エピローグ
半年の猛勉強を経て、私は二回目のT大受験に成功した。
夏休み明けの進路変更は周囲の人の度肝を抜いた。担任からは気が違ったのかと疑われたが、その後に模試の結果を突きつけることによって絶句と共に賛成をもぎ取った。友達からは夏休みデビューと言われた。両親は姉のことがあるからか、何かしら理由があるんだろう? と生暖かい視線をもらった。理解がある親って助かるなー、くそぅ。
そして迎えた入学式。
以前と同じ学部に入った私は、講堂で周囲を探索していた。さすがは大学、席順は自由らしい。かといって入り口で立ち止まっていても誘導の人に追い立てられるため、私は牛歩戦術で周囲を見回しながら席へと歩いていた。
姉は言っていた。確実じゃないと。
私だって分かっている。いくつも可能性はある。年齢が違っているかもしれない。この大学には入学していないかもしれない。同じ顔じゃないかもしれない。私のことを覚えてないかもしれない。
――私だと、分かってもらえないかもしれない。
不安でいっぱいだ。そもそも、あちらの私とこちらの私では顔が違うのだ。あっちは磨けば美人になる顔だったが、こっちは普通の顔なのだ。精一杯の化粧をしてきたけど。
私自身、もし斎の顔が違っていたら一発で見分けられる自信はなかった。薄情ですまん。しかし人は見た目が八割だ。
結局それらしい人間を見つけられなかった私は、若干のしょんぼりした気分を抱えつつ席に着いた。
しばらくして始まった入学式は、やはりあまり面白いものではなかったので多少の眠気を誘っていたのだが。
『新入生代表挨拶――安河内斎』
マイクから聞こえてきた名前に反応する。
斎。珍しい名前というわけでもないけど、ありふれた名前というわけでもない。
私は壇上の人間に注目した。壇上に出たのはごく普通の男の子に見えた。斎とは違う顔に見えた。
でも、私は確信した。
彼は斎だ。
入学式が終わってオリエンテーションに移るとき。移動の最中私は斎の姿を探した。
そして見つけた彼に、掛ける言葉は決まっていた。
「福増斎君!」
私の言葉に、驚きに目を瞠った彼は呟いた。その表情には、わずかに前の斎の面影が見えた。
「千佳……?」
彼の声は震えていた。
「……やっぱり来たな、アホ千佳」
斎は泣きそうな顔で笑った。
喜びが胸の中に広がる。
嬉しい。嬉しい。嬉しい!
思わず彼に飛びついた。斎は受け止めてくれた。
「同じ大学に入れたね!」
それまで考えていた不安や心配が一気に飛んでいく。何を言おうか何日も悩んでいたはずなのに、そんな言葉も一切合財飛んでいっていた。
少しの間驚いたように固まっていた斎は、やがてこらえ切れないといった様子で笑い出した。
「同然だろ。俺が教えたんだから」
「その言い方はひどい!」
抗議する私に、斎は楽しそうに笑った。
「これからもよろしくな、千佳」
いつかの台詞を斎が再び口にした。
「うん。ずっと一緒にいようね!」
私は今度は何の躊躇もなく返事をした。
彼の腕の中が、もう二度と離れない現実になった気がした。
公衆の面前で再開を喜ぶバカップルと認知されていると知ったのはその翌日だった。
これにて完結。
久しぶりに書いたので色々足りないところもありますが、お付き合い頂きありがとうございました。
2025.4.15微修正




