第31話
翌朝、ホライゾンらに見送られてノワール・ルージュとボルケーノの7人は要塞を出るとそのまま草原を北を目指して歩き始めた。
爽やかな風が草原の草木をほのかに揺らせる中のんびりと歩いていく7人。例によってノワール・ルージュが前を歩き、その約100メートル程後ろをボルケーノが続いていく。
草原を歩き、森の中を通って北を目指していく7人。途中でBクラスの獣人を見ると歩みを止めずにデイブが遠距離から精霊魔法を撃って倒しては進んでいく。
「歩きながら無詠唱の精霊魔法、あの距離であの威力」
背後を歩くボルケーノの精霊士のクラウドが呟くと、
「デイブじゃなくてダンもかなりの威力の魔法を撃つしね。2人とも剣も魔法も桁違いよね」
僧侶のジャスミンが続けて言った。歩きながらやりとりを聞いているマリアンヌは少しでもあのレベルに近づきたいと思っている。いやマリアンヌだけじゃなくボルケーノの全員がそう思っていた。
デイブとダンにダメ出しをくらいながらも続けている鍛錬で最近は自分達でも以前より強くなったと実感しているメンバー。この調子で続けていけばさらに高みに登れるという感覚が鍛錬のモチベーションになっていた。
「この先にBクラスが3体いる。ボルケーノで倒してみるかい?」
前方で立ち止まっていた2人に近づくとデイブが言った。すぐにマリアンヌが言う。
「やらせて頂戴」
「3体でも同じだ。ボルケーノなら出来る。普段の力を出せばいいんだ」
デイブが5人の背中を押すと彼らと入れ替わりにボルケーノが前に出た。すぐに3体の獣人が彼らを見つけて唸り声を上げて向かってくる。
ジャンが前に立って彼らのヘイトをしっかりと取り、少し離れてジャスミンがジャンのフォローに回る。そうしてマリアンヌとブルーの2人で1体を相手に戦闘を開始した。精霊士のクラウドは自分の魔法のヘイトを考えながら精霊魔法を撃ち、1体を倒すと次に、そうして短い時間で3体を危なげなく倒し切った。
「見事だよ、個人個人も強くなっているしパーティとしても無駄のない動きだった」
「以前なら3体と聞いたら不安になっていたのに全くそれがなかったわ」
デイブの言葉にマリアンヌが言った。
「そりゃそうだろう。皆強くなってるんだから。Aクラスも問題なく倒せるレベルになってるよ」
魔石を取り出して再び草原を歩きながらデイブとダンに褒められたメンバーの表情は皆明るい。
野営を繰り返して北に向かって行った4日後の夕刻、森の出口付近でノワール・ルージュが足を止めた。後から追いついたボルケーノのメンバーにも森の先に伸びている草原の中にある獣人の拠点が見えている。
「村の規模は東のと同じくらいかな」
「そうだな」
木々の間から拠点を見ながら話をするデイブとダン。
「もうすぐ日が暮れるけどどうするの?」
「暗くなると逃げた奴を見つけにくい。今日は森で野営して明日の朝に突撃するか」
デイブがダンを見ていうとそれがいいだろうとダン。一行は森の中に少し戻ると比較的安全な場所を見つけてそこに野営することにする。
「森を出たところから拠点までは500メートル程か。ボルケーノは森の出口で待機しておいてくれるかな。火が出たら森を出て村に来てくれ」
デイブの言葉に頷くボルケーノのメンバー。野営をしながら森の出口、獣人の拠点を見ると火を焚いているのか村の中の所々が明るくなっている。
「最後の晩餐だ。せいぜい楽しんでおけ」
大木に凭れていたダンが顔を敵の拠点に向けて言ったその迫力にびっくりするボルケーノの5人。戦闘中でもないのにそのオーラが半端ない。しかも普通なら敵に攻撃をかける前日の夜となれば大抵は緊張し、何度も武器の確認をしたり仲間と作戦の打ち合わせをするがノワール・ルージュの2人は普段と全く変わりない。リラックスして木の幹に持たれて雑談をしているデイブとダン。
この2人は緊張することがないのだろうか。マリアンヌが自分が今思ったことを聞いてみると、
「緊張はしたことがないな。普段からやるべきことをしっかりとやっておけば後は楽しむ様にしているんだよ」
デイブが言った。ダンは?と聞かれたダン。
「死ぬときは死ぬ。だったらできるだけ死なない様に鍛錬をする。鍛錬をやりきったら後は楽しむ。デイブと同じで緊張はしないな」
2人の言葉でノワール・ルージュが前の大陸、そしてこの大陸に来てからも絶え間なく厳しい鍛錬を行ってきているのだと理解するマリアンヌ。
「自分に自信がないと緊張する。緊張すると自分が持っている以上の力は出せない。なら緊張しない為にはもうやることがないというまで自分を追い込んで鍛錬すればいい。そうすると緊張しなくなる。やり残していることがあるから緊張するんだ」
再びダンが言った。
「つまり2人はそこまで鍛錬をしてきたってことなのね」
「そう言うこと。向こうの大陸でも2クラス上の魔獣を相手に鍛錬をしていた。常に2クラス上の相手と鍛錬をしていたら最後には周りに2クラス上がいなくなっちまった。だからこの大陸にやってきたんだよ。死ぬ気で鍛錬するってのはそういうことだと俺もダンも考えている」
あっさりと言うデイブだが聞いているボルケーノの連中は声がでない。この2人は冒険者になったときからその哲学で生きてきたのだ。酒や女や博打に溺れることなく自分を強くするというその目的のために一直線に進んできたからこそ今のこの規格外の戦闘能力になっているのだと実感する。
「俺達はそうやってきて結果的に強くなったがこのやり方を周囲に勧めている訳じゃない。冒険者になった後のゴール地点は皆それぞれバラバラだろうしな。そこは押し付けるべきじゃないと思っているんだ」
「でも強くなりたいと思ったらノワール・ルージュのやり方を勧める訳?」
デイブの言葉に質問するマリアンヌ。デイブは頷くと、
「そうなるね。格上との戦闘は必須だよ。同格や格下とのぬるい戦闘を何百回とやっても強くならない、それよりも格上と数十回する方がずっと強くなる。俺達はそう信じている」




