第五話「"Perfectio"」(後編)
眼前の相手を視た
恐らくこの『完全者』を名乗る者には詠唱を始めとした、魔法の下準備の概念一切が存在して居ない
即ち戦闘が始まれば、それと同時に攻撃が僕へ向け殺到する事であろう
つまり彼は一般的な魔女総てに対し、常に先んじて戦う事が出来る
それを知識や経験として、知っても居るだろう
───故に、僕の勝利は揺るがない様に思えた
無論、相手は一流を超えた一流である
当てが外れる可能性は在った
後は単純に、僕が此処までの人間なのかどうかでしか無い
凡そそうした事を、僕は思った
───戦闘が始まるようだな
相手の表情等から判断し、僕は合図として左手を強く握った
『完全者』の皮膚という皮膚が視る間に膨張し、火山の噴火よりも激しく、爆発が彼の全身のあちこちで繰り返された
雷啓派の少年の技術を解析して居た際、副産物的に身に付いた爆弾生成の魔法だ
今回の場合は発生箇所を、敵の各血管の内側と定めた
未だ来たらぬ時間の技法である為、防御される可能性は極限まで低い
爆発と鮮血が視界を埋め尽くし、僕自身も彼の血と皮膚、薄紅色の肉片、髪、衣服の破片、燃え殻、そうしたものに全身まで塗れた
───誤算が有ったか
完全者は、まだ斃れて居ない
どの程度の打撃を与えられたのかは完全に未知数だったが、少なくとも炎と血煙の先に微かに視える人影は、まだ直立して居た
第二の爆破を実行する
無作為に場所を変更し、再び発破を行う
今度は急ぎ行った事もあり血管に狙いを絞らず、躰内の手当たり次第の場所を攻撃した
新しく血が撒き散らされ、僅かに灼けた肉片や臓器、骨や爪、毛髪などの混ざった破片と思しきものが、僕の全身に当たっては地べたに落ちていく
恐るべき事に、仕掛けた攻撃の中のごく少数が『僕も知らない何かしらの技術によって防御、無力化された』
完全者が一回受けた攻撃を解析して防御手段を発見した事は、疑いの余地も無かった
その事実に気付いて、血の気が引いていく
第三の爆破、第四、第五………ほぼ恐慌の様な状態で、僕は魔力で完全者の躰の内に爆弾を生成しては、即座に起爆し続けた
繰り返される轟音、
炎、
肉片、
炸裂、
血、
閃光、
僕の眼前の存在はまだ斃れて居ないばかりか、前方───即ち僕へ向けて、よたよたと歩き出そうとして居た
「ひっ」
こんな恐怖を僕は知らない
魔力の過行使によって心身が限界だったが、僕は唯一の通用する攻撃と思しき爆弾の魔法を行使し続けた
精神は既に灼き切れて居て、僕の眼と鼻、もしかすると口からは止め処なく血が溢れて居た
全身が痛い
特に頭の中と眼の奥、人躰の本来痛んではいけないであろう場所が、幾つもの鋸で擦られた様に痛かった
こちらの攻撃は、今なお部分的に防がれて居る
これは完全者が『まだ明瞭に意識が在る』事を意味して居る
焦げた手が、僕の喉を掴む
叫び出したかった
しかし、そうするよりも更に攻撃する必要があった
僕自身が殺されない為に
恐怖で錯乱しながら
僕は握った右手の、篭手の拳で前方を殴った
二度と感じたくない様な感触と共に
視界の中で、肉のこびり付いた人骨が砕け散って四方八方にばら撒かれた
僕の首を絞めて居た指から力が抜け、手首から先だけになった人間の破片が、ぼとりと足元に落ちた
これで戦闘終了らしかった
僕の意識の世界が、夢が覚めるように終わり始めていく
安堵に気を喪いそうになりながら、僕はすんでの所で耐えて、両手を地面に突きながらその場に屈んだ
まだ安心出来る状態では無い
現実の世界では、いまNuclear Fusionに依る汚染を伴う破壊、そして灼熱が発生して居る
「どうしたものかな……」
現実に引き戻されていく意識の中で、僕は思案した
どうしようもなく、煙草が欲しかった




