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神様は信じないけど取り敢えず御神籤は引いちゃうよね


摩耶さんは渋澤の爺ィをお供に、病院へ素っ飛んで行ってしまった。

俺と酒井さんも付いて行こうとしたが、それよりも早く行ってしまった。

いきなり置いてけぼりだ。

ちなみに黒兵衛は何とか摩耶さんに飛び付き、そのまま一緒に行ってしまったが……

どのみち、病院へは入れないんじゃないか?

そもそも猫だし。


「摩耶さん、超慌ててましたねぇ。血相を変えて飛び出した、ってヤツですよ。転移魔法かと思いましたよ」

俺は玄関先で、走って行く車の後部を見つめながら、所在無さ気にボリボリと頭を掻いた。

肩に腰掛けている酒井さんが、

「相変わらず精神が未熟ね。魔女が取り乱してどうすんのよ」

そう言って問題児を前にした先生のような溜息を漏らす。


「いやぁ~……それは仕方ないでしょ。ついさっきまで一緒だった友人が、いきなり病院送りですよ。普通は慌てるでしょうに」


「一般人ならそれでも良いけど、摩耶は魔女よ。それに聞けば特に外傷は無いって話しだし……」


「軽いパニックを起こしてるって言ってましたよ」

生霊云々や部活でのプレッシャーで心が弱ってる時に、いきなり事故だ。

そりゃパニックも起こすわな。


「今時の学生は心が弱いのよ。それより私は田野倉の方が心配よ」


田野倉と言うのは執事の一人で、気の良い中年のおっちゃんだ。

早坂ちゃんを車で送って行った人物である。

「腕と足の骨を折ったかもって話ですよね」


「詳しい経緯は摩耶が病院で聞いてくると思うけど……ちょっと予想外の展開になっちゃったわね」


「と言うと、酒井さん的にはこれは只の事故ではないと?」


「シングはどう思う?」


「そうですねぇ……タイミング的にちょっと怪しい所はありますけど、今の所は何とも……酒井さんの意見は?」


「シングと同じよ。今の所、確定的な証拠は無いから本当に偶然の事故って線も考えられるけど、やはりタイミング的にね。ただ、もし偶然の事故じゃなかったら……ちょっと見立てを誤ったかも知れないわ」


「見立てと言うと……つまり生霊の仕業ではないと?」


「そうよ。何度も言うけど、生霊そのものに力はそれほど無いの。車を事故らせるなんて……ま、事故の状況が分からないから何とも言えないけど、第三者を巻き込むなんて先ず有り得ないわ。ましてや怪我を負ったのが田野倉で、早坂って子は無傷なわけだし……そもそも私や摩耶も、ただの気のせい、って判断した訳だしね。最初から間違っていたのかも」


「でも早坂って女の子の話を総合的に判断した結果でしょ?」


「そうなのよねぇ。確かに、生霊の仕業か単なる気のせいかってのは判断するのは難しいけど、もしそれ以外に普通の霊障があったら先ず見落とさないわ。本当に……何かこう、モヤっとした事件ね。何か全体像が掴めない感じだわ」


「本人から直接話を聞いたワケじゃないですからねぇ」

僕チンも酒井さんも、基本は黒兵衛経由の又聞きだ。

正直、詳細は摩耶さんしか知らないんだよねぇ。

「けど、もし仮に、偶然や気のせい、はたまた生霊の仕業では無いとしたら……一体何でしょうかね?」


「多分、何かしらの呪術の影響ね。ただ種類までは特定できないわ。仏教系か陰陽系、神道系に黒魔術系……呪術と言っても様々ですからね。けど、早坂って女の子に、そこまでする必要があるのかしら?誰かから妬まれたり僻まれたりはあるでしょうけど、呪術を受けるほどの恨みって……一介の女子学生にそこまでする?」


「ふ~む、呪い系ですか」


「ともかく、摩耶の連絡待ちね。情報が不足している状況で、あれこれ考えても無駄だわ」


「ですね。しかし……」


「ん?なによシング?」


「や、僕チン的には、摩耶さんが少し心配かなと」

何しろクラスメイトの相談を受け、気のせいと判断しそのまま家に帰してからの事故だ。

あの真面目……真面目が過ぎて融通が利かない所のある摩耶さんの心中を考えると、ちょっと心配ですぞ。


「あ~……そうね。それを忘れていたわ」

酒井さんは少しバツが悪そうな顔で、俺の耳朶を軽く引っ張った。

「摩耶の性格からして、必要以上に負い目を感じたりしてるかも。責任感が強いのは良いけど、少しばかり気の抜きどころを覚えないとねぇ」


「ですね。僕ちゃんなんか一晩経てば、大抵の悩みとか心配事は忘れちゃうんですが……」

時々重要な事も忘れるしな。


「アンタは気を抜き過ぎなの。でもシングぐらい脳天気の方が本当は良いのかもね。自分自身を追い込んでストレスを溜め込むなんて、魔女としてはちょっとどうよって思うわ」


「性格は中々変えられないッスよ」

そんな事を話していると、不意に耳元でチューニングの合ってないラヂオのような雑音が響き、

『おい、魔王。ワテや』

微かに黒兵衛の声が聞こえた。

それは酒井さんも同じらしく、

「あら黒ちゃん。テレパスを使ってるの?」

『せやで。ワテの能力やと、この辺がギリって所やな』


「そうなのか。それで摩耶さんはどうなった?」


『病院の中へ駆け込んで行ったで。ワテは放置や』


「ありゃま」

思った通りですな。


「田野倉はどうなったの、黒ちゃん?」

『おっちゃんは軽症や。頭と手に包帯を巻いとるけど、怪我は大した事ないで。丁度今、病院の入り口ン所で、渋澤の爺ちゃんと話してる所や』

「摩耶は田野倉から話を聞いてないの?」

『スルーしてもうた。見えてない感じやな』

「……」

酒井さんは超渋い顔だ。


「それで黒兵衛。爺さん達が何を話しているか分かるか?」


『ある程度は情報を集めたで。田野倉のおっちゃんが言うには……何かな、普通に車で走っていたら、いきなり目の前に黒い影みたいなモンが飛び出してきて、それで慌ててハンドルを切って電柱に激突したって話や」


「ほぅ……黒い影ねぇ」

お化けの類かな?

これはもしかして、奥義浪漫飛行の出番かも……


「黒ちゃん。女の笑い声の話とかは?田野倉は何か言ってる?」


笑い声? 

あぁ、そう言えば早坂ちゃんって子は、必ず女の笑い声が聞こえるとか……そんな事を言ってたって話でしたな。


『あ~……どうやろ?おっちゃん達の会話には、そないワードは出て来とらんな』

「……そうなの」


「何か気になる事でも?」


「さぁ……ちょっと分からないわ」

酒井さんは低く唸ると、俺の耳朶をクイクイッと引っ張り、

「シング。私の部屋まで連れて行って頂戴」


「ウィ、マドモワゼル」

酒井さんの部屋は、俺の部屋の廊下を挟んで真向かいの部屋だ。

何回か入った事はあるが、歴史を感じさせる和の部屋だ。

黒兵衛がボソッと、『お婆ちゃんの部屋みたいやろ』と俺に囁いた瞬間、物凄い勢いで吹っ飛ばされたのは、中々心に残る名場面であった。


「んで、部屋で何を?」

歩きながら尋ねると、肩に乗ってる酒井さんは哲学者のような小難しい顔で

「ちょっと占ってみようかとね」


「ふへ?占いですか?」


「占いって意外に馬鹿に出来ない物よ」


「それは知ってますよ。俺の世界でも専門職とかありますし。それに国によっては公的機関もあったり、王宮直属の占術士もいたりしますからね」

ちなみに俺の国には居なかったけどな。


「シングはどうなの?占いは出来るの?」


「出来まちぇん。占い系のスキルや魔法は習得してないんですよぅ。そもそも占術ってのは、この人間世界じゃどうか分かりませんが……予知系のステータスに連動してますからね。ぶっちゃけ、生れ付きそっち方面の才能が無いと、習得する意味が無いんですよ」

一応、察知や予測系のスキルは持っているけど、あれは自己の経験則に基づいてコロコロと答えが変わるからなぁ……とても未来予知とは言えんわい。

そもそも未来の事が分かるんだったら、クーデターが起こる前にトンズラしていたしね。


「そうなの。誰でも使えるって事は無いのね」


「一応、覚えれば使えると思いますけど……精度は著しく劣るでしょうね」

そう言いながら部屋の扉を開ける。

うむ、相変わらずに和を基調とした部屋だ。

整理整頓された綺麗な部屋で、お香を炊いているのか良い香りがする。

高級旅館の一室みたいだ。

……

旅館に行った事はないから良く知らんけど。


「さてと」

酒井さんは俺の肩から飛び降りると、部屋の片隅に置いてある小さな書斎棚から、何やら漆塗りらしき棒の束を取り出した。

占いで使う道具だとは思うが……ふむ、特にマジックアイテムでは無さそうだ。


「私は基本、陰陽系や神道系の占いを使うんだけど、シングの世界はどうなのよ?」

別の棚から何やら難しそうな文字が書かれた紙を広げ、その上で小さな掌で棒を洗うようにジャラジャラと転がしている酒井さんが言った。


「そうですねぇ……専門家じゃ無いから良く知りませんけど、色々あるみたいですよ。星読みの専門も居れば水晶球を使う占術士もいたり、動物の骨や何か特別な魔法具を使う奴もいますね。そう言えば摩耶さんはどうなんですか?占いとか出来るんですか?」


「もちろん出来るわ。魔女の基本ですもの。あの子はタロットを使ったりしてるわね。ほんと、西洋かぶれなんだから……」

棒の束を小分けにし、それを紙の上に並べている酒井さんの手が止まった。

「ちょっと良くないわね」

眉間に深い皺を刻み、機嫌が悪い犬のような唸り声を上げる。


「そうなんで?」


「卦は凶と出てるわ。災厄に注意と……これは拙いわね」


「それって、今回の件を占ったんですよね?」


「正確には摩耶の事を占ったのよ」

酒井さんはそう言って、束の中から更に何本かの棒を取り出し、紙の上で彼方此方と移動させる。

何をしているのかサッパリ分からんが、中々に手馴れた手付きだ。

「……慎重な行動……間違えると破滅への道が開かれる……か。これは本当に良くないわね」


「それで、僕ちゃん達はどうします?」


「……予定変更よ。今から病院へ行きましょう」


「合点承知。で、どうやって?」

足は?

や、そもそも病院って何処にあるんだ?


「シングは飛行術とか使えないの?」


「もちろん使えますよ。けど今は使えないっす」


「それって魔力的な問題?」


「です。って言うか、そもそも飛行魔法って移動手段じゃないですよ?」


「あら?そうなの?」


「そうなんですよ。どうも人間種ってのは、空を飛ぶ事に対しての憧れが強いと言うか……映画やアニメだと、主人公が飛んでるシーンとか見ますけど、あんなの僕チンの世界でも殆ど居ませんよ。飛行するのはあくまでも鳥系の種族や妖精族等、種族的に最初から飛行できる連中が中心ですね。ぶっちゃけ、生れ付き羽根のある種族です」


「へぇ……だったら飛行魔法って言うのは……」


「基本的には、空を浮遊するってのが飛行魔法です。用途としては、高い場所へ行く。もしくは罠回避。戦闘中などは相手側のバフや何かしらの環境魔法を回避する為……例えば辺り一面が火の海になった時とか、そう言うのから退避するのが飛行魔法で、決して遠くの場所へ行くような移動魔法じゃないんですよ。そもそも長時間の飛行は魔力が幾ら合っても足りませんしね」


「そうなのね。シングの世界は移動するのに空を飛んだりも有りかと思ったわ」


「それこそファンタジィですよ。移動は基本、動物系の乗り物ですね。馬とか。空を飛ぶなら飼い慣らされた飛竜の背に乗るとかしますが……後は転移魔法って手段もありますけど、さすがに人間世界じゃ魔力的にちょっと厳しいかなと」

ま、転移魔法も基本は移動じゃなく、緊急脱出等に使うんだけどね。

「そう言う酒井さんや摩耶さんは、魔法的な移動手段はあるんで?」


「摩耶は魔女らしく箒を使うわ」


「へぇ……それは知らんかった。アニメとかで見た事はあるけど……」


「とは言っても、殆ど使わないけどね」


「そりゃ何で?」


「分かるでしょ?摩耶の……運動能力的にちょっとね」


「あ、あぁ……なるほど」

何か乗ってる最中に落ちそうだね。


「ちなみに私は朧車を使うわ」


「朧車?」


「牛車の妖怪よ。式鬼として使ってるの。けど、シングと同じで、制御するのに大量の霊力を使うから殆ど使う事は無いわね。戦闘が予想される場合は特にね」


「そうなんですか。じゃあ、どうしましょう?誰かに頼みますか?」


「だったら他の執事か摩耶付きのメイドに……いえ、ダメね。田野倉のように巻き込む恐れをもあるし、私達で解決しないと」


「となると、歩きで?」


「歩くにはちょっと遠いわ。車で行きましょう」


「や、だからその車は誰が運転を……」


「頑張りなさい、シング」


「……は?」

この人形は何を言ってるんだ?

「あのぅ……もしかして僕チンに運転しろと?」


「そうよ」


「いやいやいや、そうよって……こんな例えはどうかと思いますけど、アマゾンの奥地の裸族にいきなり運転しろって言ってるも同じですよ?」


「シングは機械とか器用に扱うじゃない。それにゲームで車の運転もしてるし、大丈夫よ」


「そんな無茶な……」

確かに、興味はある。

が、いきなりは無理だ。

無謀だ。

馬に乗るのだって、そこそこ訓練は必要だったんだぞ。


「大丈夫大丈夫。私が教えるから」


「ふへ?教えるって……まさか酒井さん、運転できるので?」


「この身体でどうやって運転するのよ」


「や、芹沢博士に何か専用車でも作ってもらったのかと……」


「違うわよ。運転に関する知識はあるって事。昔、ちょっと興味があってメイドの一人が使っていた自動車学校の教本を貰って読んでいたのよ。だから知識は充分よ」


「いやいやいや、無理です。無理でしょう。無理じゃけん」


「なにヘタれてんのよ」


「や、そう言う問題じゃ……そもそも僕チン、この世界の人間じゃないんですよ?車に関する知識は小学生以下ですよ?分かります?この世界に来て、人生で初めてアクセルとかブレーキとか言う単語を聞いたんですぞ?あとエンジンやガソリンも」


「ごちゃごちゃ言わないの。摩耶が危険な状況かも知れないでしょ」


「……僕チンの方が危険な気がするんですが……」


「ともかく、急ぐわよ。大丈夫、アンタなら少しぐらい事故っても怪我なんてしないでしょ」


「そうだけど……誰か轢き殺しちゃう気がするよぅ」









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