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第一話「Veritas」

魔女は一人立ちする時

生まれた時の名前とは別に、自分で定めた名前を名乗るものだ


例えば、僕は真理を意味する『Veritas』の名で魔女をやらせて貰って居る

まだ子供のような年齢だし男でもあるが、侮られる筋合いは無い


真理の探求に生涯を捧げる『洞灯派』の魔女として、僕は着実に経験と実績を積み重ねて居たし、その甲斐有ってか、ついに昨夜の夢で『啓示』を得る事にすら成功した


しかし、啓示の内容が不可解、かつ周囲の魔女達に警戒されない危険な内容のものであった為、僕は夢から覚めた時に傍らに在った、啓示が記された石版を、まだ誰にも視せる事が出来ないままで居た



「それで、ヴェル………」


「最近、何か面白い事でも有った?」


都市の者の服に身を包んだ不愉快な少年は、身に合わぬ尊大な態度で僕の研究机に腰掛けると、紙巻きされた刻み葉の束に、指から出した炎で火を点けた


この服は『スーツ』、吸って居るのは『煙草』と都市では呼ばれて居るらしい

洞灯派の名の由来たる僕の拠点、洞窟の研究室が不愉快な灯りに照らされていく


気に入らなかった



そもそも、他人の名を省略するのは、魔女界では最大限の侮蔑を意味する

彼は親しみの表現として愛称で僕を呼称して居るらしいが、もし僕が研究職である洞灯派で無ければ、既にこの場で生命を賭したやり取りが始まっていた事だろう



「無い」


「その臭いゴミを早く捨てろ」



「───いや、お前自身も臭いゴミのような物だったな」


『愚かものとの会話は、一言で終わらせるに限る』

そう思い、一言で終わらせようと思ったにも関わらず、どうしても言いたい事が多く、言葉がつべこべしてしまった


この馬鹿の名前は『Argentum』

『銀』の名持てし、放浪派の魔女だ


真理の探求により獲得した知見を都市で売り捌き、獲得した穢らわしい富で穢らわしい暮らしをしている

僕に言わせれば、まさに愚かものとしか言いようがなかったし、この世の多くの魔女がそう考えて居る


しかし放浪派の魔女は、最初から喪うような名誉など一つも持って居ない

或る意味でこれは、彼の天職なのかも知れなかった



「そんなに怒るなよ」


Argentumは机に煙草を擦り付けて火を消すと、当然で有るかのように僕の椅子の手摺(てすり)に腰掛け、肩に手を回して来た



「僕はね」


「君と、ビジネスパートナーになりたいんだ」


Argentumが自己陶酔に満ちた瞳で僕の顎に触れる

最大限の苛立ちと共に、放浪派の魔女少年を睨み付けようとして───僕は、彼の革製の鞄から僅かに姿を覗かせた、石版の存在に気付いた



Argentumが僅かに動揺を視せる

だが、それも一瞬の事で、彼は直ぐに腹の立つ笑みを浮かべると「ああ、これ?」「僕も昨晩、啓示を受けたのさ」「真理への貢献が、実を結んだのだろうね」と、勝手な事を次々に語り始めた


僕はそれを総て意に介さず、鞄を奪おうと手を伸ばした

個人的見解を言うなら、彼には真理の手掛かりなど相応しくないように思えたからだ


僕もArgentumも、腕力は無い方だ

とはいえ、暴力の場数で言えば、僕は調子に乗っただけの商人まがいよりは多少の経験が有る




───と、思って居たのだが


眉間に当たる冷たく硬い感触に、僕は慌てて鞄から手を離すと、抵抗の意志が無い事を示す為に両手を頭の高さに差し上げ、相手に向けて両の手のひらを開いた


僕のような、都市に疎い者でも知って居る

いま突き付けられて居るのは『銃』という武器で、これは握った手の人差し指でレバーを引くと、僕の頭くらい簡単に割る事が出来る道具だ


今度は、こっちが下らない愛想笑いを浮かべる番の様だった



「おい」


「ええと…………」


「…………」


「………ビジネスパートナーになろう」




「今からでも、別に遅くは無い………」


「そうだろ?」


極力恐怖を視せないように心掛けたが、声はきっと震えて居た事だろう


Argentumの眼は、もう笑って居なかった

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