第43話
村を背にして北に向かっていくダンとデイブ。二人が予想した通り村からは獣人達が追いかけてくることもなかった。
「もう1つ川があるとはな」
「これで俺たちの目的地がはっきりしたじゃないか」
歩きながらそう言うダンの顔は嬉しそうだ。二人は村を出ると真っ直ぐに北を目指していると土地に起伏が出てきた。丘だったのは小山になり森も増えてくる。ただ獣人とはほとんど出会わない。
そうして歩いていった3日目の昼過ぎ、昼食を済ませた二人が小山を登ってその上に立つと前方に川が流れているのが見えてきた。人間領と獣人領を分けている川に比べると小さいがそれでも結構川幅の広い川だ。その川には倒木で作ったであろう橋が掛かっていた。
視線を川の向こうにやると草原からすぐに森になっていてその先の景色は見ることができない。
小山の上で立ち止まっていた二人は小山を降りて橋を目指して歩いていく。長くは持たないだろうと思うほど古く隙間だらけの床板の上を歩いて橋を渡った二人はとりあえず正面に見えている森を目指して歩いて行く。
森は川に沿って東西に大きく伸びている様だ。自然の塀の様で今渡った川のどこからも先が見えない様に広がっていた。
そして2時間程かけて森を抜けた二人の前には今までとは全く違う景色が広がっていた。
「こりゃまるでモスト大陸だ」
「ああ。それにしても川を越えて森を2時間歩いただけでこれほどにまで景色が変わるのか?」
二人が森の出口から見ているのは一面の荒野だった。森を出て100メートル程は草が生えているがそれから先は土の地面が広がっている。ところどころに大きな岩が転がっていてダンが言った様に二人にとっては見慣れた風景が目の前に広がっていた。起伏のある荒野が広がっていて先が見えない。大きな木はほとんど生えておらず茶色の景色が目の前に広がっていた。後ろを振り返ると緑豊かな森、そして前を向くと荒野だ。
こうなると水の確保が必要になるぞと二人は一旦森を引き返し川の水を大量にアイテムボックスに収納していく。そうしてこの日はそのまま川縁の大木の近くで野営をすることにした。
「どう言う理由で荒野になっているのかはわからないが、いかにも強そうな敵がいそうな雰囲気だよな」
「その通り」
デイブの言葉に短く答えるダン。食事をしながら打ち合わせをする。
「ここからは敵も強くなるだろう。俺が前を歩く。デイブは後ろからきてくれ。万が一空から来たらデイブに任せる」
「わかった。問題ない」
「魔人はランクにもよるが大抵は俺が対処できるだろう。ヘイトは俺が全部取るからサポートしながら適当に倒してくれ」
ダンの話す作戦に全く異論のないデイブ。武器の戦闘能力の差は自分自身が認めている。今まではランクS程度の相手だったんでどっちが対応しても問題なかったが相手がランクSSSクラス以上になると役割を決めた方が戦いやすいと言うのは経験上わかっていた。俺の仕事はダンが戦いやすい環境を作りサポートすることだと理解しているデイブ。
ダンもまたデイブを100%信用しているからこその作戦だ。背中をデイブに任せて自分は正面だけを気にすれば良いというのはそれだけで戦闘に余裕が出る。剣では自分だが魔法については攻撃、回復共にデイブに一日の長がある。お互いの得意なところを全面に出して敵と対峙するのが安全確実だ。
過去からこのやり方でランクSSSは無論、その上のSSSSクラスを倒してきた2人。完璧に出来上がっているコンビネーションの確認をするだけだ。この大陸にやってきて本気モードになることもなく日々を過ごしていた2人は明日からがいよいよ鍛錬だぞと気を引き締めていた。
森の中でしっかりと準備をした2人は翌朝森を抜けて荒野に進み出す。歩きながら左右を見るとジュエノ王国より連なっているだろう西側の山々はここにくるとその高さを増していた。そして進行方向右側、東側にはジュエノ王国や今までに見なかった山々も見えてきた。ただ東側の山はそれほど高くはない。
「東西を山で囲まれているけど、それだけでここまで変わるものなのか?」
左右を見ながら歩いているデイブが後ろから言った。前を歩いているダンも
「東西を山に囲まれて雨が降らないからかな。見たところ川もなさそうだし植物が育つ環境に適してないってことか」
「そうかもな、でもいかにも魔人が好きそうな雰囲気じゃないの。空気が澱んでる様に感じるよ」
「その通りだ」
荒野にでて1日目は魔獣や魔人にも会うことがなく2人は日が暮れる直前に荒野に転がっている岩の陰の場所を見つけてそこで野営をする。
食事をしているデイブと周囲を警戒しているダン。干し肉を口に運び、水を飲んだところでデイブが岩の上にいるダンを見て言った。
「明日あたりから何かありそうな気がする」
「俺もだ。今日は交代でしっかりと休んでおこう」
日が暮れた荒野の岩場の上で警戒をしているダン。周囲には全く生き物の気配がない。空を見るとモスト大陸と同じ様夜空が広がっていた。
「そうだ。久しぶりにオーブを試してみようぜ」
食事を終えたデイブが岩の上に上がってきた。ダンが魔法袋からオーブを取り出す。
「周囲が高い山だから難しいかもしれないがそれでも試してみる価値はあるな」
「だろう?」
取り出したオーブに魔力を注ぎ込むデイブ。しばらくするとオーブがぼんやりと光りだした。
「光ってるぞ」
「この前と同じ程度の光具合だ。これじゃあ会話はできないな」
ぼんやりと光っているオーブを見ながら話をするデイブとダン。
「ただこれでミンが俺達の無事を確認してくれたってことがわかった。今の俺達にはそれだけで十分だ」
その通りだとダンは頷く。2人はまだモスト大陸に帰る方法を見つけていない。いや、その前に強者と鍛錬をするという目的すら達していない。無事であることを伝えておけばそれだけで十分だろう。
ミンは日課の様に朝オーブをテーブルの上に置いて朝食をとっていた。商人のサムの話だとおそらく2人が行った別の大陸はこのモストと半日程時間がずれている可能性が高い。だからこちらの時間の朝が向こうの夜になる。オーブをチェックするのなら特に午前中に注意した方が良いというアドバイスもあり毎朝起きると午前中は目に見える場所にオーブを置いている。
そうして今朝もオーブをそばに置いていると突然淡く光出したのをみて慌ててオーブに魔力を注ぎ込んだミン。光は淡くぼんやりしたままだ。以前一度繋がった時と同じ様な光方だった。
「うーん、まだまだ弱いわね。でも2人はまだ元気でやってるって事がこれで確認できたわ。2人にもこっちからの返事が伝わっていると思うけど。とにかくワッツとレミーとサムには報告しないと」
食事を終えるとミンは店を出てレミーの防具屋に足を向けた。




