十片:紫瞳の幼子
「わわわわっ!! どうやってでてきたの? さっきまでいなかったよね?」
「うふふ~びっくりした? 私は宮の中を自由に移動できるの。改造や調度品の移動だって自由にできちゃうんだから。どう? すごい? すごい?」
驚く花梨を見て、嬉しそうに幼女がほほ笑む。
「うんうん、びっくりしたし、すごい!」
「えへへ~そういわれると嬉しい。ねぇ、あなたの花紋をみせてくれる?」
「え? いいけど」
この子も巫女姫なのだろうか……と花梨は右手を差し出す。幼女は花梨の花冠を見ると、目を見開き瞳を潤わせた。夏行と同じ喜ぶというより、どこか悲し気だ。
「そんな……ことって」
深刻そうに呟く幼女に、花梨の不安がどんどんと募る。
「花梨はだめなの?」
(花の選択をミスったかなぁ)
「そんなことは……素敵な絵柄よ」
(絵柄? 花の種類じゃなくて?)
「本当に? 実は菖蒲がいいとかない?」
「菖蒲? 夏行ちゃんったらそんな事を言ったの? 本当に菖蒲ちゃんが好きなのね」
(あのおじさんを『ちゃん』呼ばわり……)
さすがに怒られるのでは……と花梨は思ったが、どういうわけか夏行は怒らず、気まずそうするだけだ。あの女嫌いの想春まで、黙ったままおとなしい。となると考えられるのは一つ。幼女が高位の身分である、ということだ。
(もしかしてこの国のお姫様なのかな?)
「ねぇ、お姉さん。お願いがあるんけど~、ぎゅっとしてもいい?」
「へ?」
唐突な要望に花梨は驚愕したまま、幼女独特の圧に押され、首を縦に振った。とたん「わぁ~ありがと」と、幼女が抱き着いてきた。
「わぁ~い」
愛しそうに花梨の腹部に幼女が顔をくっつけてくる。まるで母親に甘える幼子のようだ。やや高めの体温、華奢で狭い肩幅、細くて柔らかい髪──幼女の再現度、凄すぎでは? と、大輔に一部の不安を抱えつつ、花梨は甘える幼女をただ見下ろした。
「えへへ~いい匂い~。あなたいい子ね」
「におい?」
そうだろうか? と花梨は首を傾げる。花梨はゲームを始めてから風呂に入っていない。せいぜい井戸水で顔を洗った程度だ。ゆえに香しい状況とは言い難い。だが匂いより今は──花梨はチラリと夏行と想春を見た。幼女相手に何をしてるのか? といった視線が辛い。
「あの……そろそろ」
「あっ、ごめんなさい。ねぇ、突然だけど、私の顔を見てどう思う?」
幼女がぴょいっと花梨から離れると、ニコニコと笑って花梨を見る。
「どうって……(こんどはなに?)」
抱き着かれたり顔がどうかと聞かれたり、幼女の目的が理解できない。
「かわいいよ」
「……。えへへ~ありがとう」
(なんか間があったような)
「それじゃあ、お喋りはここまでにして。そろそろ切り替えなきゃね」
幼女の瞳がすっと大人びたものへと変化した。取り巻く空気まで一変し、夏行と想春の顔に緊張が灯る。まるで上司と部下のようだ。
「じゃ、報告を聞かせてもらおうかしら。まずは想春ちゃんから」
「はい。西山の黒獣はあらかた鎮圧いたしました。ただ、花守だけでは完全な浄化は難しく……」
『ちゃん』呼ばわりに文句も言わず、想春が淡々と答える。
「わかったわ。浄化は百合ちゃんに行ってもらうかしらね。で、夏行ちゃんは?」
「予言の巫女と思われし女性を連れてまいりました。かの者には花冠の花紋があり、予言の場所で黒獣を浄化しておりました。見習い達が言うには、夜叉の気配はないとの事でしたが……」
ちらりと夏行が花梨を見ると、え? あたし? といった視線を花梨が返す。
「たしかに夜叉の気配を感じないわね。同意があったとはいえ、豹ちゃんもおとなしかったし」
「では、この者が?」
夏行の問いに、幼女が「わからないわ」といい首を振る。
「花紋と魂の色が違うもの。極めつけは匂いね。強力で素敵な匂いだけど……人の匂いもする。確実な方法はあるけれど私でやるのは危険だわ。下手すると城が消し飛ぶもの」
(消し飛ぶ……)
ごくりと花梨は唾をのむ。この幼女、やはり、ただ者ではないらしい。
「では、なぜ夜叉の気配が? 花仕に託し気配を消す夜叉もおりますが、婆様にまで隠す事は不可能なはず」
「そうね。でも希少だけど完全に気配を消せる子がいるのよね……あ!! この事は秋受ちゃんには秘密よ? また問題行動しちゃうから」
幼女が『秘密』とばかりに、ひとさし指を口元にあてる。
「お、おじさん。この子って何者なの?」
(もしかして【あの方】なのかな?)
夏行だけでなく、女嫌いの想春まで、敬語で話していたのだ。おまけに幼子に黒獣の討伐状況を報告する事と言い、だたのお姫様ではないはず。
「この子ではないっ。お前の先達にあたるのだぞ」
「え?」
夏行に言われ、花梨はさらに驚く。
(そういえばおじさんが婆様って言ってたけど……え? まさかこの子が?)
「いいのよ夏行ちゃん。紹介が遅くなってごめんなさい。私は白縫桔梗。一応、神女院の管理者であり巫女長をしてるわ。年齢が年齢なので今は巫女姫ではないけれどね。気軽に婆様か、桔梗ちゃ~んって呼んでね」
「はぁ」
言われて幼女を上から下へと見たが、どうみても、お婆さんには見えない。背丈からも五つか六つといったところだ。白地に桔梗の刺繍を施した十二単を纏う姿は可憐で愛らしく、老いどころか若さに溢れている。てっきり白髪の神経質な御婆さんだと思っていた花梨は、茫然としてしまった。それは見た目の年齢だけではない。幼女が動く度、ぷるんと動く胸元のせいだ。
(幼女に必要なくない? こんなキャラ作るなんて、大輔ったらロリ巨乳が好みってこと?)
思わず花梨は薄い己の胸に手を当てる──が、現実は厳しい。盛ってもBカップがいいところの花梨は、脳内で大輔の変態! と罵った。
「どうしたの? 緊張してるのかしら?」
「いえ……幼い子に婆様は失礼かな~って」
「でも本当におばあさんなのよ。だって800歳だものぉ~。えへへ~」
(800歳ぃぃぃ──!!! でも、ゲームならありえるか)
「そうなんですね」
「え~~! 意外と反応薄いわね。つまんないの~」
「まぁ(ゲームだし)──っと、いけない。あたしは花梨っていいます。スーパー美少女です」
なんだか負けたくなくて、花梨はキリっと表情を決めると、スーパーまでつけて強調する。
「確かに美少女ね。でも、すうぱぁて何?」
「すっごくって意味です。あとログアウトかセーブって知ってます?」
「ろぐあうと~? せえぶ? 何かしら? 800年生きてる私が知らないなんてっ。う~ん」
桔梗が愛らしい眉を顰めて、考え込んでいる。
(やっぱり【あの方】に会うまでわからないのかぁ~)
「婆様、かの者の謎の言葉です。深く考えてはけません」
首を傾げながら言う桔梗に、夏行が説明する。その横で花梨は真面目──を通りこして何やら深刻な顔をし始めた。
「桔梗ちゃ……様、ガチに聞いてもいいですか?」
「んもぅ、桔梗ちゃんでいいのに。なぁに? 『がち』てなにかわからないけど真面目な事?」
花梨が頷くと、桔梗はゴクリと唾をのみ身構えた。
「その胸、本物ですか?」
「お前はなにを……」
「だって、おおきくなる極意があったら知りたいじゃない。幼女でこの大きさなら……」
花梨は真剣だが夏行は呆れ、想春にいたっては氷のような視線を送っている。
「ふふふ、いやだぁ幼女だなんて若くないんだから恥ずかしいわ。とうぜん胸は本物よ? 疑うなら触ってもいいわ。なぁ~んてね。いきなりは危険──きゃんっ
「え? 冗談だったの?」
(思いっきり触っちゃった……)
「ばかっ、お前っ死ぬ気かっ」
花梨の手を夏行が慌てて引っ剥がすと、頭を抑えつけ無理やり跪かせた。その瞬間、なにかゾワっとするものが、花梨の全身を駆け巡ぐる。それは怒り、憎悪と言った言葉では、到底説明できない──どす黒い何か恐ろしいものが這い上がるような感覚だ。
(なに……これ。まずいというかやばい気がする)
「夏行! 夜叉が怒ってる。馬鹿女から手を離して!!」
青い顔をした想春が、夏行を守るように立ち身構えた。想春の顔からジワリと汗がつたい、顔は恐怖に染まっている。まるで強敵とでも対峙するかのようだ。
「想春っ! なにをしている。某ではない、花梨を守れっ」
「馬鹿! 狙われてるのは夏行だよ! 何故か夏行に怒ってる」
「なんだと!?」
夏行が想春の言葉に驚愕する。花梨は事態がつかめず、緊迫した空気にただ驚くばかりだ。
「桔梗様! どういうことですかっ? 貴女に触れたのは馬鹿女でしょ? 夏行はそれを止めようとした。なのに何故、貴女の夜叉が夏行に矛先を向けるんですか?!」
激昂した想春が、かみつくように桔梗に言う。横で夏行が「よせ」と止めるが、想春の耳に入る様子はない。
「まって、落ち着いてぇ~。私もびっくりしてるのよ~」
「誤魔化す気ですか? 貴方が夏行を殺れと夜叉に命じたのでは? 夜叉は主の安全以外に興味はない。つまり、馬鹿女の為に夏行へ怒りを向ける事はないはずだっ──信じていたのに。貴女までそうなのかっ」
想春の声が低く、纏う気配が深い怒りへと変わっていく。
「も~~ぅ! ばかばかっ。違うわよ~。落ち着いてって言ったでしょっ! せっかく宥めたのが無駄になっちゃったじゃないっ」
プンスカ怒る桔梗の後ろからすぅ~と、人影が現れた。夏行と想春の緊張感が一気に高くなるのが花梨にも伝わる。
(何あれ……黒獣と気配が似てるけど違う。あれが夜叉?……)
人影は二十歳ぐらいの端整な顔の男性だ。長い黒髪を結い上げ、金の瞳には爬虫類のように縦長の瞳孔が入っている。てっきり怒りの形相で現れると思った花梨だが、その瞳はガラス玉のように、感情的なものが感じられない。
「豹ちゃん怒らないで。想ちゃんと夏行ちゃんは、私や花梨ちゃんに攻撃するつもりはないわ」
豹と呼ばれた男の手を桔梗が優しく掴みながら、宥めるように言う。豹は桔梗の手を愛し気につかむと、無表情のまま、コクンと頷いた。だが、警戒を解く気はないらしい。視線はずっと花梨達に向いたままだ。
「ごめんなさい豹さん! つい胸の真実が知りたくて。でも凄かったから許してください」
「お前な……」
我が行いに一片の悔いなしといった顔で謝罪する花梨に、夏行が呆れながら突っ込む。
「いいのいいの。私の胸は魅力的だもの」
「桔梗様、ふざけないでください。一歩間違えば夏行は攻撃されてました。花梨は何なんです? 何故、夜叉が馬鹿女を守ろうとするんです?」
想春がいまいましげに花梨を見る。まるでお前は疫病神だといわんばかりに。
「想ちゃん、豹ちゃんが怒るからその目はやめて。神気がよめるあなたなら、わかるでしょう~? 花守だもの」
優し気な声とは裏腹に桔梗の目が威圧的に想春を見る。
「わかっています……」
「いい子ね」
桔梗が笑顔を見せると、想春はしぶしぶながら、攻撃する意図はないと見せる為、構えを解き花梨達の一歩後ろに跪いた。
「想ちゃんの言う通り、説明は必要ね。豹ちゃんが怒った事で確信がいったし、伝えてもいいでしょう。花梨ちゃんは【あの子】の主、つまり全夜叉の姫であり『元始の巫女』なのよ。だから私の夜叉も魅かれたのね。夜叉が自身の姫以外に執着するってありえないもの」
「馬鹿女が元始の巫女……これが?」
想春が馬鹿なのに? という視線を送る。その横で夏行が「やはり【あの方】の姫なのか」と硬い表情で声をもらした。
(え? 【あの子】って、おじさんの言う【あの方】なの?)
やっと本題に近づいてきたかと花梨は思う。が、同時に不安にもなってきた。そもそも【あの方】とは何者なのか、元始の巫女とは一体なんなのか? わからないことだらけだ。
「【あの方】って何者なの……」
「阿久多牟之だよ。皆嫌ってるからそう呼ぶ奴もいる。見目も人と違うしね」
思わず呟いた花梨に、後ろから想春が小声で説明する。
「あくたむし?」
阿久多牟之が何か花梨にはわからない。だが想春が綺麗な顔を歪ませて言うそれが、いいものとは考えづらい。
「台盤所におる茶色い害虫の事だ」
夏行がなんの話をしてる? という顔で花梨に聞く。
(台盤所って……響き的に台所?)
「それってゴキ──」
現実を受け止めれず、言葉がつい途切れてしまった。考えたくはないがあの茶色いものではないかと花梨は推測してしまう。虫の主など現実世界なら考えられない。だがこの世界はゲーム。道中見かけはしなかったが、虫族的な存在がいないと断言はできない。
(どうしよう……触覚と羽が生えたキャラが「ボクノゴシュジンサマ、ログアウトスル?」って言われても近づく勇気が。そもそも虫は嫌いだから無理……ああああ)
いやいや、落ち着けあたしと花梨は自分に言い聞かす。そもそも【あくたむし】の実物を見たわけではない。害虫と聞こえた気がするが、聞き違いだろうと花梨は自身に言い聞かせた。
「おじさんちょっと聞いていい? 【あの方】ってどんな人? 皆から嫌わたり、避けられたりする?」
「それは……」
夏行が気まずそうに目を逸らす。
(えぇー嘘でしょう?)
夏行が冗談で言葉を濁すとは思えない。少しずつ花梨の中であの方が茶色い【ゴ】に近づいていく。たとえ【ゴ】でないにしろ、避けたいと思われる存在なのは確かなようだ。
「花梨ちゃん、誤解よ。あの子は
「桔梗様、回りくどい説明は、こいつの為にならないよ」
想春が不敵に笑いながら立ち上がった。とたん豹の視線がぎこちなく想春へとうつり、桔梗が慌てて豹の手を握りしめる。
「想春っ!! 夜叉を刺激するなっ」
「してない。説明をしてあげようって思っただけ。誰かが悪役になってでも真実を教えてあげなきゃ。そうでしょ?」
「それは……」
夏行が痛い所をつかれたとばかりに黙り込む。桔梗まで豹の手をつかんだまま俯いた。
(え……なに、この空気。やっぱりゴキブリはマジなの?)
なんというシナリオ。男に間違われる事といい、主人公の扱いが酷すぎると花梨は嘆く。
「教えてあげるよ、阿久多牟之とは禁忌の子でね。表向きは違うことになってるけど、あの顔じゃあ隠しようがない。お陰で貴族連中が隙あらば殺そうと必死だ。ま、帝の目もあるし、今のあいつは強すぎて誰も手出しできないけど」
「殺そうと必死!? や、やっぱ見た目があれだと……」
ますます花梨は不安になる。やはり茶色いあれなのかと。
「見た目?……まぁ、そうともいえるね。髪や瞳は気味が悪いし、醜い顔を隠すためか、仮面までつけてる。おまけに黒獣との闘いで穢れたまま帰ってくるから汚くて。桔梗様がなんとかしてるけど、宮を維持しながらの浄化はとてもきついんだよ。かといって他の巫女姫達は手伝うどころか近づきもしない。禁忌の子だからとね」
(汚れてて、近づきたくない……)
「そ……そんな」
「で、あんたが予言で選ばれたわけ。つまり浄化係だよ。いっとくけど浄化は大変だよ。とくにあいつの穢れは酷い。どうせ花仕と仲良くやってれば、贅沢できるって夢見て来たんだろう? 残念だったね。今更逃げるなんて許されないよ。逃げても、あんたの場合は死しかない」
「想春!! やめぬか」
夏行が怒鳴っても想春の瞳には罪悪間の欠片もみられない。むしろ言ってやったとばかりの満足気な顔だ。
「花梨ちゃん、誤解しないで。あなたは【あの子】の生きる意味なの。私も【あの子】も、ずっとあなたを待っていたのよ」
あわあわと桔梗が首を横に振りながら否定するが、花梨は深刻な顔のままブツブツと何やら呟いている。
「想春君、どうしよう。【あの方】に近づくのは無理かも」
「ふん、今更何を言ってんのさ」
「だって! 羽と触覚が生えてるんだよ! 想春君は平気なの?」
「は?」
想春の顔が石ころのように固まる。
「そんな顔しないでくれる? あたしだって偏見は良くないと思うよ。でも、触覚が生えた人なんて、見るのは初めてだし、失礼なく会える自信なんてないよ」
「一体なんの話をしてるの。阿久多牟之ってのは例えだよ。そんなのがいるわけないだろう」
「え? 虫じゃないの?」
「お前、馬鹿だな」
「なんだ違うのか。よかったーー」
大きくため息をつき、花梨は胸をなでおろす。どうやら【あの方】は変わった風貌のようだが、ゴキブリではないらしい。
「よかったって。あんた、僕の説明を聞いてたの? 禁忌の子だよ? 穢れた奴で──
「だからなに?」
「え?」
信じられないといった顔で想春が花梨をみる。
「国を守る為、黒獣と戦ってるんならいい人じゃない。力があるのに何もしない巫女姫こそ何をしてるの? たとえ怖くて戦えないのだとしても、命を懸けて国を守ろうとする人の浄化ぐらいすべきだわ」
「……それは」
花梨の言葉に桔梗と夏行が瞳を見開く。
「ま、それでもやりたくないって事なんでしょ。ならあたしがするわ」
自信満々に花梨は胸をたたいて言う。だがそこに一抹も不安がないわけではない。
夢でみた黒獣の血は気分が悪かった。あれが事実ならとても怖いし、平然と立ち向かうのは無理だ。蛍光刀を使えば浄化ができるかもしれないが、人相手に可能かはわからない。
だが花梨は何とかできると思い込むことにした。全ての原動力は『ゲームの主人公だから』という単純な理由だ。それだけがずっと花梨を突き動かしている。いや、そう思わなければ怖くて前に進めない。ログアウトだってかかっているのだ。
「無理だろ? 他の巫女姫は見ただけで忌避したんだ、お前だって」
「あたしは違う」
(主人公だもの)
「あんたは一度、あたしの武勇伝を聞くべきだわ」
花梨は立ち上がると、レベル99に至るまでの自身の武勇伝について一人語りだした。花梨なりの配慮で、ゲーム性を除いた話にはなっているが、あきらかに嫌そうな顔の想春には、配慮する気はないらしい。
「──と、いうわけであたしは黒獣とヤンデレ神を退治する為、この世界に降臨したの。美少女には荷が重いけれど、あたしが必ず、世界を平和にしてみせるわ!」
「退治? 何を言ってんのさ? まさか……務めも知らずに来た馬鹿じゃないよね?」
「わかってるわよ。だからこのあたしがヤンデレ神を倒すって──」
終わりそうにない演説に、想春が眉をひそめ夏行に視線を送る。
「(夏行……退治とか世界平和って言ってるけど。馬鹿女は職務を知ってるの? ちゃんと説明した? 熊姫でも職務を知ってるよ?)」
「(本人は……ふ、複数同時もいけると言っていたが)」
花梨が自身に陶酔しながら武勇伝を語る中、そっと二人が呟きあう。
「(馬鹿なの? どうみても経験ないでしょ。僕を見た時だって初な反応だったし。夏行はそっち方面が鈍すぎ。しっかりしてよ!!)」
「(……すまん)」
落ち込む夏行に、想春がため息をつく。
「(ここは妓楼じゃない。僕の時のように金を積んでも、任務を放棄はできないんだよ)」
「(わかっておる。もう一度説明を……)」
「(あ、今は駄目、あの野蛮ぶりだと帝を殴りに行くかもよ? それに逃げられたら厄介だ。堕ち神の手に落ちれば、その瞬間、斎国が終わる──といっても、ここも安全じゃないけどね。元始の巫女なら、桔梗様が守っても貴族連中や、他の花冠が黙ってはいないよ)」
「(大丈夫だ。戦闘においては出来た女でな。それに選定の儀は最速でも準備に半年はかかる。あやつの立場を盤石にするには十分な時間だ。協力者もおる故、心配ない)」
「(ちっ、それであの色魔の所に通ってたのか。どっちにしろ面倒くさそう。頼むから僕を巻き込まないでね。女絡みだけは御免だよ)」
やがて長い花梨の武勇伝が終わったのだろう。桔梗がパチパチパチと拍手しはじめた。横にいる豹も彼女にならい拍手する──ただし無表情だが。
「すごいわ、花梨ちゃん。黒獣退治を自ら申し出るなんて。巫女姫としての資質は完璧ね。でもそんな危険な事はしなくていいのよ。花梨ちゃんには安寧な人生を送って欲しいの。ただこの宮にいて、ゆるりと過ごしてくれればいいのよ」
桔梗が瞳をうるわせて花梨を見る。花梨はその視線に妙な違和感を感じた。花梨に言ってることなのだが、他の誰かに言ってるような気がしたのだ。
「桔梗様ってば、大丈夫ですって。あたしが、か弱そうだから不安なんですか? ちょっとやそっとじゃやられませんってお話ししたでしょう?」
うへへへ~と花梨が笑う。
「そうね。さてと、私の審議も終わった事だし、さっそく始めちゃいましょうか」
「──ん? 始めるって? なにを?」
(まさか!! 勉強じゃないよね!?)
ニコニコする桔梗から感じる勢いのようなものに、花梨はたじろぐ。
「もちろん【選定の儀】よ」




