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悪魔の双子と、危険すぎる同居生活!?修羅場とキス未遂だらけの毎日  作者: 雪沢 凛


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第22話 崩れる均衡、濡れた翼

 アリアンがシャワーを終えて出てきたとき、ノックスはすでにラフな服に着替えていた。

 だが、その姿はソファに沈み込み、肩がかすかに震えている。低く、くしゃみが一つ。


「ノックス!?……だ、大丈夫?顔、真っ赤だよ!」

 慌てて駆け寄るアリアンの声に、ノックスはゆっくりと視線を上げた。

 翠の瞳は熱に染まったように潤んでいるのに、声は相変わらず淡々としていた。


「……大丈夫だ。シャワー浴びればいい。」


 そう言って、彼はのろのろと立ち上がる。

 濡れた前髪を指先で払いながら歩き出す背中には、普段では考えられないほどの――脆さが滲んでいた。


 バスルームのドアが静かに閉まる。

 中からシャワーの音が響きはじめて、アリアンはやっとひと息ついた……はずだった。


 けれど、時間だけがやけに長く感じる。


 十五分、二十分……


(まだ……?長すぎない……?)


 ソファに座っても、落ち着かない。指先は袖口をいじり続け、視線は階段の先の扉に吸い寄せられる。


(ノックス……しようかな……でも、変だよね……でも……)


 一歩、また一歩と近づき、ついにバスルームの前で立ち止まった瞬間――


「……なにしてんの?」

 背後から声が飛ぶ。


「ひゃっ!」

 アリアンが飛び上がるように振り返ると、そこには濡れた銀髪を揺らしながら入ってきたセレナがいた。


「……どしたの、その顔。真っ赤。」


「な、ななな、なんでもない!その……ノックスが……まだ出てこなくて……ずっと……」


「……どのくらい?」


「た、たぶん……三十分くらい……」

 その答えに、セレナの眉がぴくりと動く。


「……」

 次の瞬間、彼女は迷いなくドアノブをつかみ――

「開けるわよ!」


「えっ、ちょ、待ってセレ――」


 ガチャリ。


 熱気が奔流のようにあふれ出す。

 白い蒸気が視界を覆い、シャワーの音は細切れで、どこか不穏なリズムに変わっていた。


 その霧の奥に――

 膝をつき、壁にもたれる黒い影。

 濡れた髪が額に張りつき、肩が小刻みに震えている。


「ノックス……?」

 アリアンの声が震える。


 タオル一枚を腰に巻いただけの彼の背には――

 紅と黒の紋様を刻んだ、悪魔の翼が展開していた。

 濡れた翼がゆっくりと揺れ、魔力の波動が微かに弾けている。


 翠の瞳は半分閉じられ、熱に潤んで、いつもの冷静さはどこにもない。


「……魔力、……暴れてる……」


 低くかすれた声。

 水滴が鎖骨から胸筋へと流れ落ち、白いタイルを打って小さな波紋を広げた。


「っ……!」


 セレナの心臓が跳ねる。

 綺麗すぎる――そんな言葉が、思考より先に浮かんでしまう自分に、苛立ちさえ覚える。


「バカ、なんで言わないのよ!」

 彼女は迷わず飛び込み、肩を支えた瞬間――


 熱い。

 皮膚の下で魔力が荒れ狂い、炎みたいに熱を帯びていた。


「ア、アリアン!タオル!早く!」


 鋭い声に、アリアンは半分泣きそうになりながら棚をひっかき回す。

 タオルをつかむ手が震えて、ほとんど落としそうになりながら――


(見ない……見ない……っ、ムリ!!見えちゃってる!!)


 翼の付け根、しなやかな背筋、滴る水滴。

 目に焼き付いて、逃げ場がない。

 セレナはタオルをばさりと彼の肩に掛け、低く唸る。


「立てる?――いや、ムリね!」


「……大丈夫だ……」

 ノックスの声は掠れていて、なおも強がるように唇を動かすが――

 次の瞬間、その身体がぐらりと傾いた。


「ちょっ、バカ!諦めろ!」

 セレナが必死で支える。

「アリアン!手貸して!」


「え、わ、わたし!?」


 世界でいちばん見られたくないシーンに巻き込まれる未来が、一瞬で確定した気がした。

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