好きになったのはいつ? side エマ
エマがクリストフを好きになったのは、デビュタントの日まで遡る。
その日のエマは、珍しく緊張していた。
「お母様、私、変じゃないですか?」
鏡の前でドレスの裾をふわふわ浮かせながら、全身を何度も確認するエマに、母は優しく微笑んでいた。
「大丈夫よエマ。世界一かわいいわ」
「本当に?本当の本当に?」
「ええ!だから、自信を持って行ってらっしゃい」
昔からお転婆だったエマは、小さい頃はドレスもお茶会もあまり好きではなかった。(今もそこまで好きではないが…)
そんなエマにもデビュタントの日が訪れる。
その日、久しぶりにドレスを着て、化粧をして、初めての社交界に参加することとなったのだ。
初めてのパーティーは、兄であるノルドのエスコートで参加した。
しかし、すでに社交界に顔を出していた兄は、会場につくやいなや、早々にエマから離れて、知り合い達に挨拶を交わしに行った。
もちろんそれは、兄なりの心遣いでもあった。
クリストフとの婚約が裏で動いているエマではあったが、父や母、そしてクリストフを含めた周りはみな、エマ本人の意志を尊重してあげたいと考えていた。
そして、そういった相手を探すのであれば、やはり夜会が一番適した環境だと考えたのだった。
しかしながら、エマは初めての夜会なのだ。
慣れない環境にドレスに雰囲気、加えてエマは、男性と会話をするのも得意ではなかった。
それにも関わらず、母の美貌を受け継いでいるエマは、兄のノルドがいなくなったことを皮切りに、さっそく様々な男性からアプローチをかけられることとなった。
「…というもので、僕と一曲いかがでしょうか?」
「いやいや、私と」
「いや、僕とぜひ!」
家柄も良いこともあり、目まぐるしくアプローチしてくる男性にすっかりと押されてしまっていたエマ。
断ることもできずにアワアワとしていたときだった。
「えっと、私、あの、」
「エマ、ここにいたんだ」
きっと、どこからか幼馴染のデビュタントの様子を窺っていたのだろう。
もしくは、置き去りにした兄の代わりに様子を見に来てくれたのかもしれない。
聞き慣れた声の主の方向へ顔を向けたエマは、その瞬間固まってしまった。
そして、顔がかあっと熱くなるのを感じた。
普段と違う雰囲気の…初めて、いつもより整えられた髪型と、上品に仕立てられた正装に身を包むクリストフをみて、幼馴染の兄の友達、から、好きな男性、へと、一目惚れしてしまったのだった。
それは、エマだけが知っているエマの初恋の話だった。
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「で、エマが僕を好きになったのはいつなの?」
あの日から、クリストフ様がすきあらばこの話を聞いてくる。
…自分は、はぐらかしたくせに。
「…クリストフ様がちゃんと教えてくれたら言います!」
「ちょっとそれは難しいな…」
「じゃあ私も秘密です!」
クリストフ様が困ったように笑った。
エマとしては特に秘密にする理由はない。
単純に自分で伝えるのは恥ずかしいという気持ちはあるが、言いたくない理由はないのだ。
ただなんとなく、自分だけ伝えるのは嫌という乙女心である。
少し意地悪な言い方になってしまったかもしれない、そんなことを考えていたら、今度は少し慎重な声色でクリストフ様が言った。
「…あのさ、ちなみに、実はまだ好きじゃない、とかってことは…」
「え!?」
思いもしていなかった質問に、慌ててエマがクリストフの顔を覗き込む。
「やだクリストフ様、そんなことないです!疑わないでください!」
「いや、わかってるよ!ごめんね?聞いてみただけなんだけど…」
クリストフ様もそういうことをするのか。
しっかりと思いを伝えあってから、こういったことが増え、より素の部分が見れて嬉しくなる。
しかしながら、やはりまだまだクリストフ様のほうが大人なのだ。
こんな冗談も、エマには到底言えるわけがない。
そんな気持ちを込めて、頬を膨らませて顔を背けるエマ。
「クリストフ様の意地悪。…お兄様とお父様に言いつけますよ」
「グッ…それは、勘弁してくれると助かるな…」
そんなクリストフ様の反応を伺うためにちらりと目線をやると、バッチリと視線があい、思わず二人で吹き出してしまった。
お互い、この話を伝えるのはまだまだ先になるだろう。
只今は、この楽しい時間を二人で過ごせたらと思うのだった。
一通りメモしていた短編は一度こちらで終了になります。
結構勢いで書いてるものが多いので、加筆したり、また思いついたら足していこうと思います。(^^)




