが出来れば、それで充分なのだ。
そもそも王って、面倒なだけだし。
そう言った時、酒井さんは物凄く呆れた顔をしていたが……俺は基本、平和主義者なのだ。
ぶっちゃけた話、元の世界は俺の性に合ってないのだ。
この世界こそ、俺の本来住むべき世界。
どうも生まれた世界を間違ってしまったのだ。
「やれやれ、俺はのんびりとこの人間世界を満喫したいだけなのに……それをお前等みたいな馬鹿が邪魔をする。ちと許せませんな。魔女ちゃん達の恨みもあるしね」
と、再び脳内に酒井さんからのテレパス通信が響いた。
『シング。その男と、あと2~3人は殺さないで捕らえて頂戴。色々と尋問したいしね』
「了解。んじゃ、先ずはその他を片付けますか。とその前に、特殊スキル『魔王進撃』発動と」
戦闘フィールドが固定化され、敵の退路を断つ。
「さてと」
俺は七星剣を片手に、散歩に行くような気軽さで、聖騎士どもを素早く切り刻んで行く。
もちろん、即死は許さん。
ゆっくり死ぬように、急所を外しての攻撃だ。
俺は特に獲物を甚振って悦に入る様な暗い趣味は持っていないのだが、こいつ等が魔女ちゃん達にしでかした事を考えれば、苦痛なく殺す事はとてもじゃないが出来んのだ。
「お?魔法攻撃?」
俺の身体に何やら魔力がぶち当たる。
「でも効かないですねぇ」
「あ、相手は異界の魔王じゃ!!残っている者で取り囲み、時間を稼ぐのじゃ!!」
そうボスらしき神官は吼えるが、はてさて、何を企んでいるのやら。
ん~……危険察知スキルも反応してないし、特に警戒は必要ないかな。
「ほいっと」
向かって来た神官の目を巧みな剣術で切り裂き、ついでに腹に数箇所穴を開けてやる。
「次はどいつにしようか……ん、お前に決めた」
ハーフプレートの鎧を身に着けた聖騎士に、低レベルの重力魔法を行使。
聖騎士はその場で動かなくなり、苦悶の表情を浮かべる。
「ちなみにそれ、徐々に強くなるからね。3分位でぺしゃんこ確定で御座る」
さてお次は……そこの君だ。
軽く跳躍し、杖を持った神官の頭を剣の刃を寝かしながら強打。
軽い脳震盪を起こしてその場に崩れる神官の腹に、持っていた杖をブッ刺してやる。
「え~と、ひのふの……あと5人か」
と言った瞬間、摩耶さんの魔法で吹き飛ばされたのがいたので、あと4人だ。
うぅ~む、この辺で打ち止めにして、捕縛した方が良いかな?
そう考えている間にもう一人、頭部を吹き飛ばされた奴がいたので、残るは3人。
これ以上殺すと酒井さんに怒られそうだ。
「んじゃ、大人しく……」
「去れ、魔王よ!!」
首魁らしきボス爺ぃが、口角泡を飛ばしながら懐から聖印を取り出すと、
「神の名におき、追放を命じる。己が世界へ帰れ!!」
「いや、そんなこと言われてもなぁ」
帰りたい気持ちは微塵もありませんぞ。
むしろこの人間世界こそが、俺の魂の故郷なのだ。
「……人の身で勝てぬ存在ならば、この世界から放逐すれば良いのじゃ。異界へ立ち去れ魔王よ!!」
「ん?なんだ?」
急に場の魔力値が急上昇したぞ。
何か仕掛けて……
「って、なにぃぃぃッ!?」
俺の足元に、幾重もの魔法陣が描かれる。
それは淡い光を放ち、ゆっくり回転を始めた。
こ、この感覚……え?強制転移魔法?
いや、この感じは召喚され時にも感じたぞ。
まさか……本当に追放されちゃうとか?
「マジかッ!?」
迂闊!!
敵を甘く見過ぎた。
よもやこんな取って置きの魔法があるとは……
「さ、させるか!!俺はまだこの世界で、遣り残した事がたくさんあるんだ!!」
ま、主にゲームだが。
あと、アニメや漫画の続きも気になるしな。
「無駄だ魔王!!既に神の名におき、追放令は発せられた!!」
爺ィが顔を歪め、狂ったような笑みを溢す。
物凄くムカつく。
が、正直今はそれどころではない。
ほ、本格的にマズイ!!
この魔法陣を破る事は可能だと思うが……やべ、本当に時間が足らん!!
「く、くそったれ!!……優しく言うとウ○コ漏らしが!!」
取り敢えず、このまま消えるのは無念過ぎるので、
「魔王怨呪!!狂って死ね!!」
餓鬼の頃の呪いごっこで培った俺のオリジナル呪い魔法を残った奴等に掛けてやる。
効果は一時間おきに、全身がコチョコチョされる感覚に襲われるのだ。
おそらく人間なら、3日ほどで発狂するだろう。
ささやかだが、これが俺の置き土産。
ま、鼬の最後っ屁って奴だ。
「……ふん、少しは気が晴れた」
そう呟くと同時に、俺は魔法陣から放たれる光に包まれ、この世界から消えたのだった。




