第36話
パールのギルドマスターのスティーブは酒場から自分の執務室に戻るとレポートを書き始めた。その内容は赤魔道士と暗黒剣士のジョブ特性についてだ。
酒場でのやりとりを聞いていたままに赤魔道士のジョブ特性である魔法のエンチャント、暗黒剣士のジョブ特性である体力への還元についての詳細なレポートを作成するとすぐに王都のギルドにそれを送った。
レポートの最後にスティーブはこう書いていた。
ー 赤魔道士も暗黒剣士もこの国には存在しないジョブであるがそのジョブ特性は獣人相手には極めて有効な特性だと言える。我が国も今後冒険者のジョブを決める際には従来の魔力測定以外に体力を測定できる方法を考えた方が良い。我々が無いと決めつけているだけでこの大陸にも赤魔道士や暗黒剣士、またはそれに相当するジョブが存在しているかもしれない。 ー
多くの買い出しを済ませた一行は2日後の朝にパールを出て北の要塞を目指すべく進軍を開始した。
途中のケープ要塞で疲れをとった日の夜ノワール・ルージュとAクラスのパーティは部屋で最終の打ち合わせをしていた。テーブルの上に地図を広げ
「ギルマスらから聞いている情報では要塞はこの辺りだ」
プリンスが地図の一点を指差す。そこは川から近くそして向こう岸に渡る橋の近くでもあった。ダンとデイブは王家からもらっている地図と同じ場所を指差しているのでプリンスの言葉に頷いている。
「明日から北上するが途中は草原と森、まぁこの大陸の普通の光景だな。そして要塞の近くには森があってそこから要塞までは約2Km。その間は草原だ。ただし起伏があるらしく、その森の出口から要塞を見ることはできない。なので俺達は起伏のあるところまで進んでそこから要塞の様子を見てノワール・ルージュが要塞の中に入っていったタイミングで要塞に向かいたい。ギルマスの記憶だと起伏を越えて要塞が見える場所から要塞までは歩いて15分程だったってことだ」
プリンスは説明を終えると全員の顔を見渡した。
「私たちはこの起伏に隠れているってことでいいかしら?」
マリアンヌがデイブとダンを見ながら確認する様に言う。
「いいんじゃないか。歩いて15分ってことはせいぜい数百メートルだ。門は恐らくだが東と南と西。最大3つだとみている。起伏の裏に待機していて俺達が要塞の中に入るとここの100名ほどをこの3箇所に分けて門から出てくる雑魚を倒してくれりゃあいい」
デイブが言うと全員が頷き、要塞を囲む時のグループをその場で決めていく。
グループ分けが終わるとマリアンヌが黙ってやりとりを聞いていたダンとデイブに顔を向けて、
「それで要塞を落とした後、川の向こうに行く準備はできてる?」
「大丈夫だ。食糧、水もたっぷりと持っている。もし何か不足したらこの橋を渡って要塞に寄るよ」
「そうね。今回私たちもかなりの食糧や水を持ち込んでいるし、後からくる軍隊や冒険者も持ってくるでしょうから大丈夫よ」
打ち合わせが終わると各自が思い思いに時間を過ごす。ダンは部屋の壁に上半身を寄りかけて座って水を飲んでいた。デイブとマリアンヌが2人で話ながら部屋を出ていくのを見るともなく見ているとプリンスとスージーが近づいてきてダンの左右の腰掛けて話しかけてきた。
「いよいよだな」
ヨイショと腰掛けながらプリンスが話すと、
「本当にノワール・ルージュの2人って全然緊張してないのね、聞いてたけど実際にこうやってみるとびっくりよ」
ダンの左隣にプリンス、右隣にスージーが腰掛けて話しかけてくる。
「要塞にいるのはせいぜいSクラスだろうと見ている。SSクラスでも俺たちに取ったら問題がないレベルだからな」
「それよ、それ。向こうの大陸にいた時ってそれ以上のクラスの敵を倒してたんでしょ?」
プリンスと違ってスージーはノワール・ルージュとはほぼ初対面だ。間接的に聞いていた話であってもそこに当人がいるのだから当人の口から聞きたくなる。
「最後はSSSSクラスまで相手にしてた。1体を2人で相手にしてたけどね、このクラスがリンクした時の戦闘は未経験だよ。でもそれ以外はリンクにも対応してたな」
聞かれたダンはスージーを見て答える。
「俺にも聞かせてくれよ」
ダンが答えていると声がしてジョンが近づいてきてダンの前に座った。プリンスとジョンとスージーに囲まれる様に座るダン。
「ケープでの2人の模擬戦を見てたけどよ、俺には途中から剣の動きが見えなくなってった。あれを見てこいつらは別格中の別格だと思ったんだよ」
ジョンがその時の様子を思い出しながら言う。
「俺もデイブも最初から強かった訳じゃない。どこにでもいる普通の冒険者だったさ」
ダンの言葉にびっくりする3人。
「ただ俺もデイブも冒険者になってパーティを組む前から強くなりたいと思って日々鍛錬してた。パーティを組んだのはCランクの時だ。それからは2人で毎日鍛錬と金策をして腕を磨きながら装備を充実させていったんだ」
「具体的にどういう活動をしてたの?」
「朝起きると2人で市内をランニング。それから宿の庭で素振りと魔力操作。それが終わると朝食をとってからギルドに顔を出してた」
「毎日?」
「ああ毎日だ。こっちに来ても宿に泊まってる日は毎日やってる。そして活動だけど俺達は3勤1休のローテーションを組んでた。3日活動して1日は完全休養日。この日は朝の鍛錬は個人個人でやるってことでデイブと一緒にはしなかった。完全休養日は完全プライベートにしようってことでお互い好きなことをしてたのさ。丸1日デイブと顔を合わさないのはしょっちゅうだったよ」
ダンの話を真剣に聞いている3人。彼らはノワール・ルージュが突き抜けた才能を持っているもの同士がパーティを組んだものと思い込んでいたので今のダンの話を聞いて驚愕する。
「3勤1休はわかった。それで活動している3日はどういうことをしてたんだ?」
聞いてきたジョンを正面から見てダンが言う。
「基本は1日はフィールドで金策やクエスト、2日はダンジョンってのが多かったかな。もちろん2日フィールド、1日ダンジョンってのもあった。休暇明けはフィールドに出て体を動かしながら地上の魔獣を倒しながらクエストをして、翌日からダンジョンに挑戦するって流れだよ」
聞かれると普通に答えていくダン。
「それでダンジョンはどうやって攻略してたんだい?」
ジョンが身を乗り出して聞いてきた。
「当然だけどダンジョンは下に降りると敵が強くなっていく」
ダンの言葉に頷く3人。
「自分のクラスより上のクラスの敵がいるフロアに来た時は俺達はダンジョンの攻略をストップした」
「「ストップした?」」
3人がびっくりして言い、続けてどう言う意味だと聞いてくる。
「そのフロアの攻略を目指さずに、上のフロアから降りてくる階段をキャンプにしてそこの近くにポップする格上の敵を倒しまくったんだよ。あいつらは時間ポップで湧いてくるし毎回同じジョブじゃない。俺とデイブはいろんな敵と対戦し、そしてこちらもいろんな戦法を試して、どのジョブが出てきても100%対処できるという自信がついて初めてそのフロアの攻略を開始してた。だから同じフロアで1ヶ月とか2ヶ月とか普通に留まって鍛錬してたんだ」
前の大陸の冒険者もそうだったがここでも今の話を聞いていた3人は皆びっくりしてダンを見る。
「なるほど。そうやって力をつけてフロアを攻略してそして下に降りたらまた同じ様に鍛錬をしていたということか」
大きく頷くダン。
「プリンスの言った通りだ。俺とデイブに取ってはダンジョンは鍛錬の場だった。もちろん最終的にはボスを倒してダンジョンクリアを目指していたさ。でもそれは一番上にある目標じゃなかった。一番の目標は格上と数多く戦闘して自分達が強くなることだった」
「そうやってダンジョンで格上と戦闘しまくってきたから今のノワール・ルージュの強さがあるのか」
感心した表情でジョンが言うとそうかもなというダン。
「格上が相手となると一瞬も気が抜けないわね」
ダンはスージーを見て
「だから鍛錬になるんだよ。弱い奴をいくら倒しても自己満足だけで強くはなれない。スージーが言った通り格上のとの戦闘は全く気が抜けない。そんな中で戦闘を繰り返していると剣のスキルはあがり体の使い方を覚える、そして敵の動きをある程度予測できる様になる。それを続けていくと知らない間に自分のものになっているんだ」
「だから王都で宰相に化けている魔神の気配にも気づいたし、宰相が魔人になったときも全く慌てなかったんだな」
ダンがその通りだと頷くとプリンスはその時の様子を思い出しながら言った。
「俺達は前の大陸ではあの時の魔人よりもランクが2つ3つ上の敵と何度も戦闘をしてきていた。奴が魔人になる前からあいつは大したことがないってわかってたからな」
この日のダンの話はその後Aクラスのパーティが各都市に戻ってから実践をはじめ、それがやがてこの大陸の冒険者のスキル上げのスタンダートになっていった。




