憩いのひととき
「お客様、少々こちらでお待ちください」
使用人が出てきて機械のような口調でそういった。
「なんか感じ悪いな···」
しばらくするとザックが走って迎えに来た。
「ハーベル兄様、こちらです」
「ザック、はしたない!兄様ではないでしょ!」
「ああ、お気になさらず」
「ハーベル様、こちらへ」
大きな机の端と端に椅子が置いてあり、ずっと向こうまで続いているように思えた。
「ハーベル殿と申したかな、当方のザックが大変な御迷惑をおかけしました。お礼をお支払いしたい。いかほどを御所望か?」
「お礼なんて要りません」
「それでは、こちらの立場というものが···」
「では、1つだけお願いがあります」
「何なりと」
「おれ···いや、私はリーフィア様に大変興味をもちました。お美しく、気品だかい。よろしければ、私とお付き合いをお許しいただけないでしょうか」
「ほー、あのリーフィアが···」
「リーフィアは、内気であまり外出などもしない、つまらない娘です。こちらからお願いしたいくらいです」
「ありがとうございます」
「リーフィア様よろしいですか?」
「はい、よろしくお願いいたします」
「あの、リーフィア様が?」
使用人達も驚いている様子だ。
「早速ですが、ご一緒願いますか?」
「喜んで」
俺は、リーフィアを連れ出すと一緒に歩き始めた。
「リーフィアさん」
「リーフィアとお呼びください」
「では、リーフィア、魔法はお好きですか?」
「魔法ですか?そのようなこと考えたこともありません」
「俺は、魔法が大好きです」
「あ、俺って言っても大丈夫ですか?こっちの方がしゃべりやすくて···」
「私の周りではそのような話し方をされる方おりませんが、何か親しみを感じます。私は気にしませんよ」
「よかった。魔法が大好きな理由は、自由だからです!」
「自由?」
「はい、何でもできる自由があるからですよ」
「おかしなことをおっしゃいますね。魔法なら誰にでも使えるのでは?」
「そうですね。では、こんなのはいかがですか?」
俺は、リーフィアの手を握って空高く飛び上がった。
空中で彼女の体を抱き上げ、回転しながら遠くまで見渡した。
「きゃー、びっくりしました。でも、不思議と怖くありません。昔から、空を飛べたような···」
「じゃあ、行きますよ」
そう言って、一気にスピードにのって飛び回った。
「ハーベル、楽しい!けどもう下ろしていただけますか。恥ずかしいです」
「ああ、ごめんなさい」
「いえ、こんなに笑ったのは生まれて始めてです。
私、ここ15年ほどの記憶が抜け落ちてしまったようで
何も覚えていないのです」
「そうなのですか···」
「でも、ハーベルといると昔を思い出せそうな気がするの」
「それは良かった」
「そういえば、ハーベル、魔法使うとき詠唱してないよね」
「はい、無詠唱でも魔法は使えるのですよ」
「無詠唱でも?」
「そうです、リーフィアにもきっと使えますよ」
「そんなこと···」
「リーフィア、そこのコップに水を入れてみてください」
「ウォーター」
「これぐらい私にもできますよ···」
「じゃあ、次は詠唱せずにコップの中に水がある状態を頭に浮かべてウォーターと言ったつもりになってください」
「ああ、水が入ってるよ!」
「ハーベル、すごい」
「いや、すごいのはあなたですよ。リーフィア」
「あなたも、魔法の才能があるのです。忘れているだけであなたはすごい人なのです」
「どういうこと?」
「ああ、今はまだいいのです。いまはまだ···」
「変なの···」
そう言って、コップの中に何度も水を出して遊んでいた。いまはまだこれでいい。
「ハーベル、もっと何か面白いこと教えて?」
「じゃあ、これなんかどうですか?テルミットという魔道具です」
「変わった魔道具ですね。どうやって使うのですか?」
「それは、自分で探してみましょう」
「ハーベルの意地悪!意地でも探してみせるわ」
これもあなたが作ってくれた魔道具なんですよ。
「ヒントちょうだい」
「そうですね。他の人と話ができます。遠く離れていてもね」
「なるほど、話ができるなら、こうかな?」
そう言って、テルミットを耳に当てた。
「正解です。さすがリーフィア」
「ハーベル、聞こえる?」
「はい、聞こえますよ」
何だか涙が込み上げて来た。
次回 【後悔と歓喜】




