第21話
ラエの要塞での準備が整った日の朝、ノワール・ルージュとボルケーノの合計7名は要塞を後にすると北を目指して草原を歩き出した。
ノワール・ルージュの後ろ100メートル程をボルケーノの5人が歩いていく。しばらく歩くと森が見えてきた。無造作に中に入っていく二人。
「この森の先の広場で100体程の魔獣を倒したのが俺達のこの大陸での最初の戦闘だったか」
森を歩きながらデイブが言う。ダンは左右の気配を探りながら
「数だけは多かったよな。俺は敵よりも緑の多さに驚いたよ」
そんな話をしながら森の中を歩いていく二人。普通に散歩している様に見えるが二人とも周囲の気配を探りながら進んでいる。それがあまりに自然にできているので散歩している様に見えるだけだ。
「この森から二人が出てきたときはびっくりしたわ」
「ああ。そして100体倒してきたとあっさり言われた時はさらにびっくりしたよな」
ノワール・ルージュの後から森に入ったボルケーノ。マリアンヌが言うとその後をジャンが続けた。
「ホワイトタイガーの僧侶のシンディから聞いたけどあの二人、宰相に化けていた魔人が乗っていた馬車が近づいてきたらすぐに気がついて戦闘モードに入ってそして宰相が魔人になって皆恐怖に慄いている中、平然としてたらしいわ」
僧侶のジャスミンの言葉に続けて精霊士のクラウドが続けた
「それでダンがあっという間に魔人の手を切り落としてお前は弱いって言って最後は首を刎ねたらしいじゃないか、桁違いの強さだな」
「彼らの強さは知っていたつもりだったが想像以上だよ」
ジャンの言葉に歩きながら頷く他のメンバー。マリアンヌは背後で交わされる会話を聞きながら全く彼らの言う通りだと思っていた。プリンスも言っていたが自分だって同じだ。その場にいて魔人を前にすると立ちすくんでしまって何もできないだろう。そんな中で気配を感知し相手が魔人でも全く怯む事なく目にも止まらない速さで剣を繰り出してその両手を切り落とすダン。しかもお前は弱いなと言える程の実力の持ち主。噂では王城の中で防衛大臣に化けていた魔人と対峙した時はデイブが無詠唱で強力な魔法をぶつけたらしい。別格どころの騒ぎじゃない、桁違いにあの二人は強い。
そう、私たちがいるこの大陸の冒険者とは桁が違う強さだ。自分も向こうの大陸に行けば強くなれるのだろうか。今よりももっと強くなりたい。マリアンヌは前を歩いている二人の背中を見ながらそう思っていた。
突然前を歩いている二人が走り出した。それをみたボルケーノのメンバーも後を追って森の中を駆けていく。
そうしてボルケーノのメンバーが森を抜けたところで見たのは地面に倒れている30体ほどの魔獣だった。
「俺達が来るまでのあの短時間で30体を倒したってのかよ?」
ジャンの声に応えるものはいない。皆地面に倒れ込んでいる魔獣を見ていた。そうして顔を上げるとノワール・ルージュの二人は魔獣の死体の群れを抜けて草原を歩き出している。慌てて後を追い始めるボルケーノ。
倒れている魔獣の死体を見るとほとんどが首と胴体が綺麗に切断されている。魔法で焼かれているのも数体あるが、倒れている位置から見ると集団に突撃する前に遠隔からの魔法で倒したのだろう。全てBクラスの魔獣の様だ。
「全て一振りだぜ、これ」
「ああ。見事に首をはね飛ばされている死体ばかりだ」
ブルーとジャンのやりとりを聞いていたマリアンヌ。
「2人とも二刀流。4本の剣であっという間に倒したんでしょうね。Bクラスなら彼ら2人からしたらいないのも同じということなのね」
草原を歩き、いくつか小さな森を抜けたその日の夕刻、一行は草原の中にある岩場を野営場所と決めてそこで腰を落ち着けた。ノワール・ルージュとボルケーノが一緒だ。
「感覚的にはラエの要塞から北に1週間程で川にぶつかると見てるんだが」
持参している食事を口に運びながらデイブがボルケーノのメンバーを見て聞いてきた。ボルケーノのブルーとクラウドの二人は今は見張り役で岩場の影から周囲を警戒している。警戒しているが食事をとっているメンバーの声は聞いていた。
「おおむねその理解で合ってると思う。途中でどれだけ戦闘があるかにもよるが、ノワール・ルージュの二人なら移動速度が落ちることもないだろうしな」
同じ様に食事をしているジャンが答え、続けて聞いた。
「川にぶつかるまでに獣人達の村というか拠点はあると思うか?」
「ある」
デイブは短く応えると、
「昼間倒した30体、そしてそれ以前にも俺達は獣人の集団を倒している。奴らが毎回渡河してやってきてるとは思えない。どこかに拠点があるはずだ。そしてそこにはおそらく低く見積もっても300から500体の獣人がいるだろう。Aクラスはいるしひょっとしたらその上のクラスもいるかもしれない」
「ダンもそう思ってるの?」
「ああ。デイブとは歩きながら話をしてそういう話になった。ただ魔人はいないだろうとも見ている。前線に送り出されているのは雑魚の獣人だろう。せいぜいAクラスだろうな。指揮官クラスでAの上がいるかもしれないが。そしてその様な奴らの拠点は川のこちら側から今の国境線の間に複数あるだろうというのが俺達の結論だ」
マリアンヌの言葉に応えるダン。話ながらも食事の手を止めない。この先に500体がいてその中にAクラスが複数いると見ているにも関わらず全く緊張感が見られない。
これは隣に座っているデイブも同じだ。二人ともこの先にいる敵は眼中にないというのが彼らの態度から見て取れる。
「拠点を見つけたらボルケーノは戦闘に巻き込まれない様にしてくれ」
「わかったわ」
他のメンバーは見張りをしている二人も含めてこのやりとりを黙って聞いていた。これから向かう場所に複数の拠点があり一拠点で300から500、下手したらそれ以上の獣人が固まっているというのに平然としているノワール・ルージュの二人。
「わかっちゃいたけどさ、300だ500だという数がいるのを分かっていてもよくまぁそこまで平然としてられるもんだぜ」
ジャンが呆れた口調で言う。デイブはその言葉に口元を緩め、
「慣れたらどうってことはない。それに俺達は2人だ。300体ってたって俺達2人の周辺にはせいぜい10体ほどしか近づけない。近づいてくる奴らから順に倒していくだけさ」
「魔力、体力が無尽蔵にあるノワール・ルージュだから言える発言ね」
「前の大陸で俺達が挑戦した最後の山は朝から晩まで絶え間なくランクSやSSクラスが複数体で襲ってきた。休憩する間なんてほとんどなかった。8時間以上ぶっ通しで相手をしてたんだ。普通の前衛や後衛ジョブなら体力は持たず、魔力は枯渇してしまうだろう。ただ幸に俺達はジョブが特殊だ。ダンは敵を倒す度に体力が回復する。俺は魔力が自動で体内に供給される。マリアンヌが言う様に俺達だからこその発言かもしれないな」
「それに雑魚はいくらいても雑魚だよ。動きは遅いし攻撃の威力もない。ここで躓いている様じゃ川の向こうには行けないよ」
デイブに続いてダンが言った。




