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花の巫女姫  作者: 七海 夕梨
巫女姫はゲームだと信じたい
3/24

 二片:大輔様、ここは何処ですか?

「え・・・ここどこ?」


 あたりは真っ暗だ。


 てっきり町や森といったフィールドを想像していた花梨は一瞬戸惑ったが、プロではなく学生が作ったゲームフィールドだ。テスト段階ならこんなもんだろうと思い直した。


「大輔、聞こえてる?」

《聞こえてるよ》


 大輔の声が耳元に届くと、花梨はほっと溜息をついた。大輔との通信は声を出すだけで

良いようだ。


「ここって何処なの?」

《ちょっとしたトレーニングルームだよ。そろそろ敵が出てくるから適当に倒しておいて。レベル99になったら呼んでよ。それまで俺は君に頼まれた事をやっておく》 


(え? 倒すってどうやって? データーだってとるんでしょ?)


「武器の使い方ぐらい教えてよ!」

《あ~、柄に念じれば出てくるよ。適当になんか言ってみて 》



 そんな適当でいいのかと抗議したかったが、古典対策で忙しいのかもと、花梨は気持ちを抑え込んだ。


「わかった。適当に言うからね。いでよ! カタナさぁ~ん!」


 花梨の稚拙な掛け声に、ぐおんっと音がなると、柄から光の刀身が出現した。【花梨の巫女姫】という設定からか、刀身から桃色の花弁がキラキラと舞い散っている。


「おお、かっこいい!!」

《かっこ悪い。なに? その名前 》

「え? だって刀だから」

《……刀に失礼すぎる 》

「む、じゃあ大輔なら、どんな名前をつけるの?」

《『蛍光刀(けいこうとう)』かな 》

「ぷぅ~~っ。なにその変な名前」

《……。次からそう呼ばないと使えないようにした 》

「はぁぁぁぁ??!」


 たしかに花梨の持つ刀の柄は、日本刀の柄に似ている為、漢字の名前がふさわしいだろう。だからって、蛍光灯はないと花梨は思う。


 ちなみに「蛍光()」は花梨の脳内で「蛍光()」に変換されているのだが、大輔は気が付いていない。


(まぁ、見てるのは大輔だけだしいいけどさ)


「で、この……蛍光灯? の操作方法は?」

《敵がきたら、ぶった切る。それだけだよ。大丈夫、最初は敵もゆっくり動くから 》


 (聞いても結局、適当だった!)


 花梨は馬鹿らしくなり追求を諦めた。大輔は頭はいいが、だからか一般人への説明が下手なのかもしれない。


「とりあえず、目の前の敵をぶった切ればいいのね」

《そうだよ。じゃ、頑張って 》


 ブツリと通信が切れる音がすると、しんと辺りが鎮まった。


(軽く言ってくれちゃって。そういえば敵ってどんなのかな? 悪い獣がどうとかって言ってたけど。怖いやつじゃないよね?)


 獣といっても多種多様なため、花梨は不安になった。おまけに視界も暗く戦いには不利な場だ。頼りになるのは蛍光刀の光だけ──それも花梨の半径2-3メートルがぼんやりと見えるといった程度のものだ。


(うぅ、VRで死ぬのは嫌だな。まさか死んだら1からやり直しってことはないよね? セーブはどうなってるのかし──)


≪レベル1≫


 大輔の声とは違う、電子声が戦いの始まりを告げる。


(え?? もう始めるの? まだ心の準備がっ)


 待ったをかける間もなく、黒い物体が花梨の眼前に飛び掛かってきた。


「うわっ」


 花梨は咄嗟に横に避けたものの、黒いなにかの動きは早い。大輔はゆっくりだと言っていたが、そうは思えないほどの俊敏さだ。


「レベル1でこれなの? なにこれ! なんか黒い(もや)というか犬? これを切るの?」


 大声で大輔に聞くも、反応が返ってこない。まさかレベル99になるまで返事をする気はないのかと花梨は不安になる。


 黒い獣は形状こそ犬、または狼に似ているが、輪郭がはっきりとしていない。体毛など炎のように揺らめいている。だが普通の炎のように周りを明るくもない。唯一確認できるといったら、赤く光る瞳ぐらいだ。


「うわー、なんか怖いし、戦いたくない。ねぇ獣さん、話し合いましょ? 儚げな少女を虐めたっていい事なんかないわ」


 花梨はテイムを試しみたが無駄だった。むしろ唸られ、今にも噛みついて来そうだ。


(えぇ~やっぱり戦うの? でも古典がっ、兄さんが)


 花梨は般若顔の兄を思い出すと、ふっと息を吐き心を鎮めた。


(しっかりしてあたし。あの獣より兄さんのほうが一億倍怖いでしょ!! やるしかない)


 花梨は黒い獣に向かって走り出すと、大きく蛍光刀を振りかざした。光に弱い生き物なのか、花梨の刀の光に俊敏な獣の動きがやや鈍る。反射神経の良い花梨はそこを見逃さなかった。


「えい!!」


 スパっと獣を真っ二つに切った途端、獣の身体が桃色の花弁へと変化し、弾けるように消え去った。血や内臓が飛ぶといった事がないので花梨は安心したものの、戦いはここで終わりではない。相手はまだレベル1なのだ。


(こ、怖かった)


 花梨はめまいを起こしそうになったが、嘆いている暇はない。


≪レベル2≫


 電子声が容赦なく次の戦いを告げてくる。


(こうなったら、切って切ってきりまくってやるわ!!!!)





■■■■■■■■■■




 あれから何時間たったか。黒獣は、複数で出現したり、今回は単体かと安心したら、動きがやたら俊敏だったりなど、あの手この手で動きを変えては花梨を襲い続けてきた。


 が。



≪レベル99。カンスト、おめでとうございます≫


「よっしゃぁぁぁぁ!!!」


 レベル99を告げる電子声に花梨は歓喜の声をあげた。体はへとへとだが試験までは後7日もある。少し休んだら、大輔にみっちり教えてもらおう、そう思ったら急に体の力がどんどんと抜けて、バタリとその場に寝転んでしまった。


(疲れた・・・ちょっとだけ寝よう、か・な)


 睡魔に勝てず、花梨の意識はそこで途絶える予定であったが


「うぎゃーーー冷たーーーーっ」


 あまりの冷たさに睡魔は一瞬にして消え、花梨は飛び起きた──と同時にまぶしさで目が眩み、寒さでぶるりと体が震えた。


(寒っ!! なんか地面も冷たいしどうなってるの?)


 不思議に思い地面を見た花梨は、白いものを見て固まった。


「雪? な、なんで」


 周囲を見渡すと、いつの間にか暗闇は山林へと変わっていた。針葉樹林の枝には雪が積もり、曇天の空から落ちる粉雪は、吹雪までは至らないものの、このままだと寒さで凍え死ぬだろう


──現実なら、だが。


(もしかしてフィールドに移動した?? それとも何かのバグで大輔のゲームデーターに入り込んでしまったの?)



「大輔~~~!! 大輔ってば! レベル99になったんだけど聞こえてる? 寒いしそろそろここから出たいんだけど」



 何度呼んでも返事がない。まさか寝てしまったのかと花梨は焦った。しかし、しっかりした大輔がそんな事をするとは思えない。


(となると、これは夢オチ?)


 とっさに花梨は自分の頬をつねると、あまりの痛さに目から涙がこぼれ落ちた。


「夢じゃないならここは何処なの? ゲーム世界にしてはリアルすぎない?」


 ここまでしっかりとした背景をVRで表現するには相当のお金と時間がかかるはずだ。学生の大輔では無理なはず。しかも先ほどから顔に張り付く雪の冷たさや、冷えによる手足の痺れまで感じる。花梨の不安はますます加速しだした。


(あはは・・まさか異世界転移したとでも?)

 

 だが右手に輝く刀の光を見ると、花梨の焦りは次第に収まった。蛍光刀は()()()()()()でレーザーソードになるアイテムだ。つまり異世界で具現化するはずがない。


(やっぱりここはゲーム世界だよね)


 なら、寒いので上着やズボンが欲しいと考えても意味がない。この感覚はゲームが感じさせる幻覚なのだから──と思いなおしたのだが。

 

キュルルルル~。


「う……おなかすいた」


中の人の生理的現象はどうしようもないらしい。空腹に耐えれず、花梨は大輔の名を何度も呼んだ。だが反応は返ってこない。


 こんな時はNPCに聞けば! と花梨は周囲を見渡したが、山中だからか誰もおらず山小屋すらない。


 やけになった花梨は「ログアウト」と声にだしてみたり、手をふったりしてウィンドウが出ないか確かめたがなにも起こらなかった。最終的にVR機器を外す素振りまでしたが無駄だった。


(もしかするとセーブしないとログアウトできないのかな?)


 オートセーブでないのなら、セーブポイントを探さなくてはならない。一般的には町の宿屋か教会といった場所だろうが、ここは山の中だ。それらしき物は影形もない。


「誰か~~!! いないの?」


 花梨が大声で叫ぶと、背後からパキリと枝が折れる音がなった──と、同時に全身に緊張が走る。長時間の戦闘のせいか、振り向かずとも花梨は理解していた。


 黒獣だ。



「ちょっと・・嘘でしょ?」


 花梨が振り向くと案の定、複数の黒獣が襲いかかってきた。複数の獣が、束のように襲ってきたが、ひらりひらりと花びらのように花梨はよけていった。長時間の戦闘練習のせいか、動きは洗練され無駄がない。


「ふっふふふ。はーははははっ!」



 花梨は空腹によるやけくそもあってか、やたらとハイテンションになっていた。花梨が作り出す剣に黒獣が切られる度、花びらが舞い散っていく。その様は花の戦乙女のように美しかったが、不敵な笑いで全部台無しになっていた。


(あれ……なんかちょっと楽しいかも。チートってこういうのを言うのね)


 と、呑気な事を考えていたからだろう。花梨は気が付いていなかった。


 奇怪に笑う花梨を、一人の男が見ていたことに。



 


 



 



 




 

















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