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205/205

205 そこまで石頭だったとは

 氷の台を目掛けて巨大な氷柱を落とす。

 台の上には巨大化グールの親玉であるスカム・ラビッシュの成れの果ての頭があった。

 鈍く大きな音がして氷柱は奴の後頭部に命中したのだが。


「うっそだろ!?」


 氷柱は奴の頭を起点にして地面へ倒れていった。

 それなりの高さから落下させたにもかかわらず奴の頭は潰れなかったのだ。

 なんたる石頭か。


『どうした、何があった!?』


 迂闊に叫んだせいで父アルブレヒトから報告を求められてしまう。

 魔導無線の送信を切るのを忘れていた。


「思った以上に巨大化グールの頭が頑丈で重量物を落としても潰れなかったんですよ」


『重量物とは?』


「巨木並みの氷の塊です」


『……それは氷の方が割れてしまったということか』


「いえ。そんな柔な氷は作ってませんよ」


『ならば、どうする? 手はあるのか』


「首を切断しますよ。頭を潰すよりは難しくないでしょうから」


『そうか。無理はするなよ』


「了解」


 返事をした後は魔導無線の送信術式を止めた。

 とっさに何か口走ったせいで味方が動揺するのは避けたいもんな。


 とはいえ、軽口を叩いたから楽勝ですとはいかないのは明白だ。

 巨大化グールの頑丈さだけの問題ではない。

 これまでは簀巻き状態から逃れようとしているのは分かるものの派手に暴れるようなことはなかった。

 アディが本気で捕らえるべく放った糸でグルグル巻きにされたのだから身動きできるはずもないのだ。


 が、今の氷柱アタックで奴が唯一自由になる頭を滅茶苦茶に振り回し始めた。

 これでは首を狙って刃筋を立てることが困難になる。

 おまけに頭ほどではないとはいえ簡単には斬れないであろう硬さがある訳で。


「セラミックの刃を生成しても切断は無理だろうなぁ」


 ぼやきたくもなろうというものだ。

 グリフォンゼロに搭乗したまま片手間で用意できそうなのは地属性の魔法で形成するセラミック材の刀かなと思っていたんだけど。

 その目論見は外れてしまったと見ていいだろう。


 ならば下手に固執せず他の手を考えるまで。

 ガイザーの超音波ソードは使えるかもだけどリスタは連れてこなかった。

 呼べば来るだろうけど、その時間が勿体ない。

 あまり時間をかけると父だけでなく皆が心配するだろうし。


 何か刃筋を立てなくても確実に切断できるものはないものか。

 パッと思いつくのはバッテリーを使うタイプの電動工具。

 丸鋸に装着する円盤状のチップソーなんかは刃先につけられた硬質チップが高速回転により次々と削り切っていく。

 刃筋が通るかどうかの問題を力業でクリアしてくれそうだ。


 ただ、派手に肉片やらなんやらが飛び散るのは想像に難くないので避けたいところでもある。

 かといってサンドブラストじゃ皮膚を削れるかも怪しいし。

 レーザーは炎熱に耐性のある奴相手だと時間がかかりそうだ。


 熱がダメなら水はどうか。

 確か工業機械に超高圧で水を噴き出させて切断するウォータージェットがあったよな。

 飛び散りもありそうだけど、水の勢いがあるからこちらには飛んでこないだろうし洗い流しもしてくれるだろう。


「これだな。いけるぞ!」


 この世界では未構築の魔法になるので一から術式を組み上げて……

 原理は単純なので長ったらしいコードにはならない。

 難しいのは圧力を上げる部分だけだ。


 魔力を大量投入してゴリ押しする手も無くはないが、魔力の消費効率が著しく悪くなりそうなので丁寧に術式を組み上げる。

 この部分だけ多層構造にして重ね掛けする形にすれば数学で言うところの、、べき乗のように効果が跳ね上がるはず。

 もっとも多層術式を単独で構築すると制御が格段に跳ね上がるのだけど。


 そのあたりは何とかしてみよう。

 ある意味、魔力をゴッソリ持っていかれるよりは余力を残すことができるだろうし。


「よし、完成だ!」


 さっそくグリフォンゼロの魔法銃に術式を流し込む。

 セット完了、っと言いたいところだけど少し術式を改変する。

 ちょっとした思いつきだが上手くいけば効果はアップしてくれると思う。


「さあ、地獄で懺悔しな!」


 まるでダークヒーローのような台詞だけど、アンデッド相手とはいえこれは戦争だからこんなものか。

 とにかく術式を流し込んだ魔法銃のトリガーボタンを引き絞る。


 直後、機体に反動が来るほどの圧力で放出された糸のごとき噴水が、一直線に巨大化グールの首に目掛けて飛んでいく。

 が、それは泥の壁に阻まれた。


「なにぃ!?」


 完全に止められた訳ではなかったが、ウォータージェットの勢いを削ぐには充分。

 貫通後の勢いでは奴の首を切断するには至らない。


 一瞬、スカムの奴が魔法を使ったのかと錯覚してしまったが、どうやら違うようだ。

 存在を無視していた最後の忠臣であるもう1体の巨大化グールの仕業だった。

 コイツも魔法を使った訳ではなく、自らの体を液状にしてアディの粘着糸の拘束から逃れた上に身を挺してスカムをかばった訳だ。


 まさか形を失ってまで主を守ろうとするとはね。

 やったことは逆ふ化とでも言えばいいのだろうか。

 要するにふ化する前の状態に戻った訳だ。

 殻を省略しているのは自由に動くためだろう。

 結果としてドロドロのスライムのような姿になってしまったため、もはやグールとは別物だ。


「お前は三河武士かっ!」


 身を挺して守ろうとするなど犬のように忠実とまでうたわれた三河衆を思わせる献身ぶり。

 敵ながら天晴れなどとは言わない。

 主がクズだからな。

 むしろ戦国武士たちに申し訳なくて思わず出た言葉が恥ずかしくなったさ。


「この狂信者め」


 だから言い直した。

 コイツはスカム・ラビッシュを神とあがめて闇雲に崇拝しているだけなのだ。

 故に自らを盾にして滅んでも後悔することはないだろう。

 なんとなくだけど神の御許に召されると本気で信じていそうなのが伝わってくるんだよな。


「そんなに消えたければ浄化してやるよ」


 再び魔法銃のトリガーボタンを引く。

 今度はウォータージェットではなく拡散型のシャワーである。


 ただし、瀑布とうたわれるような滝を想起させる勢いの流水が出る代物ではあるけれど。

 先程と同じように浄化の効果が付与されているため面で浴びせる方が効果は高い。


 人の形を失ったことで口も失った狂信者は絶叫を上げることができない。

 それでもボディを激しく波打たせる様は断末魔の悲鳴を上げているかのようだった。

 効果は抜群だが、それでも逃げようとはしない。

 そこまでして主を守ろうとすることで、こちらが悪であるかのように錯覚させられそうになったさ。

 それでも攻撃は止めない。


 そうして大量に浄化水を浴び続けた狂信者は徐々に小さくなっていった。

 本来であれば周囲が水浸しになってもおかしくない状況なのだけど地面に大きな変化は見られない。

 流れ落ちた分は魔法でこっそり影の中に落とし込んでいるからだ。


 そうしている間に狂信者スライムもどきは跡形もなく消失してしまった。

 魔力を探知してみるが残るはスカム・ラビッシュのドデカく邪悪な瘴気に汚染された魔力のみだ。


「待たせたな」


 向こうとしては死あるのみの状況で待ってなどいないだろうがね。


「今度こそ、その首切り落とす」


 魔法銃へ付与する術式をウォータージェットへと変更。


「これでジ・エンドだ!」


 俺はためらいなくトリガーボタンを引いたのだが……


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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