土の神殿へ
水の神殿をあとにしたカイたちは、風と水の鍵を手に入れた今、次なる目的地──大地に抱かれし「土の神殿」へと向かっていた。
しかし、旅の空の下、カイの瞳は晴れなかった。
エルナが気づき、声をかける。
「……まだ悩んでるのね、リクのこと?」
「……ああ」
カイは空を見上げ、拳を握る。
「リクはずっと俺たちの前を走ってた。戦術、創造、判断力、全部でさ……。でも今、あいつはいない。俺たちだけで、奴を取り戻すんだ」
エルナも深くうなずく。
「だからこそ、今は自分の力を磨く時だよ」
野営地近くの断崖で、カイは一人、剣を振るっていた。
岩壁を斬りつけ、魔力を流し、火花を飛ばす。
(力を一点に集中して、瞬間で爆発的に放出……でも、制御できないと反動で自滅する……)
剣を地面に突き立てる。思い出すのは、プロミネンスをリクと共に創り上げた時の感覚──創意の共鳴。
今は、自分だけで創らねばならない。
その時、ふと風に混じって、地中の魔力の流れが彼の足元を震わせた。
「……地脈……?」
彼は地面に手を当てる。確かに、脈打つように流れる魔力を感じる。
「わかった。地の力と融合させるんだ──!」
【新必殺技:"グラウンド・インパルス"】
翌日。ノクスとエルナが見守る中、カイは断崖の中央に立った。
「見てろよ。これは、俺が俺自身で創った一撃だ」
魔力を剣に収束させ、大地のエネルギーを呼び覚ます。
「──グラウンド・インパルス!」
踏み込みと共に、地を這う爆発的な魔力が剣から走る!
前方の巨大な岩が、一瞬にして砕け、粉塵が舞う。
それはリクの創造物に頼らずとも成立する、カイ自身の力による渾身の一撃だった。
ノクスが低く唸った。
「……力だけじゃない。地の流れを読み、制御し、放った。これは、お前だけの力だ、カイ」
エルナも微笑む。
「これで、リクがいなくても――私たちは、進めるね」
カイは頷き、剣を肩に担ぎ直した。
「いや、違う。俺たちが前に進むことで、リクを取り戻すんだ」
水の神殿の戦いから数日後。地元の地図師からの情報で、土の神殿が山岳地帯を越えた遥か彼方──大陸の背骨と呼ばれる巨大山脈の向こうにあることが判明した。
エルナが地図を覗き込みながら、小さくため息をついた。
「……これ、普通に歩いたら一ヶ月以上かかるわね」
「それ以前に、魔力の自然回復だけじゃ身体がもたない」とノクスも苦笑い。
「だったら馬車だな」とカイが言うと、村人が紹介してくれた頑丈な輸送馬車に3人は乗り込んだ。
馬車は緩やかな野道を進む。外には広がる草原、時折通り過ぎる小さな村。風が柔らかく、車輪の音が心地よいリズムを刻んでいた。
エルナは窓から風にあたるように身を乗り出し、目を細めた。
「……こうやってゆっくりするの、久しぶりかも」
カイは座席に背を預けながら、剣の手入れをしていたが、手を止めて言う。
「戦いばかりだったもんな……旅って、本来こういうもんなんだろうな」
ノクスは相変わらず無表情だったが、彼なりにリラックスしていた。影を操る力を軽く遊ばせながら、言葉を投げる。
「……俺はこういう静寂も悪くないと思う。ただ、こうしてる間にもリクは……」
重い空気が流れかけたその時、エルナがそれを払うように微笑んだ。
「だからこそ、今は力を蓄えるのよ。回復も、大事な戦術のうち」
旅の途中、三人は野営をすることにした。焚き火の炎が、草原に温かな灯を落とす。
エルナが弓を手入れしながらぽつりと話し始める。
「カイ……あの新しい技、すごく良かったわ。“グラウンド・インパルス”だったっけ?」
カイは薪をくべながら、照れくさそうに笑った。
「ああ。お前らがいたから、ここまで来られたよ。……本気で、リクを取り戻す力を持ちたいと思った」
ノクスも少しだけ頷く。
「仲間を想って磨いた力……それが本当の強さなんだろうな」
焚き火の上で火花が弾けた。その音が、まるでこれからの旅の新たな決意を象徴しているようだった。
乾いた風が砂と共に吹き抜ける、谷あいの町──サンドベイル。大陸を横断する者たちにとって重要な中継地であり、旅人・商人・傭兵が集う活気ある町だ。だが一方で、治安が良いとは言えない場所でもあった。
馬車が町に到着すると、エルナが顔をしかめる。
「……空気が違う。何かが、妙ね」
「ここじゃ何が起きても不思議じゃない。情報は早めに集めて、長居は避けよう」ノクスが警戒を促す。
3人は分かれて情報を集めることにした。カイは鍛冶屋、エルナは宿屋、ノクスは影のネットワークを通じて裏の情報屋へ。
宿屋のカウンターで、エルナは老主人から重要な情報を得た。
「土の神殿は“黄昏の壁”の向こうにある。だが、今は岩崩れで通行できないって話だよ。代わりに使えるのが、地下に通じる“聖獣の迷宮”……だが、誰も生きて戻っちゃいない」
一方、ノクスは裏通りで奇妙な名前を聞いた。
「“ドレアス商会”……旅人を監視してる連中がいる。どうやらオーダの残党かもしれない」
その夜。宿屋に戻ったカイたちは一息つこうとしていたが、突然、窓ガラスが割れて爆風が吹き込んできた。
「伏せろッ!」
カイが叫ぶと同時に、煙の中から黒衣の者たちが乱入してきた。額には「ドレアス」の印。
「リクを知っているな。お前たちに用がある」
「情報を渡せ。さもなくば……!」
カイはすぐさま武器を構えた。剣はもう限界だったが、意志は揺るがない。
「……絶対に、お前らなんかに渡すもんかよ」
ノクスが影を駆け抜け、敵の背後に回る。エルナはすでに矢を構え、三方向から敵を囲む。
「“シャドウリンク”!」
ノクスが叫ぶと、敵の足元から影が伸び、動きを止める。
「“エルナ・エクリプス”!」
天井を貫くような光の矢が放たれ、敵の中心に突き刺さった。
カイも限界寸前の剣に魔力を込め、叫ぶ。
「プロミネンス・ラストブレードッ!」
炎の刃が燃え上がり、残された敵を一閃する。数秒後、静寂が戻る。
【町の外へ──再び旅路へ】
夜明け前。騒ぎを避けるため、3人はサンドベイルを早々に後にした。
カイは深く息をつきながら呟いた。
「……リク、どこにいるんだ。どんな地獄でも、迎えに行くからな」
仲間たちも無言で頷いた




