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ノワール・ルージュ2  新大陸編  作者: 花屋敷


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50/62

第50話 ジュエノ王国

 途中で野営を繰り返しながら南に向かっていた2人、魔人の首領の拠点を出て1ヶ月と半分ちょっと過ぎた頃の昼過ぎに2人の目の前に国境となっている大河とそこにかかる大きな橋が見えてきた。



「向こうから誰かがやってくるぞ」


 要塞の城壁の上で見張りをしている軍の兵士が声を上げた。その声につられて兵士と冒険者達が城壁の上に上がってきた。こちらに近づいてくる赤と黒のローブ姿の男たちを見ると、


「おいっ、あれはダンとデイブだ」


「ああ、ノワール・ルージュだ」


 冒険者達がそう叫ぶとノワール・ルージュが北の魔人領から戻ってきたことはすぐに橋の近くにある要塞中に広まった。要塞の中が騒然となる。


「本当に帰ってきたぞ」


「あいつらならやるだろうとは思ってたけど本当にやっちまいやがった」


 皆近づいてくる2人を見ながら口々に言い合っていた。

 


 ノワール・ルージュが落とした要塞はしばらく冒険者達が管理していたが半月ほど前に軍の兵士達がやってきてそれからは軍と冒険者で要塞を守りながら北の獣人領を見張っている。


 兵士と冒険者が橋に近づいて閉鎖してある頑丈な門の閂を抜いて扉を開けてしばらくすると川の向こう側から2人が橋を渡り初めて門をくぐって人間領に入ってきた。


 一斉に冒険者達に囲まれる2人。その中にはAクラスのパーティであるホワイトタイガーのメンバーもいた。


「よく帰ってきたな」


「どうだった?魔人をやっつけてきたのか?」


 口々に話しかけてくる中、ダンとデイブは要塞の中に入る。中に入ると1人の軍人とホワイトタイガーのリーダーであるプリンスが近づいてきた。


 握手を交わしてから軍人が


「私はジュエノ王国軍のナッシュだ。2人が大臣になりすましていた魔人を倒したり、他にも王国内で成し遂げてくれたさまざまなことについては知っている。領土をここまで押し上げてくれて感謝する」


「ノワール・ルージュという冒険者だ。俺はデイブ、こっちがダン」


 挨拶を終えると要塞の中にある一室に2人は移動する。そこには暖かい食事や酒、そしてジュースなどが用意されていた。ダンとデイブ以外には軍から5人、そしてホワイトタイガーの5人それにBクラスの冒険者達が数名同席する。


「暖かい食事は久しぶりだ」


「ああ。干し肉には飽きたところだったからな」


 そう言ったデイブとダンは食事をしながら魔人領での出来事を報告していく。軍人の1人が書記として2人の会話を記録していた、


「なるほど。ここから先の魔人領はさらに2つに分かれていて獣人が住んでいるエリアとその奥の魔人だけが住んでいるエリアに分かれているのか」


「そういうことだ。獣人に聞いた話だとやつらは魔人領には無断で入れないらしい。魔人から与えらた場所に住んで生活をしているそうだ」


 質問はナッシュとプリンスが主として行い、それに答えるのは例によってデイブだ。ダンは黙って目の前の料理を口に運んでいた。


 周囲も黙ってデイブの話を聞いている。戦闘があったことも話をしていくがノワール・ルージュの2人で獣人の村を破壊し、そこにいるAクラスから様子を聞きながら北上をしていったという話を聞いても誰も驚かない。この2人なら当然だなという表情をしている。


「獣人が住んでいるエリアの北にはここほど大きくはないが川が東西に流れていた。そしてそこから北が魔人領になるんだが川に面している森を抜けると地形が一変した。緑がなくなり一面荒野になるんだ」


 デイブの説明に驚く周囲。


「俺とダンはその荒野を進んで北を目指した。荒野には川もないから水だけはたっぷりと準備したよ。そうして北上していると魔人の要塞を見つけた。その要塞で魔人を倒しまくっているとランクの高い魔人が現れ目的を聞いてきたから鍛錬だと言ったんだよ」


「どれくらいの強さだ?」


 プリンスが聞いてきた。


「そいつはランクSSSSクラスだろう。周囲にいた他の魔人はSSSクラスだ。北に上がるほど魔人のランクは上がっていた」


 黙っていたダンが言った。そうだと頷くデイブ。


「SSSとかSSSSクラスの奴が出てきてもビビらなかったのか?」


 その問いにはダンが答える。


「SSSSクラスの奴からは敵意が感じられなかった。だからこいつは本物だと思ったよ。それまでの魔人はSSからSSSクラス未満で俺達を見ると弱い癖に攻撃してきたが奴は違った」


 SSからSSSクラスを弱いと言い切るダン。その言葉が誇張でもなんでもないのは冒険者は知っているが軍人は彼らの話を聞いてびっくりしていた。


「SSとかSSSクラスというが大臣に化けていた連中と同じくらいの強さなのか?」


「大臣に化けてたのはSからせいぜいSSクラスの間だろう。あいつらは雑魚だよ」


 あっさりというデイブ。ナッシュは王国守備隊のヤングから大臣に化けていた魔人を目の前にいるダンとデイブが弱いと言い切ってあっさりと倒したという話を聞いている。もちろんヤングはその時には足がすくんで体が動かない中、ダンとデイブだけは全く動揺もせずに魔人をなぶり殺していたと言うことも。


 それを聞いていたナッシュではあるがSSSクラスを弱い奴らと言い切る2人。軍なら何十人も揃えて一斉に攻撃して倒せるかどうかという強さの魔人を2人で倒しまくっている。すまなかった、話を続けてくれと言うとデイブは頷き、


「後でわかったがそいつが魔人領のNo.2だった。副首領と呼ばれていた。そして鍛錬なら首領と合わせてやろうと言って俺達は魔人の首領がいる要塞に出向いた」


「SSS以上SSSS並みの腕でNo.2なのか。となると首領ってのは」


「首領はSSSSクラスより上だったよ。5Sクラスだろうな」


 再びダンが口を開いた。そしてデイブが続ける。


「俺達が鍛錬が目的で魔人殺しが目的じゃないと言うと首領も俺も鍛錬の相手を探していたと言ってな戦闘じゃなくて模擬刀で鍛錬をすることにしたんだよ」


 その言葉にまたびっくりする周囲。鍛錬だと?と言う声が聞こえる。


「魔人は最近まで身内で殺し合いをしていたらしい。誰が首領になるかという身内の殺し合いだ。そして今の首領が勝ち残って新しい首領になったが身内の殺し合いで魔人の数が大きく減った。首領は魔人同士の殺し合いを禁じたらしい。ただ自分より強い相手がいないので鍛錬の相手を欲していたと言ってたな」


「それでお前さん達がそのSSSSクラス以上の魔人の相手をしたのか?」


 デイブの言葉に続いてホワイトタイガーで戦士をしているジョンが聞いてきた。


「ダンが首領と、俺が副首領と模擬戦をすることになった。その模擬戦の前にダンが魔人の首領に1つ提案を出したんだよ」


「提案?」


 全員が顔を上げて2人を見る。


「そう。ダンは首領に魔人や獣人はこの大河から南に来るな、俺達人間も大河から北には行かない。相互不可侵の約束を取り交わそうと言ったんだよ」


「!!!」


 その言葉を聞いた軍人も冒険者も驚愕した表情になる。戦力的には相手の方が圧倒的に上だと認識しているこの大陸の人々にとっては魔人相手に相互不可侵の約束事を持ち出すという発想はない。


「そ、それでどうなったんだ?」


 ナッシュが前のめりになって聞いてきた。


「ダンの提案に首領の魔人は、俺と同格か俺より強い人間ならその約束を守ってやろうと答えた」


 デイブが言うと皆の視線が一斉にダンに注がれる。ダンはその視線を受け止めても黙っていた。デイブが口を開いた。


「俺達は結局魔人の首領のいる要塞で2日寝泊まりして3日間模擬戦をやった。ダンと首領との模擬戦は凄かったぞ。俺と副首領の魔人との模擬戦は結局6分4分で魔人の方が強かったが、ダンと魔人の首領とは全くの互角だった。俺はダンの剣が弾き飛ばされるのを初めて見たよ。ただダンも自分の剣が弾き飛ばされたのと同じくらいの回数、相手の首領の片手剣を弾き飛ばしていたけどな」


 デイブの言葉を聞いて皆驚愕した顔のままダンを見る。3日間も敵の本拠地で模擬戦をしたこと、その模擬戦が5Sクラスの首領相手で五分五分で終わったこと、ダンの強さを知っているホワイトタイガーのメンバーですらそのダンの強さが自分達の想像のはるか上だったことを知る。


「模擬戦は魔法無しという条件にしたからその時点でデイブは不利だった。魔法無しでもデイブは魔人のNo.2とほぼ互角に近い戦いをしていたよ」


 黙っていたダンの言葉に今度は多くの視線がデイブに注がれる。ダンの影に隠れてはいるがデイブも相当の剣の使い手だということを再認識する周囲の冒険者達。


「そして首領だが、流石に魔人でNo.1を張るだけはある。一撃は重くて早い。元々上背もあるし腕も長い、奴が持っていた片手剣は人間でいうところの大剣くらいの大きさだろう。それを軽々と持って物凄い勢いで振り回してきたよ」


「でもダンはそれを交わしてその大剣というか片手剣を弾き飛ばしたんだろう?」


 ジャンの言葉に頷くダン。


「最初の手合わせで俺の片手剣が弾き飛ばされた。その時にスキルが上がったみたいで2回目からは魔人の動きが1回目より良く見える様になった。そうして模擬戦を続けているとさらによく見える様になった。どうやら魔人のボス相手の鍛錬でスキルが数段階程アップしたみたいだ。おかげで恥をかかなくてすんだよ」


 あっさりと言うダン。周囲は見たこともなく、もちろん想像すらできない5Sクラスの魔人と全くの五分の戦いをしたダン。こいつは本物の化け物だと冒険者達はもちろん、軍人もダンをそう言う目で見ている。


「ダンが首領と全くの互角の勝負をしたおかげで模擬戦が終わった時に首領が相互不可侵の約束は守ろうと言ってくれた」


 その言葉を聞いて歓声があがる。これでこれからは人間領に魔人が来ることはなく住民は安心して暮らせる様になる。


「あの首領がトップにいる間は大丈夫だろう。書き物で残してはいないが魔人にしてはなかなかの奴だった」


 ダンがその時を思い出しながら言う。


「となるともう魔人は勝手にこの橋を渡ってこないってことだな」


 軍のナッシュの言葉に頷く2人。


「首領は獣人にも徹底させると言っていたからまず大丈夫だろう。それが証拠に俺達が魔人のボスとの鍛錬を終えてここに帰ってくるまで一度も魔人や獣人と合わなかった」


「模擬戦をして剣と剣を合わせれば相手のことがわかる。あの首領は嘘はつかない」


 デイブに続いて言ったダンの短い言葉に周囲が納得する。


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