第十四髪 馴染み深い 風呂場の景色 いい湯だな
その後、書庫のあちこちを調べ、役に立ちそうな資料や、いくつかの符なども手に入れた慎太郎であったが、慣れない環境とスケジュールで疲れ果て、夕食の後、風呂に入りリラックスすることとなった。
例によって侍従長のミレットに先導され、慎太郎が向かったのは大神殿二階の南東の一角を占める大浴場であった。
そこは、普段は神殿に住む者などのごく一部の者だけが利用する場所であり、一般に開放されるのは専ら特別な日に限られるのだそうだ。
「こちらでございます」
「おお、これは実に……、和風だな」
軽く頭を下げ、去っていくミレットを見送りながら、改めて目の前に広がる光景に目をみはる。
入ってすぐにあるのは鏡のある洗面台、その奥には脱衣所らしき木製のロッカーが立ち並んでいる。
また、この世界の素材「溶けない氷」で作られた棚には、いくつもの淡い色をした液体が瓶詰めされ置かれている。
試しに触ってみると、良く冷えていて、しかもうっすらと果実と乳製品の混ざったような甘い匂いが立ち上ってくる。
――フルーツ牛乳だろうか。
風呂上がりの楽しみが出来気分が良くなった慎太郎は、鼻歌を歌いながらロッカーの前で服を脱ぎ、眼鏡を外す。
そして、湯煙立ち込める浴場へ足を踏み入れる。
と、
「うわっ」
入ってすぐに、巨大な壁のようなものに弾かれる。
目を凝らしてよく見ると、それは慎太郎より一回りは大きい、壁のような背中であった。
いくつもの刀傷や、裂傷の痕が見られるそれは完全なまでに鍛え抜かれ、それぞれの筋肉がこれ以上ないほど美しく盛り上がっている。
それは、ただのトレーニングでは手に入らない、自らの人生で創り上げた造形美そのものであった。
「おお、大神官様ではないですか」
「君は……」
振り向いた顔には覚えがあった。
兵士長ルビン。この国の兵隊を取り仕切る男だ。
慎太郎が初日の宴で挨拶を交わした者の一人であり、二メートルはある巨体の全身を金属の防具に包みながらも、よどみなく身体を動かしている姿が特に印象的であった。
眼鏡が無く勝手がわからない慎太郎に気づいたのか、さあさあこちらですぞ、と手を優しく引いて先導する。
壁の高いところから打たせ湯のように勢いよく水が噴き出ているところで掛け湯代わりに身を清め、そのまま中央にある大風呂へと進んでいく。
湯に浸かると、ほどよい熱さで心地よい。
「ああ、いいな……、実に気持ちがいい」
ちりちりとした感覚が皮膚を刺激し、それが消えるとともに疲労が消えていくような爽快さに、慎太郎は夢うつつの表情になる。
それを見たルビンは、嬉しそうに口を開く。
「ちなみにここの風呂は大神殿地下深くから汲み上げた水でしてね、怪我や傷の治りを早くし、失われた活力を取り戻す効能があると言われておりますぞ」
「なんと……!」
慎太郎は思わず両手で水をすくう。
透明なそれを試しに頭部へと打ち付けると、あちらの世界で使っていた、例の育毛効果があるという薬剤「下北沢スペシャル」を塗布した時のようなムズムズ感がある。
効果は期待出来そうだ。




