第62話 そして再び
ダンジョンでの鍛錬を終え、モレスビーの自宅に戻って今日の話をしながら夕食をとっている時に突然デイブが話を止めて、同時に手も止めた。それを見て顔を上げたマリアンヌが聞いた。
「どうしたの?」
「ダンが黒い渦を見つけて飛びこんだみたいだ」
顔を上げたマリアンヌの目を見てデイブが言った。
デイブの言葉にびっくりするマリアンヌ。彼女もフォークを手に持ったまま動きを止める。目はデイブを見たままだ。
「わかるの?」
その言葉に頷くデイブ。確かに今ダンの声が聞こえた。帰ろう、デイブまた来るぞという声が。
「たった今聞こえてきたんだ、ダンの声が。デイブ、また来るぞという声が。あれはダンが渦に飛び込む前に叫んだ言葉だろう。そうかダンの奴この大陸でも黒い渦を見つけて飛び込んでいったか」
デイブの言葉を黙って聞いているマリアンヌ。黙っているがマリアンヌはわかっていた。デイブとダンは目に見えないすごく深いところでいつも繋がっているということを。
デイブの表情を見ると穏やかな表情をしている。
「ダンが無事に黒い渦を見つけられてよかったわね」
デイブの顔を見ながらマリアンヌが言うとその声に大きく頷くデイブ。
「ああ。奴ならやるとは思っていたよ。そしてその通り成し遂げた。本当に大した奴だ」
デイブはそう言うと目の前にある食事に手を伸ばした。
「ここは…」
渦に飛び込んだダン。気がつくと土の地面の上に立っていた。前ほど浮遊感はなく気がついたらそこに立っていたと言う感じだ。
そうしてその場所でぐるっと周囲を見渡してみる。すると立っているダンの背後に見慣れた三重の高い山々が目に入ってきた。何もない荒野の中に聳えている山々。最初に飛び込んだ黒い渦がある山々だ。
「モスト大陸に帰ってきたぞ」
荒野の真ん中で両手を突き上げて声を上げる。そうして山を背にして歩き出そうとしたダンはその自分の足元に丸いオーブの様なガラス玉が落ちてるのを見つけて拾い上げる。
それはガラスの様に透明だが中はドス黒い雲の様なものが漂っていた。手に持って中を見る。
「これはひょっとして」
ガラス玉を両手でしっかりと持つと、中の黒い渦がゆっくりと周り出す。その回転は徐々に速くなっていった。そうして渦が目にも止まらない速さにまで回転した時ダンの姿はその場から消えた。
「やっぱりだ」
次に気がつくと森の中だった。そう、ダンとデイブがシグナギ大陸に飛ばされて最初に降り立った場所だ。ダンは森の中を歩いていき森を抜けたところの草原を見て確信する。ラエの要塞に続いている草原だ。
「このオーブは渦に飛び込んで行って帰ってきた場所にいつでも行けるオーブだ。1回じゃダメなんだな。2回、往復して初めて手に入る物だ」
これでデイブのところにいつでも行ける。そしてデイブにあの滝裏のダンジョンをクリアさせれば彼もいつでもモスト大陸に来ることができるぞ。
ダンはその場でしばらく考えていたが、
「まずはヴェルスに帰ろう」
そう言うと再び渦のオーブを両手でしっかりと持つ。渦が激しく回転しダンはさっきと同じモスト大陸の荒野の中に移動する。
オーブをアイテムボックスに収納すると背後に三重の山を見ながら荒野を南に街道を目指して歩き始める。
ヴェルスに戻った後のワッツへの報告は長くなりそうだ。
【完】
あとがき
最後までお読みいただきありがとうございます。いつも通りですが宣伝などせずに書きたいものを書いてはサイトにアップしているだけですが、毎日アクセスがありブックマークもしていただき、日々の執筆の励みになりました。
このノワール・ルージュに限らず私は小説を書く時にはまずエンディング(終わり方)を決めてから書き始めるのですが、この小説に関しては当初考えていた結末とは異なる結末になりました。ダンという暗黒剣士は書いていて楽しいキャラでこうしよう、あれもさせようと思っていると脇道に逸れていき、いつの間にか脇道が本道になってしまいました。
いつかまたこの続編、あるいは別の物語で登場させたい人物です。
2022年8月 花屋敷




