バレンタインデー ユートピアにて(2)
「ど、どうしたの……?」
ギルドハウスに入ると、こちらを見たサクラちゃんとスミレちゃんは唖然としていた。
ユリネさんはその様子を見てクスクスと笑っていた。
「えっと、フリントさん……ですよね?」
「そうだけど、どうしたの?」
「えっと……」
「?」
「……か」
「か?」
「「カッコよすぎですっ!」」
「?!!!」
2人は同時に叫び出し、バタバタとこちらに駆け寄ってきた。見るからに大興奮状態だ。
「フリントさん、何ですかその格好は?!」
「ほら、オレ、男だからさ。交換所には男モノのこれしか無かったんだよ」
「そ、そういえば……!」
「そう、でしたね……」
この反応……。
どうやら、オレが男アバターだという事を本気で忘れていたらしい。
確かに、オレのアバターはとっても可愛い。普段からドレス姿という事もあって、ユリネさんからもまるでフランス人形のように愛でられている。
意識していなければ、女の子と勘違いしてしまうのも無理は無い。
というか、普段の口調でなんとなく分からないものだろうか……?
「なるほど、シルクハットと合わせる為にロングヘアーをお団子ヘアーに変えたのね。あぁ、これはこれで似合ってて好き♪ 眼福です、ありがとうございます♪」
「ははは、おべっかありがとうございます……」
うん、この人は今日も平常運転だ。
…これでいつも通りって思うとは、オレも相当この人に慣れてきたな……。
「まぁ良いや。それじゃ、早速レイドボス戦についての話を……」
「スクショ! スクショ撮りましょう! 撮らせてくださいっ!」
「え?」
「わ、わたしも、撮らせてくださいっ!」
「あら、いいわねぇ。わたしも混ーぜて♪」
「?!!!」
こうして、唐突なスクショタイムが始まった。
ユリネさんの指示の下に色々なポーズを取り、サクラちゃんとスミレちゃんと一緒にたくさんのスクショを撮った。
この撮影会は、たっぷり1時間程続いた。
「……(ぐったり)」
「いやぁ、良い写真がたくさん撮れました♪」
「あ、ありがとうございます……!」
「うん、ヨカッタネ……」
やっと撮影会から解放された時には、オレはすっかり疲れ果てていた。
今からレイドボス戦に行くんだけど、こんなんで本当に倒せるのだろうか……?
「はいはい。それじゃ、レイドボス戦についてのお話を始めましょうか」
「「は、はいっ!」」
ユリネさんが手を叩いて注目を集め、ようやく場が話し合いの雰囲気に切り替わった。
「今回のレイドボスについてはインフォメーションで軽く見てきたけど、無茶苦茶ねアレ。遠近共に対応出来る攻撃スキル持ち、そして高い攻撃力と耐久力……。ゴーレム系だから大して素早さは無いけれど、ソロじゃあとてもやってられない相手よね」
「ですよね」
そう。
インフォメーションでは攻略情報こそ載ってはいないが、攻略のヒント自体は紹介文にあったのだ。
『バレンタインデー当日に突如として現れた、全身超硬度なチョコレートで出来たチョコゴーレム。その剛腕はバレンタイン脳な人間たちを吹き飛ばし、背面のチョコレートミサイルで全てのチョコレートを消し炭に変える。バレンタインデーに嫉妬する某博士が創り出した最強のバレンタインキラー、その名は―――』
…という文章である。
いや、超硬度なチョコレートだとか、某博士って誰だよとか色々とツッコミどころは満載なのだが、今はそれはどうでもいい。
少なくとも、この紹介文からは"近接戦闘型"で"遠距離攻撃手段をも併せ持つ"事が分かる。
つまり、盾役の存在はほぼ必須と言える。
そして、ウチのパーティーで取れる戦法は……。
「…オレが盾役になって、スミレちゃんとユリネさんによる遠距離攻撃で仕留める感じ、かな……」
というか、ほぼそれしかない気がする。
オレの攻撃が通用するならまた別の戦法もあるかもしれないが、今回はイベント専用武器を装備出来ない事から、レイド戦におけるオレの火力は期待出来ない。
今回はイベント専用武器を装備している3人にひたすら頼る事になりそうだ。
「やっぱり、そうなるわよね」
「やっぱり?」
「実はね、そこの2人が一足先にレイドボス戦を挑んできたみたいなの」
「え、そうなの?」
「は、はい……」
「夕方くらいに一度だけ、ですけどね。自分たちの力がどれだけ通用するのか、ちょっと試してみたかったんです」
「そ、そうなんだ……。それで、どうだったの?」
「そうですね。ぶっちゃけてしまうと……」
「ぶっちゃけると……?」
「「鬼です」」
2人の声がシンクロした。
「まず、敵の射程に入るとミサイルとガトリング攻撃のオンパレードが飛んできます」
「うわぁ……」
「一応アレの足下までいくとミサイルとかは飛んできませんが、代わりに強力なパンチ攻撃が頭上から降ってきます。また、方向転換で踏み潰されるリスクもあります」
「嫌だな、それ……」
「パンチ自体は遅いので回避は余裕ですけど、距離の取り方が甘いと着弾の際の余波でダメージを受けてしまいそうです」
「ふぅん……」
一応穴というか、弱点らしいところはあるんだな。
それでも一定のリスクはあるところは、さすがレイドボスか……。
「それで、どこまで減らせたの?」
「ほんの1割が限界でしたね。わたしがちょっとドジっちゃって……」
「最後は、ガトリング攻撃で蜂の巣にされました……」
「お、お疲れ様……」
どうやら、とても酷い目にあったようだ。
事前情報がほとんど無かった初見では、まぁそんなものだろう。
オレも、別のゲームでだけどレイド戦は経験している。
あの時はひたすらに火力全振りしていた友人がいたので、オレは状態異常攻撃や回復などのサポートに回って上手い事やれていた。
だが、今回はオレが前線に立たねばならない。あの時のアイツのように。
今のオレはVIT全振り、格上のドラゴンの攻撃をも単身耐え凌いだ経験もある。
しかも、あれからさらに強くなった。
レイドボスだろうと、真っ向から受けきって、絶対に勝つ!
2人が得た情報を整理し、皆で対策を色々と話し合った。といっても、結論は大して変わりはしなかった。
オレがひたすらボスの攻撃を引きつけ、他の皆で後ろから一斉攻撃で仕留める。以上。
遠距離攻撃手段を持たないサクラちゃんは、後方火力組の防衛兼前線のオレへの回復役。ついでにMPのサブタンク役でもある。
広範囲防御スキルを持っていると聞いた時には非常に驚いたものの、今となっては頼もしい。耐久力や回数に制限はあるらしいけど、そういうスキルがあるのと無いのとでは大違いである。
前線でのおとり役、後方火力役、回復・防御支援役。
バランス自体は良いはずだ。
オレが倒れさえしなければ、勝てる。
それに、オレには切り札もあるしな。
(通用するかどうかは分からないけど……)
準備を万全に整えたオレたちは、パーティー登録を終えた後、レイドボス戦専用ステージへと転移した。




