白き者の歪んだ幻望
島の中心から少し東にズレた場所に湖がある。
周囲には岸はなく、水面から直接木々が生えている。
その中心に彼女はいた。
水面に足を付き、眠るように佇んでいる。
不意に、彼女は顔を上げた。
ぽっかりと空いた木々の穴から上空を見つめる彼女の瞳には、暗くなりつつある空が見えるだけだった。
だが、確かに聞こえたのだ。
力強く羽ばたく、羽音が。
「…………」
一瞬だけ彼女が巨大な影に覆われた。
彼女の頭上を、ドラゴンが飛び過ぎたのだ。
暗闇に負けない程白く輝くその姿は彼女が待ち望んだ者だった。
ドラゴンは、湖の周りを旋回しながら降下すると、湖の水面ぎりぎりで停止した。
「来たのね」
彼女がそう呟いた瞬間、彼女を中心に湖が凍り始めた。
やがて湖全体が凍りつくと、ドラゴンは凍った水面へと足を付けた。
「言われた通り、戻ってきたよ」
ドラゴンは淡々と答える。
それはどこか、寂しさも感じられる口調だった。
「おかえりなさい、リア」
「そして……」
彼女はリアと呼ばれたドラゴンの背中にいる少女を見つめる。
金髪の少女。
自分と瓜二つの少女。
少女もドラゴン・リアの背中から降りると、彼女を見つめた。
彼女の存在を疑問視するような、戸惑いに似た視線だった。
「その様子だと、薄々は気づいてるんじゃないの?」
彼女は少女に問いかける。
「………」
少女はどう答えたら良いのか分からないのか、数秒沈黙した後、震える声で答えた。
「夢を見たわ……一人の少女が一匹のドラゴンと戦う夢を」
「……そう」
「少女を助けることを諦めなかったドラゴンが」
「…………」
「殺されてしまい、少女が悲しんでいく夢を」
「………そうね、そうだったわね」
少女は乾いた声で嗤った。
「私は、あなたとは逆の結果を進んだアナタ
リアを殺し、掴めない筈の幻想を追い求めてきた優梨本人よ」
自らの行いを非難するかのように、乾いた声で嗤ったのだ。
彼女は少女達を見る。
その瞳には憎しみが篭っていた。
「だから、”この”結果が許せない。理解できない」
「だから私はここに来た
そして、あなた達をここに呼んだのは私」
彼女は少女を睨み付けた。
彼女の背中から光輝く禍々しい羽が出現した。
瞳に似たその羽から溢れ出る魔力の影響からか、羽が少し歪んで見える。
そして、右手に3色で構成された両刃剣を生み出す。
持ち手の部分が赤く、蒼い刃が特徴的な白い両刃剣だった。
「さぁ、決着をつけましょう
このリアの亡骸で作った両刃剣で今度こそアナタを殺し、リアを……
今まで掴めなかった幻を掴んでみせる!!!」
彼女の瞳は赤黒く染まり、両刃剣を目の前の自分に突きつけた。
「それが私の悲願なのだから」